高田敏編・新版行政法(有斐閣、200 9.06刊行−以下は2007年5月に提出済みの原稿である。
 
(「損失補償」も分担執筆しているが、掲載省略。判例部分のみを緑字に変更した。)


 第三節 行政上の規範定立行為

 一 序 説
 
行政上の規範定立行為  ここで「行政上の規範定立行為」とは、行政作用に関する規範・目標・基準等を行政機関が設定する行為のうち、行政計画(策定行為)を除いたものをいう。但し、法的拘束力ある行政計画は以下でいう「行政立法」との区別が(例、用途地域その他の地域・地区に関する都市計画)、法的拘束力のない行政計画は以下でいう「行政基準」との区別が(例、環境省告示形式の諸種の環境基準)、それぞれ不明瞭であることがある(なお、行政組織に関する定めは、本章の対象ではない)。
 国会の法律や地方公共団体の議会の条例が行政作用を現実に行うために必要な規範をすべて定めていれば、行政上の規範定立行為は必要でなくなる。しかし、法律や条例(=議会立法)による定めの範囲や密度には限界があるため、行政上の規範定立行為がほとんど不可避的なものとして数多く行われている。

 
行政立法と行政基準  行政作用に関する「行政上の規範定立行為」は「立法(行為)」たる性格をもつか否かによって、「行政立法」と「行政基準」の二つに大別される。
 「行政立法」とは、行政機関が制定する行政作用に関する(成文の)規範であって、行政主体又は行政機関を対外的に(すなわち私人や裁判所との関係で)拘束するものをいう。「裁判規範」になりうるものは、この中に当然に含められる。このような対外的拘束力を、「外部的効果」と表現することがある。
 右にいう「外部的効果」は、伝統的な「法規」概念や憲法四一条の「立法」概念の意味内容の問題としても論じられてきたところであるが、つぎの諸点に留意すべきである。
 第一に、私人の権利・義務等の「主観的」地位との関連性にのみ着目して、私人の権利義務その他法的地位を拘束的に変動させる効果としてのみ理解すべきではない。私人の「主観的」地位には関係がなくとも重要な行政作用(財産管理、財務会計処理等)を規律する「立法」はある。
 第二に、憲法四一条の「立法」について憲法学説上は有力に主張されているとされる「一般的・抽象的な法規範」という理解は、「立法」概念を「法」を再び用いて定義しており、学説とすらいい難い。「…法規範」という場合の「法」の意味こそが問題だからである。
 第三に、すべての「外部的効果」をもつ規範は、国においては法律又は法律による授権にもとづく(又は上位の行政立法の「再委任」にもとづく)行政立法としてのみ制定されるべきである、と語ることは誤りではない(そして、このことをドイツの伝統的学説のいう「法律の法規創造力」原則の帰結だと説明することは不可能ではない)。しかし、このことをもって、規範制定に関する「法律の留保」については「(完全)全部留保説」が採用されている、と理解するのは誤りである。規範制定についての「法律の留保」の問題とは、いかなる事項・対象が「外部的効果」をもつ規範によって規律されるべきか、という問題に他ならない。すでに述べた「立法」概念や「外部効果」の説明は、この問題とは無関係であり、この問題を解決するものではない。
  * 右に述べた意味での「行政立法」に近い従来の概念が「法規命令」である。ここでこの概念を用いない理由は、第一に、この概念を用いると複雑な議論と検討が必要な「法規」という語の意味を問題にせざるをえなくなること、第二に、伝統的には「命令」とは国の行政立法を意味したので、地方公共団体の行政立法を含み難いという限界があること、である。

 
行政立法  行政立法には国の行政立法と地方公共団体の行政立法がある。国の行政立法を総称して「命令」ということがある(行手二条一号・八号イ参照)。
 憲法四一条は国会を「国の唯一の立法機関」と定めているので、国の行政機関による立法(国の行政立法)には法律によるそのための授権(立法の委任)が必要である。但し、これの例外を認めることとなる学説もある(後述→委任命令と執行命令)。
 地方公共団体の行政機関による立法(自治体の行政立法)にも、法律又は当該地方公共団体の条例によるそのための授権が必要である。但し、必要な授権がどの法律又は条例(あるいはどの条項)によってなされているかは不明瞭な場合がある。また、憲法九四条にいう「条例」制定権の保障の中に長の立法権の保障も含まれているとすれば(憲法九四条の「条例」概念についての広義説)、長の規則制定は論理的には憲法によって直接に授権されていると解されることになるであろう(ここではこの見解は採らない)。なお、地方公共団体の議会が制定する条例は、議会立法(議会制定法)であって行政立法ではない。

 
行政基準  行政作用に関する行政上の規範定立行為のうち行政立法ではないもの、すなわち、行政主体又は行政機関を対外的に(すなわち私人や裁判所との関係で)拘束する効力をもたない規範を、ここでは行政基準という。一般的には、「行政規則」と称されることが多い。
 「行政規則」は伝統的には、一部の組織規範や「特別権力関係」の内部を規律する規範(「営造物利用規則」等)を含むものであった。以下では、前者は、行政作用に関する章であるので扱わない。後者も、「特別権力関係」概念自体に問題があるとももに、「営造物利用規則」等は個別的に行政立法・行政基準・行政契約の約款等に分解して性格づけられるものと考えられるので、独立の類型としてはとり上げない。
  * 「行政基準」という語は、本書でいう行政基準と「行政立法」の総称として用いられることがある。さらに、これらに「行政計画」を加えたものの総称して用いられることもある。
  ** 「行政規則」という語は元来はドイツ行政法学上の概念の訳語である。憲法規定上の「規則」(憲一六条・八一条)、国の委員会や庁長官等の「規則」(行組一三条)、地方公共団体の長の「規則」(自治一五条)の存在、さらに各省令等には「…法(法律)施行規則」という標題をもつものが少なくないこと、を考慮すると、紛らわしさを避けるためにも、「行政規則」という語はもはや使用すべきではないであろう。

 二 行政立法
 
委任命令と執行命令  主として国の行政立法について、委任命令と執行命令の区別が語られることがある。そして、授権の態様と規律の内容の二点で差異があるとされてきた。すなわち、委任命令とは、法律の個別的な授権にもとづき、私人の権利義務の内容を定めるものであり、執行命令とは、すでに定められた私人の権利義務の詳細又は法律を実施するために必要な技術的細目(例えば届出書・申請書の様式等の手続的な事項)を定めるもので、法律の一般的な授権で足りる、とされる。また、省令についての国家行政組織法一二条一項(「各省大臣は…法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、…省令を発することができる」。内閣府令についての同旨、内閣府設置法七条三項も参照)はこの二区分を前提としているとも解されている。
 執行命令についての一般的な授権とは右のような組織法律上の授権で足りるとされるが、組織法上の規定が行政作用に関する立法の根拠たりうるか等の問題があろう。また、執行命令としての政令については右のような組織法律上の授権も現行法律上は存在しておらず、憲法七三条六号(「…を実施するために、政令を制定すること」)が根拠とされることもあるが、この場合にこの規定が、法律の授権を不要とするという意味で憲法四一条の例外を定めたものという明確な説明は必ずしもなされていない。さらに、内容的に見て、私人の権利義務を内容とする定めとその具体的詳細は、当然ながら明瞭には区別し難い、という問題もある。
  * 東京高判昭二九・五・二九判時三〇号三頁は、「現憲法下における執行命令」は旧憲法下の独立命令と同様に「行政機関が独自に制定する命令」であると説明する。一方、行政作用法令上の授権規定を欠くことを理由に省令上の申込方法の定めや届出に関する規定を無効とした判決に、福島地判昭二八・五・二九行集四巻五号一〇七〇頁鹿児島地判昭五二・一・三一行集二八巻一=二号四六頁那覇地判昭五七・一一・一〇訟月二九巻六号一一一四頁がある。

 
権限又は形式名称による種別  国の行政立法は、まず、制定機関とその一般的名称(形式名称ともいう)の差違により、内閣が定める「政令」(憲七三条六号)、内閣府の長としての内閣総理大臣が定める「内閣府令」(内閣府七条三項)、各省大臣が定める「…省令」(行組一二条一項)、内閣府・各省の外局としての各委員会や各庁長官が定める「…規則」等(内閣府五八条四項、行組一三条一項。国家公安委員会規則、文化庁規則等。「外局規則」と総称する)、各大臣の所轄に属さない行政機関(独立機関)としての人事院、さらに会計検査院が制定するこれらの「規則」(国公一六条、会検三八条)に分けられる。
 さらに、各省大臣や外局としての各委員会・各庁長官が定める「告示」(行組一四条一項、内閣府五八条六項参照)も行政立法であることがあり(例、生活保護基準−生活保護八条一項、不公正な取引方法の指定−独禁二条九項)、人事院「指令」についても同様である(国公一六条・一八条・五五条三項参照)。
 地方公共団体の行政立法は、主として長の「規則」(自治一五条)および地方自治法にいう執行機関としての各委員会(自治一三八条の四第一項)の「規則」(同上二項)である。その他、各委員会の「規程」(自治一三八条の四第二項。選挙管理委員会規程・固定資産評価委員会規程等)や公営企業管理者が定める「企業管理規程」(地公企一〇条)も行政立法であることがあり、国の場合と同様に行政立法としての「告示」もある。
  * 行政手続法二条一号は「命令」は「告示」を含むものとしているが、「告示」のすべてではなく行政立法たる性格をもつものに限られると解される。また、同条八号イが「命令」の中に含めている「告示」は、行政立法たる性格をもつもののうちさらに「処分の要件を定める告示」に限定されている(後述→事前手続)

 
公布・公示  行政上の規範定立行為が「立法」となるためには、「立法」行為の授権(委任)のほか、定立した規範内容を一般私人に周知せしめること、すなわち公布または公示が必要である。
  法律の場合と同様に国の行政立法である政令等についても、それらの公布・公示の方法等を明確に定めた憲法規定や関係法律は存在しない。最高裁は「公式令廃止後も」、他の方法によるべきことが明らかな場合でない限り、「法令の公布は従前通り、官報をもってせられるものと解するのが相当」であると述べ(最判昭和三二・一二・二八刑集一一巻一四号三四六一頁)、その後公布は官報に掲載するよって行うことがほとんど「慣習法」化している。
 地方公共団体の行政立法である長や各委員会の規則等の公布・公示の方法等については、地方自治法が当該地方公共団体の条例で定めるべき旨を規定しており(自治一六条四・五項。「公告式条例」と称することが多い)、各地方公共団体の「公報」への掲載によるのが通例である。 

 
包括的授権の禁止  国の「唯一の立法機関」は国会であるので、その趣旨を損なうような行政権への立法の委任(=授権)、すなわち「広汎な」、「白紙的」あるいは「一般的包括的」な授権は憲法上許されない。最高裁も「具体的」授権を要求し、一方で「広範な概括的」授権は違憲であるとする(最判昭二七・五・一三刑集六巻五号七四四頁最判昭二七・一二・二四刑集六巻一一号一三四六頁)。地方公共団体の行政立法については長の規則の性格・位置づけをどう見るかという問題に関係するが、基本的には国の場合と同様のことが言えるだろう。
 問題は「具体的」と「広範な概括的」との区別であるが、これの基準は明瞭ではなく、判決によって行政立法のための授権自体が違法(違憲)とされたことも稀である(稀な例、最判昭二七・一二・二四前出大阪地判昭五七・二・一九行集三三一二一一八頁京都地判昭六三・一・一九判タ六九七号二〇五頁)。関係する私人の権利・法益の性格や行政領域の差違を考慮しつつ、憲法原理上の「法律の留保」(とくに議会立法自体の規律密度)の一問題であることや憲法上の罪刑法定主義・租税法律主義や地方自治法上の公共施設設置管理条例主義(自治二四四条の二)、公務員法上の給与等法定主義(地公二四条六項等)等の具体的適用の問題でもあることを意識して、個別的に検討する必要がある。
  * 最高裁は国家公務員法一〇二条一項による公務員の政治的行為の定めの人事院規則への授権の合憲性を一貫して肯定している(最判昭三三・五・一刑集一二巻七号一二七二頁等)。教科用図書検定規則(文部科学省令。この下位に告示・同検定基準がある)のためのかなり概括的な授権規定(学教八八条)についても同じ結論である(最判平五・三・一六民集四七巻五号三四八三頁)。
  ** ドイツ基本法八〇条一項二文はこの問題に関して、「…授権の内容、目的及び範囲は(当該)法律において明確でなければならない」と定めている。ここでの「範囲」は「程度」、「明確で」は「規定され」と翻訳されることがあるが、いずれも 正確ではない。
 
 
再委任  行政立法を授権された行政機関が別の行政機関にその一部を授権することを「立法の再委任」という。学説上には全面否定説、限定的否定説もあるが、実際には罰則も含めて再委任は広く行われている。最高裁も罰則の再委任が許容されることがある旨を述べている(最判昭三三・七・九刑集一二巻一一号二四〇七頁)。
  * 最高裁が行政立法性(法規性)を肯定していると解される文部科学省告示・各学習指導要領も、学校教育法施行規則(文部科学省令)による再委任にもとづくものである(最判平二・一・一八民集四四巻一号一頁等参照)。 

 
内容的適法性  行政立法への授権が適法(合憲)であっても、それにもとづく行政立法の内容が上位の行政法規、とくに法律に違反している場合には、当該行政立法の法規違反の部分は無効となる。授権自体の合憲性は(再委任の場合を除き)議会に向けられた要求であるが、この場合は、授権された行政機関の側に向けられた適法性(主として法律適合性)確保義務の履行が問題になる。法律適合性は、授権条項適合性と授権条項以外の関係条項や授権法律全体の趣旨との適合性にいちおう分けられるが、授権条項が後者に適合しない内容を授権している筈はないと解されるので、両者を厳密に区別することはできない。
 適法性判断は、法律の解釈を前提とする。また、行政立法に裁量の余地が認められることもありうるが(これを行政立法裁量という)、この場合でも裁量権行使の仕方の適否や内容の合理性(裁量権行使の逸脱・濫用)の有無がなお問題になりうる。
 なお、二〇〇五年改正の行政手続法(二〇〇六年四月施行)は、「命令等」制定機関(政令等の閣議決定による場合は政令等の立案をする各大臣)は「命令等」を「定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない」と確認的に明記し(三八条一項)、さらに、実施状況・社会経済情勢の変化等を勘案して「命令等」の内容の「適正を確保」する努力義務を課している(三八条二項。→行政手続法)。
 行政立法の適法性を否定した主な最高裁判決に、以下のものがある。
 @最判昭四六・一・二〇(民集二五巻一号一頁)―農地法施行令旧一六条は農地法八〇条一項が予定している売り戻しすべき農地の範囲を限定しており無効とした。
 A最判平三・七・九(民集四五巻六号一〇四九頁)―一四歳未満の幼年者の在監者との接見を原則的に禁止する旧監獄法施行規則一二〇条・一二四条は旧監獄法四五条の趣旨に反し同法五〇条の委任の範囲を超え無効とした。
 B最判平一四・一・三一(民集五六巻一号二四六頁)―児童扶養手当の支給対象から父親認知児童を除外する児童扶養手当法施行令一条の二旧第三号括弧書は児童扶養手当法の趣旨・目的に照らして支給対象児童との均衡を欠き委任の趣旨に反して無効とした。
 C最決平一五・一二・二五(民集五七巻一一号二五六二頁)―戸籍法五〇条二項の委任による同法施行規則六〇条が社会通念上常用平易が明らかな文字を定めていない場合には、同条は法による委任の趣旨を逸脱し無効とした。
  * 最判平二・二・一(民集四四巻二号三六九頁)は、 刀剣類の所持が許容されるための登録に必要な鑑定の対象となる刀剣類を日本刀に限定していた銃砲刀剣類登録規則(文部省令)四条二項について、授権規定である銃砲刀剣類所持等取締法一四条三・五項は鑑定の基準の設定につき所管行政庁に専門技術的観点からの一定の裁量権を認めていると解し、鑑定基準設定の中には鑑定対象の限定も含まれているとして適法とした(二名の反対意見があった)。

 
事前手続  個別の法律により、第一に、国会による事後承認等(災害基一〇九条三項〜七項)や国会への事後報告の必要性(行組二五条一項)が定められていることがあり、第二に、利害関係私人に行政立法の制定申出権が認められていることがあるが(工業標準一二条等)、いずれも稀である。第三に、審議会類への諮問・当該機関による答申が要求されるていることは少なくない(河四条二項、電波九九条の一一等)。第四に、公聴会の開催等による一般私人又は利害関係人からの口頭での意見聴取が要求されていることある(独禁七一条、景表五条一項、労基一一三条等。事業認定の利害関係人に公聴会開催請求権を認めるものとして、収用二三条)。
 広く一般私人から文書による意見を聴取する制度は閣議決定「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続」(一九九九年四月施行。いわゆるパブリック・コメント手続)により、「規制」に関する行政立法および行政基準について、行政上の措置として導入された。この制度の運用の経験をふまえて、二〇〇五年改正の行政手続法(二〇〇六年四月施行)は、「命令等」について「意見公募手続」を定めた(三九条〜四五条。→行政手続法)。行政立法のほか、行政基準である「審査基準」、「処分基準」、「行政指導指針」も対象となる。但し、「処分の要件を定める」ものではない告示は含まれていない(想定されるのは、諸種の地域・区域設定をするなど個別処分の要件ではなく前提又は基礎になっていると考えられる告示である)、という問題もある。
  * 行政立法が抗告訴訟の対象となるかどうか等の行政訴訟上の論点については、→処分性(抗告訴訟の対象)等。

 三 行政基準
 
基本的な法的性格等  行政基準が行政立法ではなく「外部的効果」をもたないということは、それぞれが不可分に関連しあっているが、より具体的には、次の三点を意味する。
 第一に、行政作用との関係について、ある行政作用又は行為が行政基準に適合しているか否かは当該行政作用の適法性・違法性とは関係がない。行政基準に違反する行政作用又は行為も、そのことだけではただちに違法との評価をうけない。
 第二に、私人の権利義務その他法的地位との関係について、行政基準はこれらに関係する「内容」をもつことがあるとしても、これらを設定又は変動させる直接の法的「効力」をもたない。
 第三に、裁判所の権限との関係について、行政基準は裁判所を拘束せず、裁判所は行政作用の司法審査に際して行政基準を裁判基準として直接に適用することはできず、適用する必要もない。行政作用の適法性は憲法や法の一般原理の他はもっぱら行政法規に適合ているかどうかによって判断される(最判昭四三・一二・二四民集二二巻一三号三一四七頁は以上三点を「通達」につき簡潔に述べている。なお、かかる法的性格は抗告訴訟、とりわけ取消訴訟を念頭においたもので、国家賠償請求訴訟等についてもそのまま妥当するかは別に検討を要する)。
 以上の基本的性格は近年揺らいでいるとされるが、その現象を「外部化」又は「相対化」と表現するのは厳密には又は法的には正しくないであろう。基本的には、事実上の機能が結果的に行政立法に接近する又は類似になることがある、という事実上の現象に関する表現であると考えられる。
 但し、右のような基本的性格から、行政基準の公開や定立手続に関する何らかの法的要請が生じるとは伝統的には考えられてこなかったが、行政手続法(二〇〇六年改正施行)は行政立法に加えて行政基準の一部についても公表や定立手続に関する設けるに至った(後述→定立・公開と事前手続、さらに→行政手続法)。事実上の機能の大きさを考慮して、法制度上も「外部化」又は行政立法との「同一化」が図られた、といえる(但し、すべての行政基準についてではない)。
 なお、行政基準は、それを定立した行政機関の下級行政機関およびその担当者である部下公務員に対して、その定めの内容・文言に応じた「内部的」拘束力をもつ。

 
実施基準と代替基準  行政基準はまず、行政法規(行政に関する議会立法と行政立法。あるいは法令と例規)を実施するために定立されることがある。行政法規は不確定で抽象的な概念を用いたり、行政機関に行政作用の具体的実施に際して裁量の余地を付与したりしており、行政法規上の定めだけでは現実に行政作用を実施するためには不十分で、具体的な基準・指針類がなおも必要な場合が少なくないからである。いわゆる「法律の留保」が及ぶ行政作用のほか、「法律の留保」が理論上は及ばなくとも実際には個別の行政法規上に関連する定めがある行政作用に関して、関係行政法規を実施するために定立される行政基準を「行政法規実施基準」と称することができる(但し、一般的な用語ではない)。
 一方、いわゆる「法律の留保」が及ばないと考えられていることもあって、関連する行政法規が全くまたはほとんど存在しないままで行われている行政作用も存在する。この場合に、現実に当該行政作用を実施するために定立され、関連行政法規、とくに授権規範の欠如と制約規範の欠如又は不十分さのためにあたかも当該行政作用の根拠となり、行政法規に代わって当該行政作用を規律しているかのごとき行政基準が定立されうる。これを「行政法規代替基準」と称することができる(但し、一般的な用語ではない)。
 「行政法規実施基準」の代表的な類型は、解釈基準と裁量基準であり、「行政法規代替基準」の代表的な類型は、給付基準と指導基準(行政指導指針)である。

 
解釈基準  行政法規実施基準のうち、行政法規の用いる文言等の意味が一義的には明瞭でない場合に、当該行政法規の定めの「解釈」を示したものを、解釈基準という。行政基準の法的性格からして、これが裁判所による行政法規の解釈を拘束することはない。裁判所の法解釈は行政機関のそれに当然に優先する(最判昭三三・三・二八民集一二巻四号六二四頁―パチンコ球遊器通達事件―参照)。
 但し、第一に、行政法規の解釈は、裁判所によってではなく、まず第一次的には解釈基準の設定を通じて行政機関により示される。そして、行政基準の違法性(解釈基準の場合は解釈の誤り)が裁判所の判決により確定するまでは、またはそもそも行政基準の違法性が訴訟で問題にされることがなければ、行政基準は現実の行政作用のための、行政法規よりも詳細な基準として機能し続ける。
 第二に、平等原則、信義則(・信頼保護の原則)等を援用して、それに従った長期にわたる多数の第三者への行政処分等の継続的行政作用を生み出した解釈基準に違反する新たな行政処分等を、当該解釈は行政法規には適合しているとしても、違法視できるか、という問題がある。
第三に、右のような解釈基準を変更する新しい解釈基準を定立したが、後者が示す行政法規の解釈の方が正しいとされる場合には、従前の解釈基準の維持(=新しい解釈基準の違法視)のために信義則(・信頼保護の原則)・平等原則または法的安定性の確保という法原理を援用できないか、という問題もある(前掲最判昭三三・三・二八は、類似の事例に関するものだが、この論点には触れていない)。
  * 右の第二の論点に関連して、最高裁昭六二・一〇・三〇判タ六五七号六六頁は、解釈基準を示す文書は存在しない事例についてだが、租税法律主義が貫かれるべき租税法律関係においては信義則の適用は慎重であるべきとし、いくつかの点を考慮して存在を認められる特別の事情があってはじめて信義則の適用の是非が検討できる、とする。

 
裁量基準  行政法規実施基準のうち、行政法規が行政機関の「裁量」的判断・選択に委ねていると解される場合に、当該裁量権の行使の仕方を定めるものを、裁量基準という。
 解釈基準について述べたのと類似のことは同じ行政基準の一種である裁量基準についてもいえる。第一に、行政基準としての法的性格からして、裁量基準に違反する行政処分が行われても、「原則として当不当の問題を生ずるにとどまり、当然に違法となるものではない」(最判昭五三・一〇・四民集三二巻七号一二二三頁―マクリーン事件)。裁判所が基準設定のレベルでの裁量権行使の逸脱・濫用を審査することは可能であるが、濫用等により違法とされる(それに従った個別の行政処分も違法とされる)までは、またはそもそも行政基準の違法性が訴訟で問題にされることがなければ、裁量基準も現実の行政作用のための、行政法規よりも詳細な基準として機能し続ける。
 第二に、最高裁判決によっても裁量基準は「公正かつ合理的に適用」されなければならず(最判昭四六・一〇・二八民集二五巻七号一〇三七頁―個人タクシー事件)、裁量基準としての「具体的審査基準に不合理的」があるか申請案件が「具体的審査基準に適合するとした…調査審議及び判断の過程に看過しがたい過誤、欠落」があれば、そのような判断等にもとづく行政処分は違法となる(最判平四・一〇・二九民集四六巻七号一一七四頁―伊方原発事件)。
 なお、長期にわたる多数の第三者への行政処分等の継続的行政作用を生み出した裁量基準に違反する新たな行政処分等は、行政法規上の裁量余地の範囲内にとどまり、行政法規との関係では適法であっても、平等原則又は信義則(・信頼保護の原則)という法の一般原理に反するものとして違法となりうる(このことをとくに「行政の自己拘束」ということがある)。一方で、いったん定立された裁量基準を、個別事案の特有な事情を無視して機械的・硬直的に適用することもまた、個別的行為についてなお残る裁量権を適切に行使したことにはならない。
 第三に、長期の具体的行政実務の基礎となった裁量基準を社会経済状況の変化等に対応するために新しい裁量基準に変更することは、それがなお裁量余地の範囲内にとどまるかぎりは、原則として適法である。但し、信義則(・信頼保護の原則)・平等原則又は法的安定性の確保という法原理を援用できる余地を一切否定できるかは疑問であろう。
  * 「裁量」概念が関係行政法規の存在を前提にしているとすれば、基本的には憲法や法の一般原理による制約をうけるにとどまる行政法規代替基準について「裁量基準」性を語るのは適切ではない。但し、この問題は「裁量」概念の理解の仕方によるのであり、給付基準等の行政法規代替基準についても「広義の裁量基準」性が語られることがある。

 
給付基準  行政法規代替基準のうち、補助金等の金銭等の「給付」の資格・条件等を定めるものをいう。行政法規上に申請・応答の制度が定められ、抽象的にせよ給付要件が定められている場合に、その給付制度の実施のために定立される行政基準は、行政法規実施基準の一種である。ここでは、給付要件のほかに給付申請・応答決定の制度自体をも定めており、給付制度自体の事実上の「根拠」となっているものを指して「給付基準」という。
 給付基準が実際には数多く定立されている背景には、「給付」行政又は「給付」行為には「法律の留保」が及ばないとの有力な考え方がある。
 行政基準としての法的性格からして、給付基準は、対象該当者・要件充足者に対して給付を受ける「権利」を生じさせはしない。しかし、法の一般原理はここでも妥当するので、同じ状況にある多数第三者への給付の実態があるにもかかわらず給付を拒否したり留保したりすることは平等原則違反になりうる(裁量基準についての第二点も参照)。但し、給付基準による制度のもとでの給付の拒否や留保をどのように法的に争うか、という困難な問題がある(例えば、→不作為の違法確認訴訟、→義務付け訴訟参照)。

 
指導基準  行政指導の基準、より正確には、多数の者に対して同一の行政指導をする際にその内容を示すものを、指導基準という。住宅建築・宅地開発等の土地利用規制を内容とする、主として地方公共団体の行政機関が作成したものを「指導要綱」ということがあるが、指導基準は、概念上は、土地利用規制を内容とするものに限られない。国の行政機関が経済界・諸産業界等に対して行う行政指導にかかるものも当然に含む。行政手続法(二〇〇六年改正施行)は「行政指導指針」という語を新たに用いて、これを「同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項」と定義している(二条八号ニ)。なお、「行政指導を行うための内部基準」と表現した最高裁判決もあった(最判平五・二・一八民集四七巻二号五七四頁―武蔵野市教育施設負担金事件)。
 指導基準が実際には数多く定立されている背景には、行政指導には「法律の留保」が及ばないという、最高裁を含めての有力な考え方がある。
 行政基準としての法的性格からして、指導基準は関係私人への法的拘束力をもたない(個別の行政指導に関して、行手三二条〜三五条を参照。その他、→行政指導)。
  * 給付基準と指導基準はあくまで代表的な類型にすぎない。行政法規実施基準も含めていえば、行政分野や行政の行為形式の種別に応じて、営業停止命令や交通取締り等々に関する「規制基準」、「立入検査基準」、「損失補償基準」(又は「財産評価基準」)等々の類型を語ることができる。これらが行政法規実施基準の場合、解釈基準のこともあれば裁量基準のこともある。

 
定立・公開と事前手続  行政手続法が関係する定めをもつ行政基準は、つぎの四種である。@審査基準(二条八号ロ、五条)、A標準処理期間の定め(六条)、B処分基準(二条八号ハ、一二条)、C行政指導指針(二条八号ニ、三六条)。行政手続法は同法の適用のある行政処分・行政指導に関する行政基準について、概略、つぎの旨を定めている。
 定立につき、右の@とCについては行政庁・行政機関の義務とし(一二条、三六条)、AとBについては行政庁の努力義務としている(六条、一二条)。
 公開につき、@と定めた場合のAについては「公にしておかなければならない」と、Cは「公表しなければならない」と義務化され、定めた場合のBは「公にしておくよう努めなければならない」と努力義務化されている。
 定立の事前手続については、既述のように行政手続法(二〇〇六年改正施行)は行政基準の一部についても定立手続に関する設けるに至った。行政立法と同じく「意見公募手続」の適用を受ける行政基準は、右の@「審査基準」、B「処分基準」、C「行政指導指針」(指導基準)の三種である。標準処理期間の定めや給付基準は対象外である(→行政手続、行政手続法)。
  * 「審査基準を設定する」ことについて、行政手続法制定前の最高裁判決は、多数の申請者の中から特定少数の者を選択する、かつ職業選択の自由にかかわる行政処分についてのみ要求し、かつこの「基準の内容が微妙、高度の認定を要する」等の場合には申請者に対し基準適用上「必要とされる事項」を告知して主張・証拠提出の機会を与える必要がある、と判示していた(最判昭四六・一〇・二八民集二五巻七号一〇三七頁―個人タクシー事件)。行政手続法五条は定立義務の対象を申請に対する処分に関する行政基準(審査基準)に一般化しかつ最高裁判決は何ら要求していなかった「公にする」義務まで定めている。判例理論を超えた内容の法律が制定された顕著な例である。
  ** 行政基準と抗告訴訟の関係等については、→行政訴訟、抗告訴訟。