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堺市ラブホテル建築等規制条例の今後について

 

2002年03月   大阪市立大学大学院法学研究科 平岡 久 


  〈堺市役所担当課あて提出文書〉


 はしがき−宝塚市条例事件下級審判決について

 いわゆる宝塚市パチンコ店等規制条例事件にかかる神戸地裁・大阪高裁の両判決は、同条例を風営法・建築基準法違反とした。
 しかし、これらの判決が、風営法・県条例は「立法により規制しうる最大限度を示したものである」と断じていること等に筆者は反対である。また、宝塚市条例は三種の施設について区別せず、また都市計画法上の用途地域のうちの商業地域以外では立地を許さないという(立法政策的には)ややズサンなものである。したがって、二判決の論理が堺市の上記条例(以下、原則として「条例」という)にそのままあてはまるとは思えない。さらに、まだ確定判決(最高裁の)にはなっていない。
 堺市(保健所?)環境衛生課「堺市ラブホテル建築等規制条例の今後について」(2001.12.12)(以下、「環境衛生課文書」といい、p.のみを記すこともある)は、「本市条例と宝塚市条例とは、目的や規制方法において類似している」とするが(p.10)、「類似」していても同一ではなく、目的はより限定的であり、規制の程度はより緩やかである、と思われる。
 以下では、堺市の現行条例の法律適合性の問題には立ち入らず、法律適合的であることをいちおうの前提として、また、「今後とも本市条例は継続運用していくべき」(p.11)との立場にたって、施行後18年以上経過して大きな改正をうけていない条例の今後のあり方について若干の検討を、覚え書的に試みる。

 

 一 規制区域

 都市計画法上の用途地域(+建築基準法)との関係では、条例は、法律に比べて、第一種住居地域・第二種住居地域・準住居地域という旧住居地域(およびその周辺区域)にいわば不同意区域(規制区域)を拡大している。この点、近隣商業地域や準工業地域も規制区域としている宝塚市条例とは異なる。

この政策的意図を今後も維持するとすれば、第1条が掲げる目的の一つ、「良好な生活環境……」の「生活環境」はやや広すぎるようであり、住居系地域における立地規制という趣旨で、「居住環境」と改めることが考えられる。なお、宝塚市条例の「良好な環境を確保する」という目的規定は、あまりに広く、かつ曖昧である。

堺市における用途地域区分の詳細は承知していないが、法律上も建築規制が生じる、低層用住居専用地域・中高層用住居専用地域の範囲を、可能であれば、拡大することも方策の一つであろう。
 関連してここで触れておけば、上記判決は都市計画法上の「特別用途地区」制度の活用を勧めているようにも読めなくはない。しかし、ラブホテルの規制という消極的な目的のみのためにこの制度を利用することは、法的には可能であるとしても(なお、p.7参照)、実際には困難であるように考えられる。別途の何らかの目的のためにこの制度を活用し、その結果として、ラブホテル建築が規制あるいは抑制されることはありうるであろう。

 風営法または風適法(および大阪府同法施行条例)上の、ラブホテルを含む「店舗型性風俗特殊営業」の規制区域は都市計画法上の用途地域のうち近隣商業地域・商業地域以外の地域であるので、条例が地域的範囲を拡大しているわけではない(この点も、宝塚市条例とは異なる)。
 但し、詳細は承知していないままであるが、風適法・施行条例との関係では、これらによってすでに規制されているラブホテルとそれよりも範囲が広い条例上のラブホテルとの区別を明確にし、風適法・施行条例上の規制対象になるものは、条例を適用しない旨の明文の規定を設けることも考えらなくはない。二重の規制は無駄だからである。
 もっとも、許可の基準と同意の基準が同一ではなく後者がより厳しいのであるとすれば(詳細は承知していない)、風適法・府条例適用施設であっても、条例の存在意義があることになり、また、堺市はその存在意義を説明・主張できなければならない。その際、風適法の目的は「清浄な風俗環境」の保持等であるので、これらの目的と重なりうる、条例上の「青少年の健全育成」という目的の達成のためには、風適法・府条例上の基準では十分ではない、と合理的・説得的に説明・主張できるかどうかが、ポイントになる。
 また、一般論としていえば、風適法・府条例所管部局(府公安委員会内)との間の調整・連携が必要であり、必要性を認めるとすれば、府条例の何らかの改正を積極的に働きかけるべきである、ということになるであろう。

 屋外広告物法・条例との関係も問題になりうるが、のちに言及する。
 

二 保護施設

 条例4条1項4号にいう「学校」および同3号により市長が定める「施設」をかりに<保護施設>と称しておくとすれば、保護施設の指定の多寡・範囲によって規制区域の範囲は異なってくる。そして、とくに後者の「施設」の指定する際の種別・範囲が問題になりうる。
 現行条例別表第2には計9種の施設が挙げられているが(同10号にもとづき市長が定めたものはないようである)、このうち(1)(2)(3)および(5)は、「青少年」が利用する、または利用する可能性が高い公共施設であり、「青少年の健全育成」に資するという目的に合致する、と考えられる。もっとも「青少年」とはどの程度の年齢の者までを意味しているのか、いちおうは説明できなければならないであろう(なお、(1)のうち最初の「……学校」は条例本文4号の「……学校」の中に含まれており、同じことを二度定めているのではないだろうか)。

つぎに、(4)(9)は、良好な(「生活環境」またはより限定された意味での)「居住環境」の維持形成という目的に合致していそうである。社会教育法上の「公民館」なるものの具体的イメージは持っていないが、付近に居住して生活している住民が利用者であることはおそらく間違いないであろう。また、都市公園・同予定地は付近に居住している住民が利用する(またはその予定の)公共施設にほかならない。後者の利用者の中には「青少年」も多いはずであるので、「青少年の健全育成」という目的にも合致している。

残るのは、(6)(7)(8)である。これらの施設の実際・実態についての十分な知識はないが、身障者・知的障害者・老人が<居住>して<生活>しているといえる施設であるならば、「居住環境」の維持形成という目的に合致している、と考えられる。一方、そうでないとすれば、別表第2に指定することは、再検討が必要であると思われる。
 また、各施設も一様ではなく各施設がさらにいくつかの種類の施設に分けられているはずであり、利用者が<居住>して<生活>しているといえる施設かどうかについて、より小区分の施設ごとの個別的な検討が必要になるかもしれない。そしてまた、<居住>して<生活>しているといえるかどうかの判断が微妙で困難なものも存在しうるであろう。そうであるとすれば、別表第2の改正作業は、最終的にどのような文言・表現を使うかも含めて、必ずしも容易ではなさそうである。
 常識的には、これら三施設の周囲約100mの間にラブホテルが存在することは、やや奇妙な感じがするのは否めない。ただ、改正作業の困難さは別におくとして、「生活環境」であれ「居住環境」であれ、これらの環境と無関係の施設であるとすれば、論理的には、条例の目的に適合した保護施設の指定にはならない、と考えられる。
  「環境衛生課文書」は、当初990施設を指定し(中略)「全体としてみれば、ほぼ堺市全域においてラブホテルは建築できないことになる」としつつ、「結果としての全域規制」であっても「憲法…からみて問題があると考える」としている(p.4)。
 しかし、「結果としての全域規制」と条例による直接的な全域規制、あるいは商業地域を除く地域についての全域規制とは意味が異なっている。1983年の調査研究報告書p.19が「論外」とするのは、当時の忠岡町条例にみられたような、条例による直接的な全域規制であるはずである。
 各規制区域の設定、各保護施設の設定等に合理的な理由・根拠があるかぎりは、それらのつみ重ねによって結果的に「ほぼ」全域規制になっても、やはり合理的な規制である、といわなければならない、と考える。
 もっとも−「ほぼ」というのがどの程度の地域割合になるのかは判然としないが−、各規制区域の設定・各保護施設の設定について、とくに後者について再検討すべき余地があると思われることは、上に述べたとおりである。
 また、実質的規制対象区域が広すぎるという判断があり、その点に疑問・躊躇があるのであるとすれば、条例4条1項3号・4号が定める距離の数値の適正さについても再検討の必要があることになる。この場合、数値を小さくすることによって条例の本来の目的・趣旨の達成ができなくなる可能性がないかどうかも、当然に考慮されなければならない。


 三 外観と構造設備−ラブホテルの定義

1 条例は、「ラブホテル」の意味について、まず、「専ら異性を同伴する客に利用させることを目的とするもの」と定めているが、このような目的であるかどうかを客観的に判断するのは困難であるとみられる。そして、結局は「別表第1に定める構造及び設備を有しないもの」を「ラブホテル」と称していることになるであろう(22号)。また、別表第1によれば、狭い意味での構造・設備には該当しないようでもある、「付近住民の生活環境及び景観を損なわない素朴な外観」をもつ建築物ではないことも要件の一つとされている(第6号)。

条例22号にいう「構造及び設備」を具体的にどう定めるかは、条例の目的との関係でも、実務上の取扱いの上でも、きわめて重要な問題であることはいうまでもない。
 2 別表第1第6号は、実際上、行政指導等を行うために重要な役割を果たしているようであるが(p.3)、「素朴な外観」かどうかは、もともと観る者の主観・価値観によって異なりうる微妙な問題であることもあるであろう。また、「景観」という言葉が使われているが、「付近住民」の「景観」なのか、単独に「景観」なのかは文理上は明確ではなく、条例の目的からすれば前者なのであろうが、「付近住民の…景観」という表現は日本語としてはやや奇妙でもある(付近住民からみた景観、あるいは付近住民の良好な生活・居住環境を維持形成するためにふさわしい景観、という趣旨なのであろう)。さらに「…景観を損なわない」かどうかも微妙な判断を必要とする。

以上の諸点は別としても、ラブホテル類にはほぼ共通した外観またはそのイメージがあるのかどうかは承知していないが、いわば「外観」規制−行政指導によるものであれ−を維持しようとするのであれば、外壁の構造・設計や色彩等についてのガイドラインまたは指針的なものを市としては用意しておく必要があるようにも考えられる。堺市行政手続条例上の、原則として公にしておくべき「審査基準」の一つでもあるはずである(同条例53項参照)。
 条例には「屋外広告物その他の外観」に関して「……求めることができる」という定めもある(12条。不服従者に対する罰則はない)。この求めは行政指導にすぎないにしても、不利益処分についての手続条例上の「処分基準」的な指針をもっておくことが−実際にはかなり困難であるのは理解できるが−必要であるようである(行政指導に「共通してその内容となるべき事項」についての、堺市行政手続条例34条も参照)。
 なお、かりにラブホテル(と受けとめる)かどうかの区別が「入り口のビニールのれん」の存否によるだけなのであるとすれば(p.3)、そのような「ビニールのれん」は「……素朴な外観」にあたらないと解釈するか、または、「入り口のビニールのれん」も含みうるように別表第1第6号を改正して、「…のれん」を設けさせないようにすべきである、ということになるであろう。
 3 もともと「景観」行政にはむつかしい要素が多々あるところであるが、関係法令・関係条例との整合性、役割分担あるいは協力関係を明確に整理しておく必要がある。
 たとえば、「美観風致」の維持を目的とする屋外広告物法・同条例によって、建築物の外観に関係する「屋外広告物」(ネオン・広告塔類)について、旧建設省のモデル条例(標準条例)などにとらわれることなく、市独自の施策が(行政指導によるものであれ)検討され、講じられてよいであろう。屋外広告物法との関係での条例制定権の範囲は建築基準法等との関係に比べて、相当に広いと考えられるからである。なお、屋外広告物条例は、ラブホテル類の屋外広告物にのみ有効であるのではない。
 また、堺市の景観条例上の「環境形成計画」・「景観形成地区」・「景観形成基準」、届出者に対する助言・指導等々の仕組みを利用することも、少なくとも利用可能性があるかどうかを検討することも、当然に、行う必要がある。

上の条例上の仕組みを利用すれば、建築物の意匠・色彩についても何らかの関与することができる。立ち入らないが、風致地区(・美観地区)、地区整備計画区域等についても同様である。一方、ラブホテルを建築しないという旨、あるいはラブホテル的外観の建築物を建築しないという旨を含む建築基準法にもとづく建築協定の締結は、実際にはありえそうではないようにみえる。
 いずれにせよ、統一的・総合的な「景観」行政の一環として、ラブホテルの外観の問題もとらえ、ラブホテル条例による外観規制の位置づけ・役割をきちんと整理しておく必要があるであろう。
 4 外観上はラブホテルのごとくではない「素朴」なものであっても、男女の二人連れのみがほとんど利用している(入口・エントランスを入っていく)ホテルが付近にあることに、何らかの嫌悪感または青少年への影響への危惧を覚える住民がいることも考えられる。ここで、外部からは見えない、狭い意味での構造・設備が問題になることになる。
 構造・設備については、別表第1(1)(5)および施行規則の別表が定めている。
 各号の趣旨および実態については承知していないが、若干の感想を疑問点を中心に述べれば、つぎのとおりである。
 別表第1の4号は必要なのかどうか。会議室・集会室等はラブホテルには不要であろうが、一方、会議室・集会室等のない一般ホテル(ビジネスホテル・シティホテル)も多数存在しているようにみえる。
 「優良な一般のホテル」の建築の「足枷」となっている面があるとすでに指摘されているが(p.3)、施行規則別表の3号。たとえば単身ビジネス客用のシングルルーム(18u以下)を多く設けている一般ホテルも十分に想定できそうにみえる。
 施行規則別表の4号の趣旨はよくわからないが、10分の1以下にすることを要求するのは厳しすぎであるようにもみえる。
 以上の3点よりも重要であるのは、別表第1(1)(3)(5)のほか、おそらく、施行規則別表の5号であろう。この号の定めは主観的な判断要素を含んでいるが、実際上は容易に判断できるのであろう。

 5 一般ホテルとして建築確認をうけ、建築計画どおりに当初は建築して営業許可をうけたあとで、建築基準法にいう「改築」・「大規模な修繕・模様替え」に該当しない程度に外観を変更する(意匠・外壁の変更等)、あるいは部屋の内装等を変更することによって、実質的には条例にいうラブホテルに該当する(あるいはラブホテルの営業を行う)にいたっている建築物に対してどう対応するか、という問題がある(p.3)。
 この問題については、条例は11条を用意して、いちおうは、これにもとづいて対応することを予定している、ということができる。「新たにラブホテルを経営しようとする場合」に該当する、と考えられるからである。もっとも、条例11条による準用によって生じるのは、建築工事中の措置命令権限、建築工事完了の届出義務等に限られており、すでに建築物自体が完成してしまっている場合には、有効に機能することができない。
 そこで、措置命令権限は建築工事中でなくとも行使できるように条例を改正することが検討されてよい(措置命令違反者に対しては現行14条の罰則がある。命令権限を背景とする行政指導ももちろん行いうる)。
 また、外観の変更については、条例上のラブホテルに該当することの認定を前提として、条例12条を適用することも考えられる。ただし、12条が定める権限発動の要件の中には「著しく」(調和しないと認めるとき)という厳しい限定がついている。そして、このような限定が権限発動(行政指導)を躊躇させているとすれば、「著しく」という部分は削除することも検討されてよい(もっとも、外観についての別表第1の6号自体に運用のむつかしさがあるであろうことは、すでに簡単には言及した)。
 6 なお、ここでのテーマからやや離れるが、条例中の罰則規定をみると、32項による「同意」を得ることなくラブホテルを建築するまたは営業すること自体に対しては罰則がない(措置命令というワン・クッションを置いている)。
 「同意」は実質的には「許可」であると考えられるが、−法律適合性についての躊躇があるとしても−法律または条例上の「許可」制度のもとでは、通常は、無許可の建築行為や営業開始行為に対する罰則が付されているように思われる。

 

むすびにかえて−住民が関与する事前手続等
最後に、その他の若干の論点に簡単に言及する。

1 施行規則にもとづいて「本市職員で組織」される「ラブホテル建築等調整委員会」が設けられているが、このような委員会または審議会類が市職員のみで構成されているのは大阪府下ではごく少数のようである(p.5)。
 このような現状は、改められる必要がある、と考える。
 しかし、方策は唯一ではない。第一は、上記委員会の構成員に住民代表、業界関係者、いわゆる学識経験者等を加えることである(名称も「……審議会」に改める必要があるかもしれない。
 第二は、上記委員会による主催でもよいが、届出のあった建築物がラブホテルであるのかどうか、ラブホテルである場合に同意すべきかどうか等に関する判断材料または情報を得るために、当該建築物の予定地付近の住民に呼びかけて「説明会」あるいは「公聴会」を開催することである。この会合に、届出者を出席させることも考えられる。この「説明会」・「公聴会」については、申請に対する処分の事前手続についての堺市行政手続条例10条の趣旨が−より緩和して−生かされなければならない。ラブホテル条例にいう「届出」は、実質的には「申請」にあたるか、少なくともそれに近いものと思われる。
 第三は、届出者自体に付近住民に対する「説明会」等の開催を求め、その会合に関する報告文書の提出を求める、ということも考えられる。
 たとえば建築基準法にもとづく例外的建築許可の事前手続として、上の第二のような手続の経験の蓄積は堺市においてもあるはずである。また、たとえば開発許可の事前手続として、開発事業者に上の第三のような措置を求めている自治体もあるはずである。要するに、上の第一のみが対応策であるのではない。
 そして、どのような形態・手続を採用するにせよ、それは条例上に根拠をもたせる必要がある、と考えられる。
 2 市内部の問題としては、条例の所管課をどこにするかということも、実際上は重要な問題であるかもしれない。旅館業法上の許可を担当する保健所とするのも、むろん根拠は十分にあるようである。一方、ラブホテル規制の問題は「景観」行政担当課にも、「建築(指導)」担当課にも、「まちづくり」担当課等々にも関係している。
 いずれにするにしても、堺市の総合的行政の一環であるという認識のもとでの、関係各課等の間の適切かつ緊密な連携または協力が必要であることは、いうまでもない。
  以上 20023