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 国地方係争処理委員会・総務大臣に対する勧告
          平成13年7月24日(火)


国 地 委 第18号 
平成13年7月24日 


  総 務 大 臣
    片 山 虎 之 助 殿

  国地方係争処理委員会
    委員長  塩 野 宏

       神奈川県横浜市「勝馬投票券発売税」に対する総務大臣の不同意に係る審査の申出について(勧告)

 国地方係争処理委員会は、神奈川県横浜市「勝馬投票券発売税」に対する総務大臣の 不同意に係る審査の申出(平成13年国地係第1号)について、地方自治法第250条の 14第1項の規定に基づき、別添のとおり勧告する。
              --------------------------------------------------------------------------------
第1 勧告
 総務大臣は、横浜市の勝馬投票券発売税新設に係る協議の申出につき、2週間以内に横浜市との協議を再開することを勧告する。

第2 事案の概要 
 横浜市は、平成12年12月14日に、法定外普通税として勝馬投票券発売税を新設することを内容とする横浜市市税条例の一部を改正する条例案を可決した。
 勝馬投票券発売税は、横浜市内の勝馬投票券発売所における競馬法(昭和23年法律第 158号)第5条の規定に基づく勝馬投票券の発売に対し、当該勝馬投票券の発売を行う者に課されるもので、同市内の勝馬投票券の発売額から払戻金等に市内の発売割合を乗じて得た額を控除した額を課税標準とし、税率は100分の5である。
 横浜市は、平成12年12月21日に、総務大臣に対し、地方税法(昭和25年法律第226 号)第669条の規定に基づき勝馬投票券発売税の新設に係る協議の申出を行い、総務大臣は、平成13年3月30日に、同法第671条の規定に基づき不同意とした(「神奈川県横浜市法定外普通税『勝馬投票券発売税』の新設に係る協議について」(平成13年3月30 日付け総税企第48号)。以下「不同意通知」という。)。横浜市長はこれを不服として、同年4月25日に、当委員会に対し、総務大臣は同法第671条の規定に基づき同意をすべきである旨の勧告を求める審査の申出を行った。

第3 争点及びこれに関する当事者の主張
当事者が当委員会に提出した文書は別表第1のとおりであり(文書の略称は、別表第1のとおり。)、当委員会の審査の経緯は別表第2のとおりであるが、これらによって明らかにされた本件の争点及び当事者の主張の要点は次のとおりである。
 1 地方公共団体の協議の申出に対する国の同意の基本的性格(同意・不同意の在り方)
[横浜市長]
 地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第 87号。以下「地方分権一括法」という。)によって改正された地方税法については、地方分権型の行政システムに改革されたことを受け、地方公共団体が自主財源を確保できるようにするために、法定外税の仕組みが変更され、法定外普通税が従前の許可制から同意制に改められるとともに、同法第671条で定める3つの消極事由の いずれかがあると認められる場合を除いては同意しなければならないとされた。原則は同意である。
[総務大臣]
 地方分権一括法による改正で、地方債制度のように許可制から同意を要しない協議制とされたものもある中で、法定外税制度が同意を要する協議制とされたのは、税は国民の負担に直結するもので、地方公共団体の課税自主権を尊重しつつ国の経済施策等との調和を図ることが引き続き必要であるという趣旨からである。一方、同法第671条で定める3つの消極事由自体は、地方分権一括法によっても、用字法を除いて改正されていない。これは、許可制が国の同意を要する協議制に改められたために、改正前は不許可事由であったものがそのまま不同意事由になっているものがそのまま不同意事由になっているもので、地方分権一括法による新しい制度の下でも、これら3つの消極事由に照らして総務大臣が判断するという点については従来と変わるところはない。

 2 総務大臣が同意・不同意を判断するに当たっての基準の必要性及び基準の在り方
[横浜市長]
 地方自治法(以下「自治法」という。)第250条の2第1項では、総務大臣の地方公共団体に対する関与の公正・透明性を確保するため、協議の申出に関して判断するために必要とされる基準を定め、これを原則として公表することが必要とされており、同条第3項では、この基準はできる限り具体的なものとしなければならないとされている。
 したがって、地方税法第671条第3号で定める「国の経済施策に照らして適当でない」という不確定であいまいな消極事由によって総務大臣が不同意とする場合には、あらかじめその処理基準を明らかにすることが必要不可欠である。
 しかし、「法定外普通税又は法定外目的税の新設又は変更に対する同意に係る処理基準等について」(平成12年4月1日付け自治府第36号・自治市第43号。以下「旧通知」という。)及び「法定外普通税又は法定外目的税の新設又は変更に対する同意に係る処理基準等及び留意事項について(平成13年4月12日付け総税企第64 号。以下「新通知」という。)では、地方税法第671条の規定以上に具体的な処理基準が示されていない。
 なお、横浜市は、本件不同意通知を受けるまで、同条第3号に関する総務大臣の法解釈を知らされておらず、また、仮に考慮事項を口頭で伝えられたとしても、処理基準を制定・公表したことにならないことは、既に裁判例や行政実務上定着した解釈である。
[総務大臣]
 地方税法第671条各号で定める消極事由については、国会がこれ以上詳細なものをあらかじめ設けないこととし、個別具体の法定外普通税・法定外目的税ごとに総 務大臣が同号の規定に従い、適切に判断すべきことを定めたものである。
 今後の経済社会の変化を考えると、あらゆる法定外税の新設に係る協議の申出にもそのまま対応し得る具体的な処理基準をあらかじめ示すことは困難である。多様な法定外税があり得る中で、あえて具体的な基準を示そうとすると様々な条件や留保を付けざるを得ず、そのほとんどは定量的な基準が示せるようなものではないと考えられる。これらを網羅することは不可能であり、同意できる場合や同意できない場合を例示することも、地方公共団体の課税自主権を尊重し、創意工夫を活かす観点からは適切とは考えられない。
 総務大臣が、旧通知及び新通知で定める処理基準を地方税法第671条各号で定める消極事由と同じにすることが適当と判断したことは、自治法第250条の2第3項の規定に照らしても適正なものである。
 なお、旧通知においては、課税の理由書、総括表等の提出資料を求めることも明らかに示しているところであり、地方公共団体としては、その通知を見るだけで地方税法第671条各号で定める3つの消極事出の判断の際に課税の目的、内容等が考慮されることが容易に理解できるはずである。

 3 中央総局のシステムは地方税法第671条第3号の「国の経済施策」に当たるか
[横浜市長]
 総務大臣は、地方税法第671条第3号で定める「国の経済施策」について限定解釈を示した上で、中央競馬により公益目的のために財政資金を確保する仕組みは特に重要な、又は強力に推進を必要とする経済施策であり、同号で定める「国の経済施策」に該当すると言うが、国の経済施策や国の経済活動の内容・範囲を明確にしていない。何をもって特に重要な「国の経済施策」とするのか、何を強力に推進を必要とする「国の経済施策」とするのかについては、定性化は無論のこと、施策によっては定量化するなどの基準をあらかじめ示しておき、協議の申出のあった新税をこれに当てはめ、理由にその結果を明示するべきである。
 前川尚美ほか「地方税(各論)I」では、「国の経済施策とは、極めて多義的かつ流動的な概念であり、一義的に定めることはできないが、少なくとも閣議決定等内閣全体の支持する施策であって、単に一省庁のみの施策や考え方によるものではない」とされている。日本中央競馬会は特殊法人であって国の省庁には当らず、また、中央競馬による畜産振興等を目的とする施策は誰が見ても国の経済施策のうち特に重要な施策や制度には当たらない。
 地方税法第671条各号で定める3つの消極事由に該当しない限り原則として同意すべきことになった新しい行政システムの下では、同条第3号で定める「国の経済施策」の意義はもっと厳格に解釈をすることが求められており、地方税法第671条第1号及び第2号を限定的に規定している立法意図や課税自主権の尊重の立場から、租税施策は同条第 3号で定める「国の経済施策」には含まれないと解するべきである。租税制度と類似するものとして国庫納付金制度をとらえた場合でも、類似しているのは法律により一定の金額を国庫に納付させるという仕組みだけであり、単なる財政的仕組みである国庫納付金制度が同号で定める「国の経済施策」に含まれ得るとする解釈も誤っている。
 なお、国は刑法の特例として中央競馬を認めているが、これは賭博行為が特別に違法性が阻却され実施できることを法律で定めたにすぎず、中央競鳴は、馬券の売上げの一部を国庫納付金として納付する制度にすぎない。
 また、総務大臣の挙げるギャンブル等について、国と地方のすみ分けが既にできているとの点については、何らその法的根拠がない上、このすみ分けと納付会等の制炭とは明らかに異なっている税の問題とを結びつけて考えており失当である。
[総務大臣]
 経済施策は経済政策に基づいて行われるという意味で経済政策の下位概念に位置付けられ、国の経済施策とは、一般に、経済活動に関して国の各省庁が施すべき対策をいう。また、財政とは、一般に、「国・地方公共団体がその目的を達成するために行う経済活動」とされており、国・地方公共団体の経済活動である財政は経済に含まれ得るものである。財政施策は経済施策に含まれ、財政資金の確保の根幹である租税施策も含まれ得る。したがって、特定の仕組みで財政資金を確保しこれを一定の公益目的のために使用することも、地方税法第671条第3号で定める「国の経済施策」に含まれ得る。
 ただし、経済活動に関して各省庁が行う施策は広く経済活動全般に及んでいることから、経済活動に関して各省庁が行う施策はすべて「国の経済施策」に当たるとすれば、法定外普通税に同意する余地がほとんどなくなってしまうこととなるため、地方税法第671条第3号で定める「国の経済施策」とは、単に経済活動に関して各省庁が行う施策のすべてを含むものと考えるのは適当ではなく、特に重要な、又は強力に推進を必要とするものに限られる。
 中央競馬は、農林水産省がその制度の企画・運用、国庫納付会の受入れ等を行い、その実施主体である日本中央競馬会は、日本中央競馬会法によって設立された法人で、国から全額出資を受けるとともに、農林水産省の監督を受けている。
 競馬法に基づき中央競馬を実施し、日本中央競馬会がその収益を国庫納付金等に充てる制度を設け、運営する仕組みは、農林水産省が所管する国の経済施策に該当する。
 上記国庫納付金は、畜産振興及び民間社会福祉事業の振興のための財政資金に充てられている。中央競湾はこれらの資金の確保を目的として、個別の法律により設けられた特別な制度であるため、国の経済施策のうち、省庁レベルでの軽易な決定等とは異なり、特に重要な施策に該当するものと考えられ、地方税法第671条第3号で定める「国の経済施策」に該当する。
 また、中央競馬をはじめとする各公営競技等は、法律により定められた国・地方間の財政資金の確保に係るすみ分け−財政秩序−を構成する「法律に基づき公益目的のために財政資金を確保する仕組み」であり、地方税法第671条第3号で定める「国の経済施策」に当たる。

 4 中央競馬のシステムが「国の経済施策」に該当するとした場合、勝馬投票券発売税は国の経済施策に「照らして適当でない」と言えるか
[横浜市長]
 地方税法第671条第3号で定める「国の経済施策に照らして適当でない」とは、地方分権改革がなされた新しい行政システムの下では、少なくとも国の重要かつ基本的な経済施策として位置付けられているものに重大・明白なマイナスの影響を与えるものに限定されるべきである。
 勝馬投票券発売税は、第1国庫納付会を除いて課税標準としており、第1国庫納付会やその配分の仕組みを損なうものではない。第2国庫納付金は剰余金が発生した場合に納付されるもので、当初から予定されているものではなく、様々な諸経費により常に変動するものであり、公益目的のために財政資金を確保する基本的な仕組みを構成するものではない。したがって、勝馬投票券発売税が中央競馬による国庫納付会や配分の基本的仕組みを損なうというのは失当であり、地方税法第671条第3号で定める「国の経済施策に照らして適当でない」場合には該当しない。
 本件不同意は、勝馬投票券発売税に課税の合理性がないことを不同意事由に挙げているが、地方税法における法定外普通税の同意の判断に当たっては、税源の存在及び財政需要の存在という積極要件が削除され、不必要となっている。課税の合理性は横浜市の判断に任され、不同意にできる理由から除外されていることで、明らかに他事考慮である。また、総務大臣が勝馬投票券発売税についてその課税の目的等を総合的判断の中に加え、勝馬投票券発売税は国の経済政策に照らして適当でないとして不同意としていることは、明らかに法規を逸脱した他事考慮であり違法である。
 同意を求める協議の申出に係る手続について、協議書の添付書類として、歳入歳出予算現計表、税収入見積計算表等を要求していることも他事考慮のおそれがあるもので、その法律適合性には疑問がある。
[総務大臣]
 「国の経済施策に照らして適当でない」かどうかを判断するに当たっては、課税の目的、内容等の諸般の事情と国の経済施策に与える影響とについて総合的に判断する必要がある。
 総務大臣としては、「課税の合理性」概念に着目し、それが認められないことを理由として地方税法第671条第3号で定める消極事由に該当すると判断しているので はなく、国の経済施策に重要な影響を及ぼすと認められる場合でもなお、「特別の負担を求めるべき合理的な課税の理由」があれば「照らして適当でない」とは言えないという考え方に立って、「特別の負担を求めるべき合理的な課税の理由」を考慮要素にし、国の経済施策に影響を与える法定外税についても課税の余地を広げている。一方、国の経済施策に影響を与えない法定外税については、そもそも「特別の負担を求めるべき合理的な課税の理由」について考慮する必要はない。
 勝馬投票券発売税の課税については、畜産振興及び民間社会福祉事業の振興のために必要な経費に充てることとされている国庫納付金への配分等に影響が生じることとなる。日本中央競馬会の勝馬投票券の発売金額から払戻金及び経費を差し引いた金額は、第1国庫納付金、第2国庫納付金、特別積立金、特別振興資金、特別給付資金に充てることが法定されており、勝馬投票券発売税の課税により、畜産振興及び民間社会福祉事業の振興のために必要な経費に充てることとされている国庫納付金への配分等に影響が生じる。第1国庫納付金の納付率は、経営状況によっては立法政策により変更され得る率であることから、第1国庫納付金の額が課税標準から除かれているといっても、勝馬投票券発売税の課税が第1国庫納付金の納付率の水準に影響を与える可能性があることに変わりはない。
 さらに、勝馬投票券発売税は、法律によって国と地方公共団体の間の公営競技施行権を配分することにより定められている国と地方の間の財政的秩序を損なうものであると考えられるし、日本中央競馬会の施設が所在する地方公共団体すべてが同様の課税を行った場合や日本中央競馬会が赤字の場合にも課税された場合には、中央競馬により公益目的のために財政資金を確保する基本的な仕組みを損なうことになるため、勝馬投票券発売税は「国の経済施策」に重要な影響を及ぼすと認められる。
 なお、協議書の添付書類として歳入歳出予算現計表、税収人見顔計算表等の資料を要求しているのは、法定要件の判断のために、地方公共団体が置かれている状況を理解しようとするものであるから、他事考慮との批判は的外れであり、むしろ課税の余地を広げる方向に働くものである。

第4 当委員会の判断
 1争点1ー地方公共団体の協議の申出に対する国の同意の基本的性格(同意・不同意の在り方)ーについて
(1)  地方税法第669条及び第671条の規定に基づく同意制度(以下「本件同意制度」という。)は、今回の地方分権推進の一環として、「法定外普通税の許可制度については、より課税自主権を尊重する観点から廃止し、都道府県又は市町村が法定外普 通税を新設又は変更するに当たっては、国と事前協議を行うこととする。この場合、国との合意(又は同意)を要することとする。ただし、税源の所在及び財政需要の有無については、事前協議の際の協議事項から除外し、国の関与を縮減することとする」(地方分権推進委員会・第二次勧告V地方税財源の充実確保1地方税(2)課税自主権の尊重@)という方針の下で、従前は許可制度であったものを、現行法で定めるように「あらかじめ、総務大臣に協議し、その同意を得なければならない」と改めることによって創設された制度である。ここで総務大臣の同意を必要とすることとされている趣旨は、地方公共団体の課税自主権を尊重しつつ、国の経済施策等との調和を図ることが引き続き必要であることとされている。
 本件同意制度は、自治法上の関与の一つとして同法第245条第1号二で定める同意であり、自治法第245条の2の規定に基づく関与の法定主義の原則に基づき、地方税法第669条及び第671条で定められた。自治法第245条の3第4項では、同意制度を各個別法で設けるに際しては、国の施策と地方公共団体の施策との整合性を確保しなければこれらの施策の実施に著しく支障が生ずると認められる場合を除き、同意を要することとすることのないようにしなければならないとしているところ、本件同意制度もこの趣旨に従って整備されたものである。
 国の行政機関による地方公共団体に対する関与の一つである同意は、地方分権一括法による改正で新たに導入されたものであるが、国と地方公共団体とが相互に誠実に協議を行い、その結果一定の事項について双方の意思の合致としての同意を必要とする場合に、同意を要する協議制度が設けられたとされているところである。
(2)  本件同意制度の制定の経緯、自治法上の同意制度の趣旨にかんがみると、要件が充足している限り同意をしなければならないとされている点に特殊性は認められるものの、上述した同意を要する協議制度の趣旨と本質的に異なるところはないと考えられる。すなわち、協議の申出に係る法定外普通税の新設又は変更に関しては、総務大臣と市町村は対等の立場に立って、まずもって誠実に協議を行うことが前提とされている。その際、同意の要件の存否それ自体に関する情報の交換はもとより、課税の仕組み等についても話し合いがなされることが予定されていると解される。この点からすると、同意すべき場合であっても、国の経済施策の観点から、協議の過程で地方公共団体側に一定の譲歩を求めることも、同意を要する協議の内容の一つと解される。
 さらに、本件同意制度に係る消極事由の認定について、地方税法第671条第3号では、総務大臣に裁量的判断の余地を与える定め方がなされているが、ここで総務大臣の広範な裁量権が認められるとすると、結果的に、同意するがしないかについて広範な裁量を総務大臣に認めることと同じこととなり、同意しないことについての裁量を縮減するために地方分権一括法により地方税法第671粂が改正された趣旨に反することとなるため、同条各号で定める消極事由の認定の仕方についても、 本件同意制度の趣旨・目的に照らして判断されなければならない。すなわち、従前の許可制度の下で定められていた積極要件は削除された一方、3つの消極事由については、従前のまま残されたが、単に、法文がそのまま維持されたという理由のみで、この点に関する総務大臣の判断要素、判断過程が従前のままであるということでは、地方分権一括法による地方税法第671条の改正の趣旨に合致しないものと考えられるため、結論はともかく、改正地方税法の下では課税自主権をより尊重することを前提として解釈されることとなる。要するに、地方税法第671条の解釈・運用は、自治法第2条第12項で定める解釈・運用の基本原則に基づくものでなければならず、さらに、自治法第245条の3第4項は、立法に当たっての関与の規定を設ける際の基本原則ではあるが、制定された法文の解釈・運用に当たっても留意すべきものである。
(3)  本件同意制度には、自治法上の関与の手続原則が適用され、本件については、自治法第250条の2第1項の規定に基づく許認可等の基準の設定及び公表が問題となる。この規定は、行政手続法(以下「行手法」という。)第5条の規定に基づく審査基準の設定及び公表に準じて地方分権一括法による改正で導入されたものである。ただし、行手法は、対等の当事者間でなされるものとしての同意を要する協諸制度は予定していないため、本件同意制度に関する基準の設定及び公表については、行手法第5条の規定に基づく審査基準の設定及び公表に関する解釈・運用がそのままなされなければならないものではない。

 2争点2ー総務大臣が同意・不同意を判断するに当たっての基準の必要性及び基準の在り方一について
 地方税法第671条各号に関して総務大臣が示している同意の基準は、同条各号の定めをそのまま繰り返しているにすぎない。
 同条第3号で定める「国の経済施策に照らして適当でない」という文言は、極めて抽象的かつ包括的であるため、協議の申出をしようとする地方公共団体としては、総務大臣が何をもって「国の経済施策に照らして適当でない」と判断しようとしているのか、その具体的内容を把握することが困難である。だからこそ、自治法第250条の2では、できる限り具体的な基準を定め、原則としてこれを公表しなければならないとしていると言わなければならない。
 総務大臣は具体的な同意の基準の作成が困難である理由を縷々述べるが、例えば、本件の審査の過程で総務大臣が主張するように、地方税法第671条第3号で定める「経済施策」とは国の経済施策のうち「重要な」ものを言うとか、「経済施策」とは、財政施策を含むものであるという基準を示すことは少なくとも可能であったはずである。また、重要な経済施策について例示をするといった方法も可能であると考えられるところであり、今の時点で将来のすべてを見通すことが困難であることは総務大臣の主 張のとおりであるとしても、この点は、、いくつかの事例を経験するごとに修正していくことで対処することが可能であると考える。当委員会は、今後の同種の事業に備えて、総務大臣がより具体的な同意の基準を速やかに作成すべきものであると考える。同意の基準として抽象的な文言を繰り返すだけでは、自治法第250条の2の要請にこたえるものでないことは明らかである。
 しかしながら、本件同意制度は、行手法が予定するような書面による申請・審査とは異なり、地方公共団体からの協議の申出がなされた後に、国と地方公共団体とが対等の立場に立って協議を行うことが前提とされていることから、協議の過程において総務大臣の考える判断基準が明らかにされ、地方公共団体が当該判断基準に応じて主張を補充することや資料を提出することが許されるならば、当該判断基準を充足するような対応は可能である。本件においても、横浜市からの協議の申出が行われた後においてではあるが、考慮事項が実際に総務大臣から同市に伝えられたと認められ、また、当該協議の申出が行われる前においても、解説文書や口頭による応答等によって、横浜市は、地方税法第671条各号で定める消極事由の認定に当たって総務大臣がいかなる内容のものが必要であると考えていたのかを知ることができたものと認められる (もっとも、総務大臣が考えていた判断事項の内容が適法ないし適当なものであったか否かという点については、別途判断を要するところであり、後に触れることとする。)。 以上のことを考慮すると、本件においては、同意の基準が自治法第250条の2の要請に沿ったものとは認められないという手続上の瑕疵はあるが、これによって直ちに本件不同意を取り消す旨の勧告をするほどの瑕疵を帯びるものとは解されず、当委員会として、実体の判断に入るのが相当であると考える。

 3争点−中央競馬のシステムは地方税法第671条第3号の「国の経済施策」に当たるかーについて
(1)  横浜市からの協議の申出に係る勝馬投票券発売税について、地方税法第671条 第1号及び第2号で定める消極事由に該当する事実が存しないことは、両当事者の間に争いはなく、これらの消極事由に該当しないとの判断があったことは総務大臣も認めているところである。
 本件で争いの対象となっているのは、同条第3号で定める消極事由への該当性、当該消極事由の解釈である。つまり、同号で定める「国の経済施策」とはいかなる範囲のものを含むのか、具体的には、財政施策及び租税施策が同号で定める「経済施策」に含まれるのかという点と同号で定める「国の経済施策」に照らして「適当でない」とする場合の判断基準の在り方である。
前者については以下ここで判断し、後者については4で判断することとする。
(2)  経済施策という概念は、それ自体多義的な概念であるが、これに関して、総務大臣から当委員会に提出された文書(答弁書@添付資料)によれば、一般に、「経 済施策」とは経済政策の下位概念と理解されており、また、「経済施策」という中には財政施策及び租税施策が含まれるものと理解されていることが認められる。これは、日本語としての用語の常識的な理解にも適合するものと当委員会は考える。
 横浜市長は、地方税法第671条第3号で定める「経済施策」の中には租税施策は含まれない旨を主張しており(反論書@)、この理由として、同条第1号及び第2号において厳しく限定的に消極事由を定めていること、並びに税源の存在及び財政需要の存在という積極要件が地方分権一括法による改正で地方税法第 671条の規定から削除されたことを挙げている(反論書@)。しかし、同条第1号及び第2号で定める消極事由は、同条第3号で定めるそれとは全く異なる観点を特に重視すべきものとして、別個の理由によって規定されているものであり、同条第1号及び第2号で定める消極事由が限定的に規定されていることから、直ちに同条第3号で定める「経済施策」の内容及び範囲の限定的性格を読み取るべきであるとする主張には論理の飛躍があり、採用することができない。また、積極要件の削除は、国の関与をできるだけ縮減する趣旨に基づくものであり、また、税源の存在及び財政需要の存在は、租税施策を考慮する際の重要な考慮要素ではあるが、租税施策に関して考慮すべき要素のすべてではないため、税源の存在及び財政需要の存在という積極要件が削除されているからといって、直ちに租税施策全体が地方税法第671条第3号で定める「経済施策」に含まれないとの結論に至るとは考え難く、横浜市長のこのような主張も採用できない。
(3)  (2)で判断したとおり、地方税法第671条第3号で定める「経済施策」には財政施策及び租税施策が含まれるものと解すべきではあるが、総務大臣が地方公共団体からの協議の申出に同意するか否かを判断する際の消極事由の一つである同号の「国の経済施策」の中に、事の軽重を間わず、経済施策に当たると考えられるものがすべて含まれると解すると、法定外普通税の新設に係る協議の申出に対して同意する余地がほとんどなくなってしまう。このような結果は、本件同意制度の趣旨に反することとなる。総務大臣も、地方税法第671条第3号で定める「国の経済施策」とは、「経済活動に関して各省庁が行う施策の全てを含むものと考えるのは適当ではなく、『特に重要な、又は強力に推進を必要とするもの』に限られる」(答弁書@ )と主張している。別の観点からの判断についてではあるが、同条第1号及び第2号において「著しく過重」、「重大な障害」と規定していることによって、総務大臣の考慮事項に限定を付していることも、上述した限定的な解釈を支える考え方の一つの発現と解することも可能であろう。当委員会としても、同条第3号に関するこのような限定的解釈は適切であると考える。
 もっとも、「特に重要なもの」という限定的解釈をするにしても、さらに、何が「特に重要なもの」に該当するのかという問題が残る。
 この点に関しては、一律の判断基準を示すことは現段階では困難であるが、一般 的に言って、国民の経済生活に直接かつ重要な影響を及ぼす経済施策は、これに当たると考える。そして、本件のように、一定の政策の実現のための財政資金の確保が問題となっている経済施策に関しては、当該政策がとられた経緯や現時点での評価、確保される資金の量を重要性の判断基準とするのが適切である。
 この点について、総務大臣は、競馬の実施及び国庫納付金の制度が法律に基づくものであることを国の重要な経済施策に該当することの一つの根拠として挙げているが、法律で定める理由は様々であり、競馬の実施は、刑法によって賭博が禁止されているために、法律の根拠がなければ実現できないというところに重点があると解するのが相当である。問題は、法律で定められているといういわば形式的な観点からではなく、むしろ中央競馬によって確保される財政資金が、どのような経済施策に投入されるのかという実質面にあるものと考えるべきであり、当委員会は、このような実質面の問題をとらえて国民の経済生活に及ぼす影響の重要性を判断すべきであると考える。
(4) 以上のような当委員会の考え方に基づき、横浜市の勝馬投票券発売税に関して検討することとする。
 横浜市の勝馬投票券発売税は、日本中央競馬会法に基づき、国から全額出資を受けて設立された日本中央競馬会が行う中央競馬の勝馬投票券の発売額を課税標準とするものである。日本中央競満会の勝馬投票券の発売金額の100分の10及び剰余金の2分の1は国庫に納付するものとされ(第1国庫納付金及び第2国庫納付金)、この国庫納付金の4分の3は畜産振興事業等に必要な経費に、4分の1は民間の社会福祉事業に必要な経費に充てられることとされている。また、残余の剰余金は、特別振興資金、特別給付金、特別積立金として日本中央競馬会によって経理されるところ、特別振興資金から畜産振興事業等を助成するために支出される交付金については、日本中央競馬会が国とみなされ、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)が準用される。このような日本中央競馬会法の仕組みは、国の財政施策であり、国の経済施策に該当すると解される。
 畜産振興事業は、畜産物の生産から流通・消費に至る畜産振興のための施策で、国民に対する食料の安定的な供給確保の一環であり、現段階において、国の重要な経済施策であると認められる。さらに、日本中央競馬会からの平成12年度の国庫納付金額のうち畜産振興事業のために必要なものは約3,100億円で、同年度における国の畜産振興事業費約10,500億円に対して約30パーセントを占めること、その他、国の当面の財政運営に必要な財源を確保するものとして、日本中央競馬会の特別積立金からの特別国庫納付金の納付について特例措置を定める法律が制定されたことがある(例:財政運営に必要な財源の確保を図るための特別措置に関する法律(昭和56年法律第39号))ことからすると(以上、平成13年6月18日付けで農林水産省から当委員会に提出された文書より。)、日本中央競馬会法による国の財 政資金の確保は、国の経済施策の中でも特に重要なものであり、地方税法第671 条第3号に定める「国の経済施策」に該当するものと認められる。
 なお、総務大臣は、「中央競馬をはじめとする地方競馬、競輪、競艇、宝くじ等の公営競技等は、法律により定められた国・地方間の財政資金の確保に係るすみ分け−財政秩序−を構成する『法律に基づき公益目的のために財政資金を確保する仕組み』であり、『国の経済施策』に当たる」(答弁書D)と主張している。そこで考えてみると、我が国には公営競技全体を見渡した法律又は政策は存在せず、それぞれ固有の経緯によって、公営競技に関する法制が整備され、国と地方公共団体との間の資金配分がなされてきたのであり、これをもって、一つのまとまった国の経済施策とは言えないものと解される。しかし、結果として、公営競技に関する国と地方公共団体との財政上の「すみ分け」が総体として形成されていることは認められ、これを地方税法第671条第3号で定める「国の経済施策」とみて、本件勝馬投票券発売税がこれに対して及ぼす影響を考えてみる余地がないわけではない。

 4 争点4−中央紘喝のシステムが「国の経済施策」に該当するとした場合、勝馬投票券発売税は国の経済施策に「照らして適当でない」と言えるかーについて
(1)  地方税法第671条第3号では、法定外普通税の新設に係る協議の申出に対する同意の消極要件として「国の経済施策に照らし叟適当でない」と規定していることから、ここでいう「適当でない」の意味は、協議の申出の対象である法定外普通税を課すことによって国の経済施策に負の影響を与えることであり、すなわち国の経済施策の推進に障害となる結果、適当でないと判断される場合を指すものであるということは、その文理上明らかである。
 しかしながら、国の経済施策に負の影響を与える度合いは多様であり、仮にこの影響の度合いの大小を問わず、少しでも影響を及ぼす場合には、地方税法第671 条第3号で定める消極事由に該当するものと解すると、地方公共団体が法定外普通税を課することによって何らかの意味で国の経済施策に負の影響を与える可能性があると考えられることから、ほとんど国の経済施策の推進を阻害するおそれがあるとされかねず、妥当な解釈とは考えられない。したがって、先に地方税法第671 条第3号で定める「経済施策」の解釈に当たって「重要な」経済施策に限定して解すべきものとした趣旨に沿って、同号で定める「適当でない」の解釈についても「重要な」影響を及ぼす場合との限定を付するのが相当と考える。
 もっとも、ここで「重要な」という限定を付するにしても、「重要な」ということの解釈自体を今少し検討しておく必要があるものと思われる。
(2)  この点に関して、総務大臣は、不同意の理由として、勝馬投票券発売税により「畜産振興及び民間社会福祉事業の振興のために必要な経費に充てることとされている国庫納付金への配分等に影響が生ずることとなる。なお、仮に日本中央競馬 会の施設が所在する地方公共団体全てが勝馬投票券発売税と同様の課税を行った場合、中央競馬により公益目的のために財政資金を確保する基本的な仕組みを損なうこととなる」(不同意通知添付別紙)としているところである。
 その後、総務大臣は、当委員会における審査の過程で、「国庫納付金への配分等に影響が生じる」ということの意義について、勝馬投票券発売税はr『中央競馬による公益目的のための財政資金確保の仕組み』だけを直接課税対象にするものであり、『国の経済施策』への影響は相当程度大きいものであると認められること」(答弁書B)を挙げ、「公益日的のために財政資金を確保する仕組みである公営競技については、日本中央競馬会が中央眺喝を行うことができる一方、都道府県等が地方競馬や競輪、競艇などを行うことができるものと法律により定められており、地方にも公営競技を自ら施行することによる歳入確保の道が開かれている」(答弁書B)ので、勝馬投票券発売税はこのように法律によって国と地方の間の公営競技施行権を配分することにより定められている国と地方の間の財政的秩序を、税という形をとりながら損なうものであると考えられることも踏まえると、『国の経済施策』に重要な影響を及ぼすと認められるものであることを意味している」(答弁書B)としている。
 このうち、影響が「相当程度大きい」としていることについては、本件勝馬投票券発売税によって、国庫等に入るべき金額が減少するといういわば量的問題と、日本中央競馬会法の仕組みそれ自体を損なうといういわば制度的問題とが含まれていると解され、「重要な影響を及ぼす」としていることについては、公営競技に関し、国と地方公共団体との間の資金配分に係る現行制度への影響を指摘しているものと解される。
 さらに、総務大臣は、本件における量的影響と制度的影響との関係について、後者を主たる問題とし、前者をいわば予備的な問題として整理している(答弁書D)。
(3)  そこで、当委員会の考えを明らかにした上で、この考えに沿って順次検討することとする。
 重要なことは、国の経済施策に対する重要な負の影響について判断する際には、できる限り客観的な基準によるべきことである。とりわけ本件のような財政資金の確保に係る施策に対する重要な負の影響は、その及ぼす量的影響の程度が客観的な判断基準になるものと考えられ、この点をまず検討すべきである。次いで、その影響が質的ないし制度的に根本的な変化を招来するに等しいと評価されるか否か等の検討を行い、量的影響との総合判断の結果として、重要な負の影響があると認めるべき場合があるという基準で考えるべきものと解するのが相当である。
(4)  まず、勝馬投票券発売税による量的影響については、横浜市が徴収する予定の税額は約10億円であり、これだけでは、畜産振興事業及び民間の社会福祉事業に は、本件勝馬投票券発売税が結果として国と地方公共団体との財政上の仕切りに影響を与えることになることは明らかである。しかしながら、条例によりこれにいささかでも変動を生じさせるならば、直ちにいうところの「すみ分け」政策に重要な負の影響を及ぼすという主張については、いかなる意味で重要な負の影響があるかということに関する実質的根拠及びこれが条例によっては変動を生じさせることのできない厳格な秩序であるとする法的根拠が必ずしも明確でない。
 総務大臣は、地方税法第671条第3号の該当性を検討するに当たり、特別の負担を求めるべき合理的な課税の理由の存否を検討対象としているが、これは、条例の内容によっては、国と地方の財源配分に実質的に変動を生じさせる場合でも、法定外普通税を新設する余地があることを前提としたものであって、総務大臣の側においても、現在の財政秩序が国の法律によってのみ変動が許されるという程には厳格なものでないとしていると解される。
 当委員会としては、公営競技による資金配分については国と地方の間に財政上の仕切りが一応なされていることは認めるところであるが、問題は、結局のところ、勝馬投票券発売税が日本中央競馬会法上の基本的仕組み自体に重要な負の影響を及ぼし、日本中央競馬会による国の財政資金の確保という施策に重要な負の影響を及ぼすものであるかどうかという既に検討した問題に帰着することになると考えられ、この点については、地方税法第669条が予定しているような協議がなされていないことは既に指摘したとおりである。
(6)  以上の次第で、当委員会は、本件勝馬投票券発売税につき、総務大臣はこれまでに指摘した事項を基に、横浜市となお協議を重ね、その結果を待って、再度判断すべきものと考える。
 「協議」とは、既に指摘したように、合意(又は同意)に向けて双方が意見を交換し、意見を異にする場合には、互いに相手方の意見を尊重することを前提に、しかるべき譲歩をしながら双方の意見の一致を見出す努力を重ねる過程をいうものと当委員会は考える。したがって、双方の意見に対立がある場合に、双方がそれぞれ自己の意見に固執し、双方の意見の一致を見出す努力を重ねないならば、その実は「協議」ではない。
 本件における協議は、互いに建前を貫こうとしたためか、真の意味での協議がなされたとは言い難い状況である。
 横浜市が勝馬投票券発売税に係る条例を既に制定しているという点については、条例の制定は横浜市側の意思決定であり、これによって協議の在り方やその結果が左右されるものではなく、協議の過程において、勝馬投票券発売税の内容を修正することもあり得ると解される。
(7)  総務大臣においては、地方税法第671条第3号で定める消極事由の認定について、国の経済施策に対する影響の程度のみならず、課税の目的、内容等を総合的に 考慮して判断する必要があるという解釈をとっており、再度の協議においても今回と同様の事態が繰り返されるおそれがあるため、この問題に関する当委員会の解釈をここで明らかにしておく。
 まず、地方税法第671条第3号の規定の文理解釈として、「適当でない」かどうか判断するに当たって照らすのは、既に存在する「国の経済施策」であり、これとは別に、市町村側の事由である特別の負担を求めるべき合理的理由を同号で定める消極事由に読み込むことは適切でない。
 特別の負担を求めるべき合理的理由の存否について、総務大臣は、「『国の経済施策に照らして適当でない』かどうかの判断に当たっては、課税の目的、内容等の諸般の事情と国の経済施策に与える影響とについて総合的に判断する必要」(答弁書 A)があり、これは「国の経済施策に影響を与える法定外税であっても直ちに『適当でない』ものとせず、特別の負担を求めるべき合理的な理由があれば適当であると判断しうるとの考え方に立っているから」(答弁書A)であると主張している。
 課税の目的、内容以外に考慮の対象とされているのは、方法、住民(納税者)の担税力、住民(納税者)の受益の程度、課税を行う期間、税収入見込額、特定の者によって惹起される特別な財政需要に要する費用のために負担を求める税については当該税収を必要とする特別な財政需要の有無等の諸般の事情であり、これは制限列挙ではなく、また、それぞれの考慮事項の軽重の度合いも明らかにされていない。このような総合的判断は、地方税法第671条第3号で定める消極事由の認定に際して、総務大臣の裁量の幅が極めて広いことを前提としている。
 しかし、市町村の法定外普通税に関する課税権の行使が結果的に総務大臣の広い裁量的判断に委ねられるということでは、課税自主権をより尊重するために、地方分権一括法による改正で地方税法第671条の規定から市町村側の事由である積極要件が削除され、同条各号で定める消極事由のいずれかがあると認められる場合を除き同意しなければならないとされている現行地方税法第671条の趣旨に適合するとは言えないものと解される。なお、関与の法定主義について定めている自治法第245条の2の法意に照らしても、同様に解される。
 以上の見地から、再び行われるべき協議においては、不同意とするか否かの判断に当たって、特別の負担を求めるべき合理的理由があるか否かを基準として用いるべきではないと考える。

5  その他
国の経済施策に対する影響の問題とは別に、例えば、勝馬投票券発売税が日本中央競馬会法に違反する場合に、これを不同意要件の中に入れて総務大臣が判断することができるという意見もあるが、これは別の訴訟の前提問題として取り扱われるべき事 柄であると考える。

6  まとめ
 以上検討したとおり、当委員会は、勝馬投票券発売税の新設に関する横浜市からの協議の申出に対する総務大臣の不同意は、自治法及び地方税法で定める協議を尽くさずになされた点に瑕疵があるものと認め、総務大臣はその不同意を取り消し、平成12 年12月21日付けの横浜市からの協議の申出について、同市と改めて協議をすることを勧告する。改めて行われる協議においては、地方税法第671条第3号で定める消極事由の認定に当たって、特別の負担を求めるべき合理的理由の存否を検討することは同法の認めるところではないと解されるため、国の経済施策に照らして「重要な」負の影響を及ぼすか否かという観点に限定して当該認定がなされるべきであるが、この認定についての総務大臣の判断をより適切なものとするためには、横浜市も積極的に協議に臨む必要がある。
 なお、終わりに当たり付言しておく。
 横浜市の勝馬投票券発売税は日本中央競馬会にのみ課される税であり、そういう意味で、極めて特殊、例外的な税である。地方公共団体は、住民と正面から向き合って自らの責任と負担で施策を進めることが本来の地方分権の趣旨であり、このような観点からみた場合、横浜市の勝馬投票券発売税が果たして望ましいものであったか疑問である旨の総務大臣の指摘にはもっともな点を含むと考える。
 横浜市としては、今次の地方分権の推進の意義に十分思いを致すとともに、本件に関心を持つ市町村における同種の税の新設に関する今後の動向にも配慮して、改めて協議に臨むべきであり、また、その過程において、日本中央競馬会に対しても、求めに応じて適切に説明をすることが重要であると考える。

 国地方係争処理委員会
 委 員 長  塩 野  宏
 委員長代理  上 谷  清    
 委   員  大 城 光 代
 委   員  五 代 利矢子   
 委   員  藤 田 宙 靖


別表第1  当事者が当委員会に提出した文書
     [横浜市長からの提出文書]           

文書名

提出日

略称

「審査申請書」 平成13年4月25日(水) 審査申請書
「反論書」   同年5月29日(火) 反論書@
「証拠説明書(2)」   同年6月22日(金)
「再反論書」   同年6月26日(火) 反論書A
「証拠説明書(3)」   同年7月 9日(月)
「再反論書(その2)」   同年7月 9日(月) 反論書B

     [総務大臣からの提出書類]

文書名

提出日

略称

「横浜市の審査申請書に関する答弁書の提出について」 平成13年5月14日(月) 答弁書@
「横浜市の反論書に対する再答弁書」   同年6月 7日(木) 答弁書A
「第2回国地方係争処理委員会での論点等に
対する回答書の提出について証拠説明書(2)」
  同年6月22日(金) 答弁書B
「横浜市の反論書に対する反論書の提出について」   同年7月 9日(月) 答弁書C
「平成13年国地方係第1号の審査に関する意見書の提出について」   同年7月 9日(月) 答弁書D

別紙第2 当委員会における審査の経緯

 

審査期日

合議

第1回審査 平成13年5月 9日(水) @横浜市長(及び代理人)からの口頭陳述
A総務大臣(代理人)からの口頭陳述
B当委員会委員からの発問等
C合議
第2回審査   同年6月 8日(金) 合議
第3回審査   同年6月29日(金) @金子宏参考人による鑑定
 …横浜市「勝馬投票券発売税」に対する総務大臣の不同意が適法かつ適当なものであったかどうかについて陳述
A参考人(農林水産省及び日本中央競馬会)の審尋
 …日本中央眺喝会の馬券投票券の発売金の流れ、横浜市の勝馬投票券発売税が日本中央競馬会に課税された場合の影響等について陳述(農林水産省生産局長、同省競馬監督課長及び日本中央競薦会理事長から陳述)
B当委員会委員からの発問等
C合議
第4回審査   同年7月 4日(水) 合議
第5回審査   同年7月11日(水) 合議
第6回審査   同年6月13日(金) 合議
第7回審査   同年7月18日(水) 合議(勧告内容の決定)

A1 自治体の例規

A2 自治体の情報

B1 国の法令類

B2 国の情報

C 行政関係判例

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