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 最高裁(第一小法廷)平成14年09月12日判決

    〔情報公開−奈良県食糧費支出関係文書〕


 平成11年(行ヒ)第50号・奈良県食糧費情報公開請求事件
 破棄自判

   第一審→奈良地方裁判所平成10年03月04日判決(平成9年(行ウ)第5号)
   控訴審→大阪高等裁判所平成11年01月21日判決(平成10年(行コ)第14号)

  被上告人 奈良県知事 代理人 
北岡秀晃 同 石川量堂
 判例タイムズ1108号148頁、判例時報1804号21頁


 主 文
 原判決を破棄する。
 被上告人の控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。


 理 由
 上告代理人北岡秀晃,同石川量堂の上告受理申立て理由について
 1 本件は,奈良県の住民である上告人が,奈良県情報公開条例(平成8年奈良県条例第28号。以下「本件条例」という。)に基づき,本件条例所定の実施機関である被上告人に対し,食糧費に係る情報の公開請求をしたところ,その一部につき非開示処分を受けたので,その取消しを求める事件である。
 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1)上告人は,平成8年10月1日,被上告人に対し,「平成7年度分の食糧費に係る支出負担行為決議兼支出命令書,請求書,懇談会に係るもので懇談内容及び目的の分かるもの(東京事務所)」の公開を請求した。
 (2)上記公開請求に対し,被上告人は,平成8年10月15日,平成7年度分の奈良県東京事務所の食糧費支出に係る支出負担行為決議兼支出命令書(支出負担行為兼支出内訳書を含む。)及び請求書(以下「本件公文書」という。)のうち,食糧費支出に係る債権者の取引銀行名及び口座番号が記載された部分並びに請求書に押なつされた債権者の印影(以下「本件非開示部分」という。)が本件条例10条3号に該当することを理由に,それらの部分を開示しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。
 (3)上記の支出負担行為決議兼支出命令書に記載された債権者の取引銀行名及び口座番号(以下「口座番号等」という。)は,債権者が請求書に記載したものを奈良県において転記したものである。
 (4)本件条例10条は,実施機関は,公文書の開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは,当該公文書の開示をしないことができると定め,同条3号において,「法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,開示することにより,当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められるもの。」と規定している。
 2 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断し,本件処分を取り消すべきものとした第1審判決を取り消して,上告人の請求を棄却した。
 (1)本件非開示部分は,本件条例10条3号にいう法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報に該当する。
 (2)事業者が取引をする銀行口座やそれに使用する印章,印影については,一般的には,いわゆる内部管理情報として秘密にしておくことが是認され,事業者は,その開示の可否,範囲を自ら決定することができる権利ないしそれを自己の意思によらないでみだりに他に開示,公表されない利益を有しているというべきである。したがって,事業者の意思によらないでその内部管理情報が公表されることは,事業者の正当な意思,期待に反し,本件条例10条3号にいう正当な利益が損なわれるとみるのが相当である。
 (3)本件非開示部分は,上記の内部管理情報に当たる上,悪用されるおそれが多分にあり,これを開示することにより債権者の正当な利益が損なわれると認められるから,本件非開示部分は本件条例10条3号に該当する。
 3 しかしながら,原審の上記(2),(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1)本件条例10条3号に該当するというためには,当該情報を開示することによって当該事業者の競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められることを要するところ,元来は事業者が内部限りにおいて管理して開示すべき相手方を限定する利益を有する情報であっても,事業者がそのような管理をしていないと認められる場合には,これが開示されることにより正当な利益等が損なわれると認められることにはならないものというべきである。
 (2)本件非開示情報のうち口座番号等は,飲食代金の請求書に飲食業者である債権者が記載したものであり,代金の振込送金先を指定する趣旨のものであると認められる。そして,一般的な飲食業者の業務態様をみれば,不特定多数の者が新規にその顧客となり得るのが通例であり,代金の請求書に口座番号等を記載して顧客に交付している飲食業者にあっては,口座番号等を内部限りにおいて管理することよりも,決済の便宜に資することを優先させているものと考えられ,請求書に記載して顧客に交付することにより,口座番号等が多数の顧客に広く知れ渡ることを容認し,当該顧客を介してこれが更に広く知られ得る状態に置いているものということができる。このような情報の管理の実態にかんがみれば,顧客が奈良県であるからこそ債権者が特別に口座番号等を開示したなど特段の事情がない限り,本件非開示情報のうち口座番号等は,これを開示しても債権者の正当な利益等が損なわれると認められるものには当たらないというべきである。そして,本件において上記の特段の事情があることは,原審により確定されていない。
 (3)本件非開示情報のうち印影は,債権者の請求書に押なつされているものであり,通常は銀行取引に使用する印章を請求書に押なつすることはないと考えられるから,原審が前記判断の前提としてこれを銀行印の印影であるとしていることには,誤りがあるといわざるを得ない。そして,(2)に述べたところからすれば,請求書に押なつされている飲食業者の印影は,これを開示しても債権者の正当な利益等が損なわれると認められるものには当たらないことが明らかである。
 (4)以上のとおりであるから,本件非開示部分は,いずれも本件条例10条3号に該当するとはいえない。
 4 以上によれば,本件処分は,本件条例所定の非開示事由があるとはいえないにもかかわらずされたものであって,違法というべきであるから,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件処分を取り消すべきものとした第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 町田顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子)


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