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 最高裁(第三小法廷)平成15年11月11日判決

    〔情報公開・個人情報−小学校児童指導要録の本人開示/東京都大田区〕


 平成11年(行ヒ)第12号・公文書非開示決定処分取消請求事件
 一部破棄自判、一部棄却
 判例タイムズ1143号214頁、判例時報1846号3頁


 主 文
 1 原判決中、主文第1、2項を破棄する。
 2 被上告人の控訴を棄却する。
 3 上告人のその余の上告を棄却する。
 4 訴訟の総費用はこれを2分し、その1を上告人の負担とし、その余を被上告人の負担とする。


 理 由
 上告代理人和久田修、同小畑明彦、同高木佐基子の上告受理申立て理由について
 1 本件は、上告人が、中学2年在学中の平成6年3月17日、被上告人に対し、東京都大田区公文書開示条例(昭和60年東京都大田区条例第51号。平成10年東京都大田区条例第65号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき、小学校在籍当時の上告人に係る小学校児童指導要録(以下、小学校児童指導要録を「指導要録」といい、上告人に係る指導要録を「本件指導要録」という。)の開示を請求したところ、被上告人が、平成6年4月1日、本件指導要録に記録された情報は本件条例10条2号に該当するとして、これを非開示とする旨の決定(以下「本件処分」という。)をしたため、上告人が、本件処分のうち本件指導要録の裏面を非開示とした部分の取消しを求めている事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 (1)本件条例9条柱書きは、「実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の開示をしないことができる。」と規定し、同条1号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。」と規定している。また、本件条例10条柱書きは、「実施機関は、前条第1号本文の規定にかかわらず、請求権者(法人その他の団体を除く。)から、自己に係る情報について公文書の開示の請求があった場合は、当該情報を開示しなければならない。ただし、次に掲げる各号の一に該当するときは、この限りでない。」と規定し、同条2号は、「個人の指導、診断、判定又は評価等に関する情報であって、当該個人に開示しないことが正当と認められるもの」と規定している。
 (2)指導要録は、学校教育法施行規則12条の3第1項の規定により、校長が作成しなければならない文書であるが、実際に記載するのは児童の担任教師である。指導要録制度の趣旨、目的は、児童の学籍並びに指導の過程及び結果の要約を各学年を通じて記載し、成長過程にある児童の学習、生活を総合的に把握し、継続的に適切な指導、教育を行うための基礎資料とすることにあり、指導要録は、外部に対する学籍の証明の原簿としての機能と指導の記録としての機能を併せ持つものである。本件処分当時、東京都大田区においては、指導要録を上記のような基礎資料とするために、児童又はその保護者等(以下「児童等」という。)には開示しないという前提で、担任教師が、自らの言葉で、児童の良い面、悪い面を問わず、ありのままを指導要録に記載することとされていた。
 (3)上告人が小学校在籍当時用いられていた指導要録の様式は、第1審判決別紙のとおりであり、その表面は、「学校名及び所在地」、「校長氏名印」、「学級担任者氏名印」、「学籍の記録」、「出欠の記録」等の各欄から成っており、学籍に関する事項が記載される。その裏面は、「各教科の学習の記録」、「特別活動の記録」、「行動及び性格の記録」及び「標準検査の記録」の各欄から成っており、学年別に指導に関する事項が記載される。裏面に記載される事項の詳細は、次のとおりである。
 ア 「各教科の学習の記録」欄は、更に「〈1〉観点別学習状況」欄、「〈2〉評定」欄及び「〈3〉所見」欄に分かれている。「〈1〉観点別学習状況」欄には、各教科ごとに複数の「観点」が設けられており、その観点ごとに小学校学習指導要領に示された目標の達成状況を評価し、目標を十分に達成したものについてはAを記載し、おおむね達成したものについては空欄のままとし、達成が不十分なものについてはBを記載する。「〈2〉評定」欄には、各教科の学習について、各教科別に行う総合的な評価を基礎として、他の児童との比較における相対的評価により、第3学年以上の各学年については5段階で評定した結果を、その余の学年については3段階で評定した結果を記載する。「〈3〉所見」欄には、各教科の学習について、総合的にみた場合の児童の特徴や指導上留意すべき事項を記載する。具体的には、児童個人として比較的優れている点又は劣っている点、各教科の学習全体を通して見られる児童の特徴に関すること、学習に対する努力、学習態度等の児童の日常の学習状況に関すること、児童の体力の状況及び学習に影響を及ぼすような児童の健康の状況に関すること等を記載するものとされている。
 イ 「特別活動の記録」欄には、特別活動への参加態度、学級会・児童会の係や委員の経験、クラブや学校行事における活動状況等を記載する。意欲を持って集団活動に参加し、熱心に自己の役割を果たした場合には、同欄中の「1 活動の意欲」の番号に○を付け、所属集団の活動の発展・向上に大いに寄与した場合には、同欄中の「2 集団への寄与」の番号に○を付ける。
 ウ 「行動及び性格の記録」欄は、更に「〈1〉評定」欄及び「〈2〉所見」欄に分かれている。「〈1〉評定」欄には、基本的な生活習慣、自主性、責任感等の項目が設けられており、児童の行動及び性格について観察して、各項目ごとに、優れたものについてはAを記載し、特徴を認め難いものについては空欄のままとし、特に指導を要するものについてはBを記載する。「〈2〉所見」欄には、全体的にとらえた児童の特徴、「〈1〉評定」欄でBと評定された項目に関する具体的な理由又は指導方針、指導上特に留意する必要があると認められる児童の健康状況及び配慮事項、趣味・特技、校外生活における顕著な行動等を記入する。
 エ 「標準検査の記録」欄は、更に「学年」欄、「検査年月日」欄及び「検査の名称・結果・備考」欄に分かれている。標準化された知能検査等で、妥当性、信頼性の高いものを正確に実施した場合に記載するが、必ずしも実施したすべての標準検査の結果を記載する必要はないとされている。「検査の名称・結果・備考」欄には、検査の名称、結果のほか、検査時の条件、結果の分析的考察等、検査結果を理解、利用する上で必要な事項があった場合に、当該事項を具体的に記載し、必要に応じて、検査者の氏名も記載する。
 (4)本件指導要録は、上記の様式の指導要録を用いて、上記の記載方法等に基づいて作成されている。
 3 原審は、上記事実関係等の下において、次のとおり判断し、本件処分のうち本件指導要録の裏面を非開示とした部分は適法であるとして、上告人の請求を全部棄却すべきものとした。
 本件指導要録の裏面のうち「各教科の学習の記録」欄、「特別活動の記録」欄及び「行動及び性格の記録」欄には、児童等に開示することを予定せずにその評価等がありのまま記載されているから、これを開示すると、当該児童等の誤解や不信感、無用の反発等を招き、担任教師等においても、そのような事態が生ずることを懸念して、否定的な評価についてありのままに記載することを差し控えたり、画一的な記載に終始するなどし、その結果、指導要録の記載内容が形がい化、空洞化し、指導、教育のための基礎資料とならなくなり、継続的かつ適切な指導、教育を困難にするおそれがある。また、本件指導要録の裏面のうち「標準検査の記録」欄に記載された検査等も、児童等に内容を告知することが予定されていないものであり、これを開示すると、児童等が、検査結果を固定的、絶対的なものとして受け止め、とりわけ結果が良好でなかった場合には学習意欲や向上心を失ったり、無用な反発をし、その結果、児童等と担任教師等との間の信頼関係が損なわれ、その後の指導等に支障を来すおそれがあるし、担任教師等においても、そのような事態が生ずることを懸念して検査結果の記載を差し控えるなどし、その結果、継続的かつ適切な指導、教育を困難にするおそれがある。したがって、本件指導要録の裏面の各欄に記録された情報は、いずれも本件条例10条2号の非開示情報に該当する。
 4 原審の上記判断中、本件指導要録の裏面のうち「各教科の学習の記録」欄中の「〈3〉所見」欄、「特別活動の記録」欄及び「行動及び性格の記録」欄の部分に記録されている情報(以下「本件情報1」という。)について、これが本件条例10条2号の非開示情報に該当するとした部分は、正当として是認することができるが、本件指導要録の裏面のうち「各教科の学習の記録」欄中の「〈1〉観点別学習状況」欄及び「〈2〉評定」欄並びに「標準検査の記録」欄の部分に記録されている情報(以下「本件情報2」という。)について、これが同号の非開示情報に該当するとした部分は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1)前記事実関係等によれば、本件情報1は、児童の学習意欲、学習態度等に関する全体的評価あるいは人物評価ともいうべきものであって、評価者の観察力、洞察力、理解力等の主観的要素に左右され得るものであるところ、大田区においては、当該情報については、担任教師が、開示することを予定せずに、自らの言葉で、児童の良い面、悪い面を問わず、ありのままを記載していたというのである。このような情報を開示した場合、原審が指摘するような事態が生ずる可能性が相当程度考えられ、その結果、指導要録の記載内容が形がい化、空洞化し、適切な指導、教育を行うための基礎資料とならなくなり、継続的かつ適切な指導、教育を困難にするおそれを生ずることも否定することができない。そうすると、本件情報1が本件条例10条2号の非開示情報に該当するとした原審の判断は、正当として是認することができる。本件情報1に関する論旨は、採用することができない。(2)前記事実関係等によれば、本件情報2のうち「各教科の学習の記録」欄中の「〈1〉観点別学習状況」欄に記録されているものは、各教科の観点別に小学校学習指導要領に示された目標を基準としてその達成状況を3段階に分けて評価した結果であり、「各教科の学習の記録」欄中の「〈2〉評定」欄に記録されているものは、上記の評価を踏まえて各教科別に3段階又は5段階に分けて評価した結果であるというのである。そうすると、以上の各欄に記録された情報は、児童の日常的学習の結果に基づいて学習の到達段階を示したものであって、これには評価者の主観的要素が入る余地が比較的少ないものであり、3段階又は5段階という比較的大きな幅のある分類をして、記号ないし数字が記載されているにすぎず、それ以上に個別具体的な評価、判断内容が判明し得るものではない。そうすると、これを開示しても、原審がいうような事態やおそれを生ずるとはいい難い。したがって、上記各欄に記録された情報は、本件条例10条2号の非開示情報に該当しないというべきである。また、前記事実関係等によれば、本件情報2のうち「標準検査の記録」欄に記録されているものは、実施した検査の結果等客観的な事実のみが記載されているというのであるから、これを開示しても、原審がいうような事態やおそれを生ずることは考え難い。したがって、同欄に記録された情報も、同号の非開示情報に該当しないというべきである。本件情報2に関する論旨は、理由がある。
5 以上によれば、原審の前記判断中、本件情報2が本件条例10条2号の非開示情報に該当するとした部分には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決中本件情報2に係る部分は、破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、同部分につき上告人の請求を認容した第1審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却し、上告人のその余の上告を棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)


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