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最高裁(第三小法廷)平成15年12月25日決定
〔行政立法−戸籍法施行規則60条と戸籍法50条1項/人名「曽」札幌市厚別区事件〕
平成15年(許)第37号・市町村長の処分不服申立審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
抗告棄却
第一審・札幌家庭裁判所平成15年02月27日判決(平成14年(家)第2161号)
控訴審・札幌高等裁判所平成15年06月18日判決(平成15年(ラ)第56号)
家庭裁判月報56巻6号127頁、判例タイムズ1141号122頁、判例時報1846号11頁
主 文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理 由
抗告代理人畠山稔,同山崎栄一郎,同近藤健一,同角井俊文,同高倉孝志,同及川正治,同其田史朗の抗告理由について
1 本件は,相手方が,子の名を「曽○」と記載した出生届の追完届を戸籍事務管掌者である抗告人に提出したところ,抗告人により,「曽」の字が戸籍法施行規則(以下「施行規則」という。)60条に定める文字でないことを理由として上記追完届の不受理処分がされ,これに対し,相手方が不服申立てをした事案である。
2 戸籍法(以下「法」という。)50条1項が子の名には常用平易な文字を用いなければならないとしているのは,従来,子の名に用いられる漢字には極めて複雑かつ難解なものが多く,そのため命名された本人や関係者に,社会生活上,多大の不便や支障を生じさせたことから,子の名に用いられるべき文字を常用平易な文字に制限し,これを簡明ならしめることを目的とするものと解される。
法50条2項は,常用平易な文字の範囲は法務省令でこれを定めると規定し,施行規則60条が法50条2項の常用平易な文字の範囲を定めている。同項による委任の趣旨は,当該文字が常用平易な文字であるか否かは,社会通念に基づいて判断されるべきものであるが,その範囲は,必ずしも一義的に明らかではなく,時代の推移,国民意識の変化等の事情によっても変わり得るものであり,専門的な観点からの検討を必要とする上,上記の事情の変化に適切に対応する必要があることなどから,その範囲の確定を法務省令にゆだねたものである。施行規則60条は,上記委任に基づき,常用平易な文字を限定列挙したものと解すべきであるが,法50条2項は,子の名には常用平易な文字を用いなければならないとの同条1項による制限の具体化を施行規則60条に委任したものであるから,同条が,社会通念上,常用平易であることが明らかな文字を子の名に用いることのできる文字として定めなかった場合には,法50条1項が許容していない文字使用の範囲の制限を加えたことになり,その限りにおいて,施行規則60条は,法による委任の趣旨を逸脱するものとして違法,無効と解すべきである。そして,法50条1項は,単に,子の名に用いることのできる文字を常用平易な文字に限定する趣旨にとどまらず,常用平易な文字は子の名に用いることができる旨を定めたものというべきであるから,上記の場合には,戸籍事務管掌者は,当該文字が施行規則60条に定める文字以外の文字であることを理由として,当該文字を用いて子の名を記載した出生届を受理しないことは許されないというべきである。裁判所が,以上の点について審査し,決定する権限を有することはいうまでもないところである。
そうすると,市町村長が施行規則60条に定める文字以外の文字を用いて子の名を記載したことを理由として出生届の不受理処分をし,これに対し,届出人が家庭裁判所に不服を申し立てた場合において,家庭裁判所及びその抗告裁判所は,審判,決定手続に提出された資料,公知の事実等に照らし,当該文字が社会通念上明らかに常用平易な文字と認められるときには,当該市町村長に対し,当該出生届の受理を命ずることができるというべきである。
上記の見地に立って本件をみるに,「曽」の字が古くから用いられており,平仮名の「そ」や片仮名の「ソ」は,いずれも「曽」の字から生まれたものであること,「曽」の字を構成要素とする常用漢字が5字もあり,いずれも常用平易な文字として施行規則60条に定められていること,「曽」の字を使う氏や地名が多く,国民に広く知られていることなど原審の判示した諸点にかんがみると,「曽」の字は,社会通念上明らかに常用平易な文字であるとした原審の判断は相当である。
3 以上によれば,これと同旨の見解に基づき,抗告人に対し,相手方が子の名を「曽○」と記載して提出した出生届の追完届の受理を命じた原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三)
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