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 最高裁(第三小法廷)平成16年07月13日判決

  〔行政処分の瑕疵・無効−法人税更正処分にかかる事実誤認の明白性〕


 平成12年(行ヒ)第32号、平成12年(行ヒ)第33号、平成12年(行ヒ)第34号・法人税更正処分等取消請求事件
 破棄自判

   第一審・熊本地方裁判所平成08年03月29日判決(平成2年(行ウ)第13号)
   控訴審・福岡高等裁判所平成11年04月27日判決(平成8年(行コ)第11号)

 判例タイムズ1164号114頁、判例時報1874号58頁


 主 文
 原判決中上告人ら敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき被上告人らの控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。


 理 由
 平成12年(行ヒ)第32号上告代理人山崎潮ほかの上告受理申立て理由第四,平成12年(行ヒ)第33号上告代理人舞田邦彦ほかの上告受理申立て理由第四及び平成12年(行ヒ)第34号上告代理人成瀬公博ほかの上告受理申立て理由第四について
 1 本件は,亡B(以下「B」という。)の主宰していた無限連鎖講の事業主体が昭和47年5月20日から法人でない社団で代表者の定めがあるC研究所(以下「C研究所」という。)になったとして,C研究所の名義でされた同48年4月1日から同49年3月31日まで及び同年4月1日から同50年3月31日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の法人税,法人県民税,法人事業税及び法人市民税の申告について,それぞれ増額更正(以下「本件各更正」という。)がされた後,Bの相続財産の破産管財人である被上告人らが,C研究所は法人でない社団としての実体を欠き本件各更正は無効であると主張して,上告人らに対し,これに基づき納付された各金員の還付及び還付加算金の支払を求める事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1)Bは,昭和42年以降,無限連鎖講を次々と考案し,自らその本部となって講を運営していたが,講加入者の急増に伴い,税務調査を受けるようになり,同46年11月,所得税更正及び重加算税賦課決定を受けたことから,税務対策上も団体化を急ぐこととした。
 (2)Bは,C研究所と称する法人でない社団の定款案の策定のため,昭和47年,本部関係者十数人及び地方の有力会員が自発的に組織した支部の関係者十数人の出席の下に2回にわたって発起人会を開催し,発起人会の決議を受けて,同年5月20日,C研究所の創立会員総会を開催した。同総会において議決権を有する会員代表については,これに先立つ同月12日の理事会において,熊本県支部から20人を,その余の支部から各15人を選出すること及びその選出方法を各支部にゆだねることが決定されていた。議事録によれば,同総会には,各支部選出の会員代表140人中94人及び支部外会員代表6人が出席し,定款案等が審議され,可決された。
 なお,定款を変更するためには,会員総会に会員代表の2分の1以上が出席し,その3分の2以上の同意を要する旨の規定が,定款に置かれていた。
 (3)C研究所の定款は,構成員である会員の資格について,「本会の目的に賛同し,本会の立案育成する相互扶助の組織に加入したものを会員とする。」(7条1項),「前項の組織に加入するにはその都度所定の申込書に入会金を添えて本会に提出するものとする。」(同条2項),「会員となった者は毎年1回以上同一組織に加入するものとする。」(同条3項)と定め,8条において,死亡,退会の申出及び定款違反による除名を会員の資格喪失事由として定めていた。しかし,C研究所設立前のいつの時点から講に入会した者が会員となるのかについて,定款上定めがなかった。また,いったん会員となった者が1年後に同一の組織に加入しなかった場合に,定款7条3項により会員資格を喪失するのかなどの点が,明確でなかった。
 (4)C研究所の定款は,意思決定機関である会員総会について,〔1〕会員総会が各支部選出の会員代表によって構成されること,〔2〕会員代表の数は,理事会が各支部の会員数に応じて決定すること,〔3〕会長が会員総会の議長となること,〔4〕その決議は,会員代表の2分の1以上が出席して,その過半数をもって決すること,〔5〕基本財産の処分,歳入歳出予算及び歳入歳出決算の承認,定款の変更その他会長の付議する事項を会員総会に付議することを定めていた。毎年5月に定時会員総会が開催され,役員及び定足数を満たす会員代表の出席の下に,一定の議題について審議及び採決が行われ,議事や議決の結果は,会計年度ごとに作成される事業報告書に定款の内容等と共に掲載され,本部及び支部事務所に備付けられた。
 (5)定款に基づいて制定された支部運営規則は,支部長が,毎年,理事会の定める数の会員代表を定時総会開催予定日の1か月前までに会員の選挙又は互選の方法により選出しておくべき旨を定めていた。各支部は,会員代表の選出のために支部大会を開催し,その開催がある旨を地元紙への広告掲載等によって周知した結果,相当数の会員が支部大会に出席し,1000人以上の会員が出席した支部もあった。もっとも,理事会による各支部の会員代表数の決定の基準は,一貫しておらず,会員代表の具体的な選出方法の定めのない支部も多数あった。 
 (6)C研究所の定款は,業務執行機関である理事会及び代表機関である会長について,〔1〕Bが,終身理事かつ会長であること,〔2〕会長がC研究所を統轄し,代表すること,〔3〕理事が理事会を組織し,会務の執行を決定すること,〔4〕理事の員数が15人以上30人以内であること,〔5〕会長が理事の3分の1を指名し,その余の理事及び監事を,会員の中から会員総会の決議により選任すること,〔6〕事業計画,支部の設置,歳入歳出予算及び歳入歳出決算に関する議案,定款変更に関する議案その他会長の付議する事項を,理事会に付議することを定めていた。理事会は,ほぼ毎月開催され,支部運営規則の承認及び決定,決算及び予算案の策定方針の承認,基本財産の組入れ及び譲渡等の議題について,審議及び採択がされた。
 しかし,理事会の定足数及び議決方法について定款に定めがなく,理事会の議題は,基本的にBが作成し,提案どおり可決されるのが一般的であった。理事会で議決された事項をBが実行に移さないことも多く,理事会に諮ることなくBの一存で重要な財産の取得や処分が行われることも少なくなかった。
 (7)支部運営規則に基づいて設置された支部の数は,昭和52年5月には約20に上り,各地で会員代表選出等を議題とした支部大会等が開催された。しかし,支部の設置,廃止等は,理事会の決議を経ずに適宜本部で処理するというのが実態であった。支部長の交代に際して引継ぎが行われず,職務内容を理解していない支部長もいるなど,名目だけの支部役員も多数いた。
 (8)C研究所は,定款により,Bの所有していた本部事務所,保養所等の不動産,自動車等を基本財産に組み入れ,定款上,理事会が基本財産への組入れを決議し,基本財産の処分に会員総会の承認を要することとされていた。C研究所は,設立後,収支計算書,本部経費帳,資産元帳及び損益元帳を新規に備え,昭和47年10月28日,本部,支部及び研修所(保養所)ごとに会計諸表及び帳簿書類を備え付け,現金,預金その他の資産の出納及び管理について記帳すべきこと等を定めた経理規程を定め,各支部においても同規程に従った処理がされた。不動産等の取引及び預金口座にもC研究所名義が使用された。もっとも,C研究所においては,貸借対照表,固定資産台帳,什器備品台帳等が作成されず,B個人が主宰してきた講事業を承継する手続は明確にされなかった。
 (9)Bは,昭和47年6月7日ころ,国税庁長官,熊本国税局長,熊本県知事及び熊本市長に対し,C研究所の定款,基本財産目録,創立会員総会議事録等を,また,同月16日,所轄税務署長に対し,「不備事項ご指導方のお願いについて」と題する書面をそれぞれ送付して,C研究所の設立を印象付けるとともに,同年7月4日,所轄税務署長に対し,C研究所名義の給与支払事務所を同年5月20日に新たに開設した旨を届け出た。同日以降の事業年度に係るC研究所名義の法人税の確定申告書は,Bの所得税の確定申告書とは別途に提出された。C研究所は,本件各事業年度の法人税,法人県民税,法人事業税及び法人市民税を申告し,納付していたが,このうち法人税については同52年4月23日に,法人県民税及び法人事業税については同年5月24日に,法人市民税については同月25日に,それぞれ過少申告を理由に更正を受けた。
 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,本件各更正に基づき納付された各金員の還付及び還付加算金の支払請求を認容した。
 (1)C研究所の構成員の範囲等には多大な疑義がある上,定款上はその構成員である会員であっても,団体意思の形成に参画することができない者も構造的に多数存在した。会員総会及び理事会の議決は,基本的にはBの決めたことを追認するだけのものであり,団体意思の形成,実現の観点からすると,形式的なものにすぎなかった。C研究所は,Bの実施してきた個人事業が社団化したものとされるが,Bが終身代表者である会長に就任する旨の異例の定めを定款に置くだけではなく,現に理事会の議決等に拘束されることなくBの一存で財産の処分等を行っており,Bの存在なしには存続不可能な組織であった。C研究所名義でされた取引や税務申告等も,Bが税金等を免脱するための手段にすぎない。結局,C研究所は,Bないしその個人事業の別称である。
 (2)所得の帰属主体が個人又は法人のいずれであるかの過誤は,重大であり,社団性を有しないものに対しこれを有するとしてした課税処分は,存在しない虚無人を名あて人とするものであるから,処分の存否にかかわる重大な瑕疵がある。本件各更正を信頼して新たな法律関係を構築すべき第三者が存在することの主張,立証もないから,特にそのために本件各更正を有効とすべき理由もない。したがって,本件各更正は,徴税行政の安定やその円滑な運営の要請等を考慮しても,なお,処分の存否ないしその根幹にかかわる重大な瑕疵があるものとして無効である。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,C研究所の定款の成立過程及び備付け状況に照らし定款の効力に疑義があることが明らかであるとはいえず,定款の規定の文言のみをもって会員の要件が不明確であると速断することはできない上,Bが終身理事及び会長である旨の定款の定めがあったが,これを変更することは定款上可能であったし,また,会員総会,支部大会及び理事会が一見してその機能を果たしていなかったと断定することもできない。そうすると,外形的事実に着目する限りにおいては,C研究所は,意思決定機関としての会員総会,業務執行機関ないし代表機関としての理事会ないし会長が置かれるなど団体としての組織を備え,会員総会の決議が支部において選出された会員代表の多数決によって行われるなど多数決の原則が行われ,定款の規定上は構成員である会員の変更にかかわらず団体として存続するとされ,代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているようにみえるというべきである。したがって,課税庁においてC研究所が法人でない社団の要件を具備すると認定したことには,それなりの合理的な理由が認められるのであって,仮にその認定に誤りがあるとしても,誤認であることが本件各更正の成立の当初から外形上,客観的に明白であるということはできない。
 また,仮に本件各更正に課税要件の根幹についての過誤があるとしても,前記事実関係によれば,Bは,税務対策等の観点から講事業の社団化を図り,自ら,C研究所の定款の作成にかかわり,発起人会,会員総会及び理事会を開催し,C研究所の名において事業活動を展開するとともに,C研究所に所得が帰属するとして法人税,法人事業税,法人県民税及び法人市民税の申告をし,申告に係るこれらの税を納付して,高額の所得税の負担を免れたというのである。そうすると,徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしんしゃくしても,なお,不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由としてBに本件各更正による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情がある場合(最高裁昭和42年(行ツ)第57号同48年4月26日第一小法廷判決・民集27巻3号629頁参照)に該当するということもできない。
 以上によれば,本件各更正が当然無効であるということはできず,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして,同部分について請求を棄却した第1審判決は結論において正当であるから,同部分に対する被上告人らの控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三)


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