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最高裁(大法廷)昭和41年
2月23日判決
=行政判例百選U[第四版]bP94・まち判例百選bO22事件〔処分性−土地区画整理事業計画〕
昭和37年(オ)第122号・区画整理事業設計等無効確認請求上告事件
棄却
(少数意見)
入江俊郎 奥野健一 草鹿浅之介 石田和外 柏原語六
第一審 東京地方裁判所昭和35年 3月10日判決
控訴審 東京高等裁判所昭和36年10月31日判決
上告人 (控訴人・原告) S 外三〇名 代理人 徳田敬二郎 外一名
被上告人 (被控訴人・被告) 東京都知事 代理人 石葉光信 外二名
最高裁判所民事判例集20巻02号0271頁、訟務月報12巻4号518頁
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人徳田敬二郎、同中野富次男の上告理由(第一ないし第三)および同補充上告理由について。
論旨は、要するに、土地区画整理事業計画の公告がなされた段階においては、上告人らは未だ直接具体的な権利変動を受けていないから本件事業計画の無効確認を求めることは許されないとした原審の判断は、法令違背、理由齟齬の違法をおかしたものであるというにある。
しかしながら、この点に関する原審の判断は、当審においても、これを正当として是認すべきものと認める。(なお、上告人中村五市および同岩波功の両名は、すでに仮換地の指定を受けており、従つて、これに対し、所定の手続を経て不服の訴えを提起することはできるが、事業計画そのものを対象として無効確認を求める法律上の利益は有しないとした原審の判断は正当であつて、所論理由齟齬の違法はない。)その理由は、次のとおりである。
一、土地区画整理事業計画(その変更計画をも含む。以下同じ。)は、もともと、土地区画整理事業に関する一連の手続の一環をなすものであつて、事業計画そのものとしては、単に、その施行地区(又は施行工区)を特定し、それに含まれる宅地の地積、保留地の予定地積、公共施設等の設置場所、事業施行前後における宅地合計面積の比率等、当該土地区画整理事業の基礎的事項(土地区画整理法六条、六八条、同法施行規則五条、六条参照について、土地区画整理法および同法施行規則の定めるところに基づき、長期的見通しのもとに、健全な市街地の造成を目的とする高度の行政的・技術的裁量によつて、一般的・抽象的に決定するものである。従つて、事業計画は、その計画書に添付される設計図面に各宅地の地番、形状等が表示されることになつているとはいえ、特定個人に向けられた具体的な処分とは著しく趣きを異にし、事業計画自体ではその遂行によつて利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが、必ずしも具体的に確定されているわけではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たる性質を有するにすぎないと解すべきである。土地区画整理法が、本件のような都道府県知事によつて行なわれる土地区画整理事業について、事業計画を定めるには、事業計画を二週間公衆の縦覧に供することを要するものとし、利害関係者から意見書の提出があつた場合には、都道府県知事は、都市計画審議会に付議したうえで、事業計画に必要な修正を加えるべきものとしている(法六九条参照)のも、利害関係者の意見を反映させて事業計画そのものをより適切妥当なものとしようとする配慮に出たものにほかならない。
事業計画が右に説示したような性質のものであることは、それが公告された後においても、何ら変るところはない。もつとも、当該事業計画が法律の定めるところにより公告されると、爾後、施行地区内において宅地、建物等を所有する者は、土地の形質の変更、建物等の新築、改築、増築等につき一定の制限を受け(法七六条一項参照)、また、施行地区内の宅地の所有権以外の権利で登記のないものを有し、又は有することになつた者も、所定の権利申告をしなければ不利益な取扱いを受ける(法八五条参照)ことになつているしかし、これは、当該事業計画の円滑な遂行に対する障害を除去するための必要に基づき法律が特に付与した公告に伴う附随的な効果にとどまるものであつて、事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生する権利制限とはいえない。それ故、事業計画は、それが公告された段階においても、直接、特定個人に向けられた具体的な処分ではなく、また、宅地・建物の所有者又は賃借人等の有する権利に対し、具体的な変動を与える行政処分ではない、といわなければならない。
二、もつとも、事業計画は、一連の土地区画整理事業手続の根幹をなすものであり、その後の手続の進展に伴つて、仮換地の指定処分、建物の移転・除却命令等の具体的処分が行なわれ、これらの処分によつて具体的な権利侵害を生ずることはありうる。しかし、事業計画そのものとしては、さきに説示したように、特定個人に向けられた具体的な処分ではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たるにすぎない一般的・抽象的な単なる計画にとどまるものであつて、土地区画整理事業の進展に伴い、やがては利害関係者の権利に直接変動を与える具体的な処分が行なわれることがあるとか、また、計画の決定ないし公告がなされたままで、相当の期間放置されることがあるとしても、右事業計画の決定ないし公告の段階で、その取消又は無効確認を求める訴えの提起を許さなければ、利害関係者の権利保護に欠けるところがあるとはいい難く、そのような訴えは、抗告訴訟を中心とするわが国の行政訴訟制度のもとにおいては、争訟の成熟性ないし具体的事件性を欠くものといわなければならない。
更に、この点を詳説すれば、そもそも、土地区画整理事業のように、一連の手続を経て行なわれる行政作用について、どの段階で、これに対する訴えの提起を認めるべきかは、立法政策の問題ともいいうるのであつて、一連の手続のあらゆる段階で訴えの提起を認めなければ、裁判を受ける権利を奪うことになるものとはいえない。右に説示したように、事業計画の決定ないし公告の段階で訴えの提起が許されないからといつて、土地区画整理事業によつて生じた権利侵害に対する救済手段が一切閉ざされてしまうわけではない。すなわち、土地区画整理事業の施行に対する障害を排除するため、当該行政庁が、当該土地の所有者等に対し、原状回復を命じ、又は当該建築物等の移転若しくは除却を命じた場合において、それらの違法を主張する者は、その取消(又は無効確認)を訴求することができ、また、当該行政庁が換地計画の実施の一環として、仮換地の指定又は換地処分を行なつた場合において、その違法を主張する者は、これらの具体的処分の取消(又は無効確認を訴求することができる。これらの救済手段によつて、具体的な権利侵害に対する救済の目的は、十分に達成することができるのである。土地区画整理法の趣旨とするところも、このような具体的な処分の行なわれた段階で、前叙のような救済手段を認めるだけで足り直接それに基づく具体的な権利変動の生じない事業計画の決定ないし公告の段階では、理論上からいつても、訴訟事件としてとりあげるに足るだけの事件の成熟性を欠くのみならず、実際上からいつても、その段階で、訴えの提起を認めることは妥当でなく、また、その必要もないとしたものと解するのが相当である。
されば、土地区画整理事業計画の決定は、それが公告された後においても、無効確認訴訟の対象とはなし得ないものであつて、これと同趣旨に出た原審の所論判断は、相当であり、論旨は、排斥を免れない。
よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官入江俊郎同奥野健一、同草鹿浅之介、同石田和外、同柏原語六の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。
裁判官奥野健一の反対意見は次のとおりである。
土地区画整理法(昭和三七年法律第一六一号による改正前のもの。以下同じ。)の規定によれば、事業計画(または変更計画)が確定して公告されると、施行地区内において宅地建物を所有する者が、土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築を行ないまたは政令に定める移動の容易でない物件の設置若しくはたい積を行うには、都道府県知事の許可を受けることを必要とし(七六条一項参照)、これに違反すれば刑罰の裏付けをもつて、土地の原状回復または建物その他工作物若しくは物件の移転若しくは除却を命ずることとし(同条四項、一四〇条参照)、また所有権以外の権利で登記のないものを有しまたは有するにいたつた者は、書面をもつてその権利の種類及び内容を施行者に申告しなければ、無権利者または権利変動がなかつたものとして、不利益な取扱いを受けることになつている(八五条一項、五項参照)。
かくの如く土地区画整理事業計画によつて、施行地区内の土地所有者、賃借権者等が、その権利の行使を制限されることは明らかであるから、事業計画の決定は、少なくともそれが公告された段階においては、既に一の行政処分であつて、若し、その処分が違法であり、これにより権利の侵害を受けた者があるときは、その者は事業計画に対して行政訴訟を提起する法律上の利益を有するものと解すべきである。なお、このことは、土地区画整理法一二七条が同法に基づく処分に対し訴願の途を開いていることからみても、相当であるといえるであろう(昭和二四年一〇月一八日、当裁判所第三小法廷判決参照)。(尤も右一二七条はその後改正され、行政上の不服を許さないことになつたけれども、だからといつて、行政訴訟が禁止されるものでないことは、行政事件訴訟法が訴願前置主義を撤廃していることに鑑みても、明らかである。)もつとも、前記形質変更等の制限は、地区内の関係者全員に対して一律に課せられる義務であつて、特定の個人に対するものではないが、いわゆる一般的処分であつても、それが個人の権利、利益を違法に侵害するものであれば、行政訴訟の対象となり得ることは、既に承認されているところである。また、右形質変更等の制限は、事業計画そのものによつて生ずるものではなく、法律により、特に与えられた事業計画に伴う附随的な効果であるとしても、苟もそれによつて違法に個人の権利が侵害される限り、事業計画そのものに対して、違法処分による権利の救済を目的とする行政訴訟が許されないとする理由はない。
さらにまた、事業計画は、土地区画整理手続の一環をなすに過ぎないものではあるが、土地区画整理手続の根幹をなすものであつて、それが決定されると、法定の除外理由のない限り、そのまま実施され、爾後の手続は機械的に進められる公算が極めて大であるのであるから、かかる場合において、若し最初の段階における事業計画が、違法であるにもかかわらず、被害者をしてその後の仮換地の指定または換地処分のあるまで、拱手黙視せしめることは、不当に出訴権を制限するものであるばかりではなく、爾後の行為は無駄な手続を積み重ねる結果となり、手続の完成の段階における仮換地指定、換地処分に対する訴訟において、始めて事業計画が違法として、無効とされ、または取消されるとすれば、却つて混乱を増大する結果となる。これ恰も農地買収または土地収用の手続において、農地買収処分、収用委員会の裁決に対する出訴が許される外に、農地買収計画、土地収用の事業認定に対しても出訴が許されるものと解されるのと同様、土地区画整理事業において、仮換地の指定、換地処分に対して出訴が許される外に、事業計画自体について、その違法を理由とする出訴が許されて然るべきである。
具体的権利の変動を及ぼす仮換地指定または換地処分等が行われた場合に、その違法を主張する者は、これらの具体的処分の取消(または無効確認)を訴求することができるから、これらの救済手段によつて、具体的な権利侵害に対する救済の目的は十分に達成することができる旨の多数意見の趣旨が、これらの最終の段階の処分に対する訴訟において、事業計画の無効を先決問題として主張し得るという趣旨であるとするならば、当然既に権利を違法に侵害された者に対し、それ以前においても事業計画の無効を主張せしめて然るべきであり、また、右多数意見の趣旨が当該具体的処分自体の違法を主張し得るに止まりその基礎となつている事業計画の無効を先決問題として主張できないとする趣旨であるとすれば、違法な事業計画により権利を侵害された者の救済は遂に与えられないことになり憲法三二条、裁判所法三条に違反することになる。
しかして、原判決の確定した事実によれば、本件土地区画整理事業計画は、東京都戦災復興計画の一環として、被上告人知事が特別都市計画法に基づいて昭和二三年三月二〇日決定し、これを設計図等とともに公告縦覧に供し、昭和二五年六月二六日建設大臣より設計の認可を受け、その後昭和二九年五月と昭和三四年九月の二回にわたつて一部変更が加えられ、該第二次変更については、新らたに制定された土地区画整理法に基づき、建設大臣に対して設計変更の認可を申請し、昭和三五年三月三一日その認可を受け、同年四月九日付で変更決定の公告がなされた、また、上告人らは、右第二次変更計画においても残置された施行地区内において宅地、建物等を所有または賃借しているものであり、なかんずく、上告人中村五市は昭和三四年三月二六日、同岩波功は同年八月二四日それぞれ仮換地の指定およびこれに伴う建築物等の移転通知を受けたものである、というのである。従つて、上告人らの本件事業計画(第二次変更計画)の無効確認を求める本訴は適法であつて論旨は理由があり、本訴を不適法とした原判決および第一審判決は、破棄または取消を免かれず、本件を第一審裁判所に差し戻すべきである。
裁判官草鹿浅之介、同石田和外は、裁判官奥野健一の右反対意見に同調する。
裁判官入江俊郎は、奥野健一裁判官の反対意見と趣旨において同意見であり、これに同調するけれども、なお補足したいところもあるので、若干重複する点もあるが、私の反対意見を次のとおり表示する。
原判決は、土地区画整理法(昭和三七年法律第一六一号による改正前の、本件に適用された同法をいう。以下同じ。)事業計画は、それが公告されると、同法七六条一項、八五条等により地区内の関係者にある種の規制が加えられることとなるけれども、それは一般的、抽象的のものであり、これらの規定に違反した者に対して、同法七六条四項、五項の原状回復、移転、除却を命ずる処分がなされて始めて直接具体的な権利変動を来たすものであることを理由とし、上告人中村五市、同岩波功以外の上告人らは、その権利につき未だ直接具体的な変動を受けていないから、本訴により事業計画の無効確認を求める法律上の利益を有せず、右上告人中村、同岩波は同法七七条二項の仮換地指定に伴う移転通知はなされたが、右両名は仮換地指定等の処分に対し不服申立をなし得るに止まり、本件事業計画に対してはその無効確認を求める法律上の利益を有せず、その請求はいずれも不適法であり、これを却下すべきものとし、本件控訴を棄却した。しかし、私は、次の理由により、右原判決を是認することを得ず、従つて、原判決を是認して上告を棄却することとした多数意見には賛成することができない。
一、なるほど、土地区画整理事業計画(その変更計画を含む。以下同じ。)自体は、一般的、抽象的のものであつて、個人を直接の相手方とし、その権利、利益の規制を定めたものではない。また、その公告も右事業計画を一般に公示するものであつて、形式的に見れば特定個人を相手方としてなされるものではなく、一般的、抽象的の行政庁の行為のごとくである。しかし、都道府県知事が土地区画整理事業を施行するに当つては、先ずその計画を定め、その事業内容を個別的、具体的に表示するのであるが、これが土地区画整理法所定の手続を経て公告された場合には、同法七六条一項により、同事業計画の具体的な内容に応じて、その地区内においては建築物の新築等が制限され、この制限は同条四項を通じて結局同法一四〇条により刑罰をもつてその履行が強制されることとなつており、また同法八五条により権利の申告をしなければならないなど、地区内の関係者の権利、利益に対し規制が加えられることとなるのである。そして、土地区画整理は、土地区画整理法の規定によりその計画の樹立、公告およびその実施等が、段階を追うて行なわれる行政庁の一連の行為であるが、右事業計画の公告は、前記法条の規定のあることを前提として行政庁によりなされるものであるから、公告自体の形式のみに着眼すれば一般的、抽象的な行政庁の行為のごとく見えても、それは同時に、当然にその地区内における土地、家屋の所有者その他の個々の権利者は、同法七六条、八五条による規制を蒙むることとなり、これを放置することにより、後続または最終の処分によつて、その制約が具体的に確定してしまう危険が現実に存在することを否定し得ず、行政庁は、事業計画の内容にかかる法律効果の伴うことを意図し、これを前提として事業計画の公告をするのである。いいかえれば本件公告は、形式的には一般的、抽象的処分のごとくであるが、それによつて、同時に、当該個人の権利、利益を規制する効果を生ずることとなり、結局、公告された事業計画は個人に対する個別的な処分たる性質をも併せ有するに至るものであつて、その面に着眼すれば、行政事件訴訟特例法の適用については、公告を経た事業計画はこれを行政処分と見て、これに対して抗告訴訟を提起し得るものと解するのを相当とし(もちろん、この場合において不服の対象は、事業計画の内容およびその決定手続、公告手続等の違法問題に限らるべく、事業計画の具体的内容で行政庁の裁量に属するものに及び得ないことは当然である。)、多数意見のように、この段階では未だいわゆる訴訟の成熟性ないし具体的事件性を欠くものとは考えられず、従つて、本件事業計画の無効確認を求める訴の利益を否定すべきいわれはない。
二、もちろん、一連の手続を経て完成される行政作用については、中間段階の行政庁の行為につき、これに対する独立の出訴を認めず、単に異議、不服の申立等の行政上の手続をもつて争わせることとし、その後の段階においてはじめて訴訟をもつて争い得ることとしても、それによつてその個人の蒙むる権利、利益の侵害が、結局、後の段階における訴訟によつて完全に救済し得るならば、それは立法政策上許されないことではない(例えば、地方議会解散請求の受理や、立候補届出の受理のごときは、法律はそれ自体を直ちに独立の訴訟の客体とすることを認めず、一連の行為の最終段階の行為の取消または無効確認を求める訴訟で、右のような中間行為の違法を争わせることにしている。)。しかし、訴の利益を欠くか否かの問題は、人権保障の上からも、憲法三二条の精神からも極めて重大な事柄で、その判断は慎重を要すべきであり、訴の利益を欠くといい得るためには、当該法律にその旨の明文の規定があるか、または、立法の趣旨に照らし、そのように解し得るものであると同時に、それが憲法三二条の裁判請求権を不当に制約するものでない合理的根拠のある場合でなければならない。これを土地区画整理法についてみると、本件当時の同法一二七条は、この法律に基づいてなした処分に対し不服のある者は、建設大臣に訴願することができると規定しているだけであつて、救済方法をそれのみに限定したものとは認められず、中間段階の訴訟を認めない旨の規定はないばかりでなく、本件事業計画は、前記のとおり公告によつて、個人の権利、利益に対し個別的、具体的制約を及ぼすに至るものである点を考えれば、かかる制約をもつて、単に法律が特に付与した公告に伴う附随的効果に止まるものであるとして、これに対する権利、利益の救済を目的とする訴訟を否定する多数意見は、土地区画整理法の合理的な解釈と認めがたく、また憲法三二条の法意にも副わないものである。
原判決は、「……これらの規定に違反した者に対し同法第七十六条第四項第五項の原状回復、移転、除却を命ずる処分がなされて始めて直接具体的な権利変動を来たすものというべきである。」として、その段階に至つてはじめて出訴を認め得る旨を判示しているがそのような個々の処分がなされるまでは、権利制限を受けたと主張する者を、訴えるに由なき状態のまま放置することは、徒らに形式にとらわれた考え方であつて、人権保障の見地からみても賛同し得ないばかりでなく、原判決のいう段階において出訴を認めるというのであれば、公告のなされた段階において出訴を認めて、速やかに人権保障の途を開き、またそれだけ早く違法な行政上の処分を是正し、その後に生ずることあるべき行政秩序の無用な混乱を未然に防止すべきであると考える。事業計画が健全な市街地造成のための長期的見通しの下になされる計画であるとか、当該土地区画整理事業の青写真であるとか、事業計画を定めるにつき土地区画整理法六九条の規定があるとかいうことは、本件公告がなされた段階において事業計画につき行政訴訟を認めることの何らの支障となるものではない。また、個人は必ずしも本件のような訴訟によらず、所有権に基づく妨害の排除または予防の請求訴訟を提起し得る途がないわけではないとしても、法律により規制を受ける個人の権利、利益には所有権以外のものも存在するし、またたとえそのような方法が別途認められているからといつて、本件につき行政訴訟を否定する理由にならない。
本件類似の訴訟につき訴の利益を認めるか否かは、下級審において、積極、消極の裁判例の存するところではあるが、結局それは人権保障をその責務とする裁判所が、具体的各個の事案ごとに、その根拠法令の規定および憲法三二条の法意を、実体に即して勘案した上、ケース・バイ・ケースで判断すべきものである。そしてそのように考えると、この種の行政訴訟を認容する場合が将来次第に増加することになるかもしれないが、それが人権保障の上で必要なものであれば、裁判所としては徒らに消極的になる必要はない。
なお、上述したところは、上告人中村五市、同岩波功についても同様である。なるほどこの両名は仮換地の指定等の処分を受けており、これに対し所定の手続により不服の訴ができるけれども、それだからといつて、右両名が公告のなされた本件事業計画により、その権利、利益を具体的に規制されるに至つたことは他の上告人らと同様であり、本件事業計画に対し、その無効確認を訴求し得ないとする理由はない。
三、附言すれば、このような行政訴訟は民衆訴訟として認められているわけではないから権利、利益を侵害されたと主張する者が、侵害されたとする自己の権利、利益に関する限度において訴訟関係が成立するものであることは、憲法および裁判所法の下において、司法権の性質からみて当然のことである。それ故、本件においては、無効確認といつても、それは上告人らの当該権利、利益に関する限度において無効が確認されることとなるものであり、また、もしそれが取消訴訟として提起された場合には、その取消は、同様に上告人らの当該権利、利益に関する限度において取り消されるものであり、本件公告は、形式的には一般的な行為ではあつても、それはこれらの訴訟によつて、事業計画が全面的に無効とされまたは取り消されるものでない。事実審においては、必要によりこの点を釈明しまた判決主文において、すくなくとも判決理由の記載において、その趣旨を明示することが望ましい。
よつて、上告理由は結局理由あるに帰し、原判決を破棄し第一審判決を取り消し、本件を第一審裁判所に差し戻すべきものと考える。
裁判官柏原語六は、裁判官入江俊郎の右反対意見に同調する。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)
上告代理人徳田敬二郎、同中野富次男の上告理由
右当事者間の御庁区画整理事業設計等無効確認請求上告事件につき上告人等は次の如く上告理由書を提出する。
第一、原判決は左記の如く判決に影響を及ぼすこと明なる法令の違背があるので、破毀せらるべきものである。原判決は上告人中、中村五市及び岩波功を除く其他の上告人等は被上告人の事業設計の公告の段階にあつて未だ仮換地指定の行政処分等の直接具体的な権利変動を受けていないので、本件事業設計無効確認を求めることは許されないと判示した。
即ち其の理由として「……都道府県知事が土地区画整理事業を施行する場合、その事業計画には建設省令の定めるところにより施行地区設計及び資金計画を定むべきものとされ(土地区画整理法第六十六条第六十八条第六条)、設計については設計説明書及び設計図を作成し、施行地区の現況、事業施行前後における宅地合計面積の比率、宅地全体(個人所有の宅地単位に記入されるのでないから、個人個人にどのような換地が指定される予定かこの段階では未だ特定されない)の形状位置の比較等を説明し、設計図では公共施設並びに鉄道軌道官公署学校等の用に供する宅地の形状位置を現況と比較しながら図示されるべきものとしている(土地区画整理法施行規則第六条乃至第九条)。従つて設計図面で個人所有の宅地が道路敷地其他の公共施設の敷地として図示されることが勿論あるけれども、さような事業計画が決定されただけでは、未だその個人の宅地所有権を消滅乃至変更させる効果を生ずるものではない。要するに事業計画は謂わば建築工事における設計図のような役目を果たすものであつて、これが決定は地区内の宅地建物の所有権その他の権利に直接具体的な変動を来たす効果があるものではなく、区画整理事業が進んで仮換地の指定等個々の処分がなされるに及んで直接具体的な法律効果を発生せしめるものである。勿論事業計画が公告されると、土地区画整理法第七十六条第一項により地区内に於ては建築物の新築等が制限され、又同法第八十五条により権利の申告をしなければならないなど地区内の関係者にある種の規制が加えられることは、控訴人の主張する通りであるが、それは一般的抽象的のものであつて、これらの規定に違反した者に対し同法第七十六条第四項第五項の原状回復、移転、除却を命ずる処分がなされて始めて直接具体的な権利変動を来たすものというべきである。従つて控訴人中村五市、岩波功を除くその余の控訴人は未だ直接具体的な変動を受けていないから本件無効確認を求めることは許されない。」と判示した然しながら、上告人中村五市及び岩波功を除くその他の上告人等も被上告人の本件事業設計の公告後は事業の進展に伴い、近い将来において上告人等の権利が必然的に変動を受くべき運命にあり且右変動は確定的であり、建物の新改増築等の必要があるのに、昭和二十三年三月二十日の公告以来今日まで十数年の長期間に亘つて制限を受けて居るので、事実上権利の変動を受けたものと同視すべきであるので、本件事業設計の無効確認を求める法律上の利益を有するものと云わねばならない。即ち
一、土地区画整理法(以下単に法と略称する)第六十九条第六項により、被上告人は本件事業設計につき建設省令で定めた事項を昭和二十三年三月二十日公告した。右公告により被上告人は同条第七項により上告人等に対して右事業設計を以つて対抗することができる被上告人は法第六十八条によつて準用される法第六条第一項に基く土地区画整理法施行規則第五条により本件事業設計によつて定める施行地区につき施行区位置図及び施行区区域図を作成してこれを定め(同法第一項)、更に右両図には土地の境界等、都市計画区域界宅地の地番、形状等を表示し(同法第二項第三項)て居るので、結局土地区画整理事業の対象となるべき土地は事業設計の公告によつて上告人等との関係において具体的に特定されたものと云うべきである。
二、他方において本件事業設計が公告されたので、右施行地区内に権利を有する上告人等は法第七十六条第一項によつて建築物などの新改増築其他を公告の昭和二十三年三月二十日以降今日まで新改増築其他の必要があるのに、制限されて居るので、右制限は抽象的ではなく、現に具体的であり、権利の変動を受けて居るのと同一視すべきである。亦法第八十五条によって権利の申告をせねばならず、申告しないと権利者として取扱われない。従つて上告人等は直接具体的に不利益を蒙つて居る。事業設計の公告は原判決の云うが如き建築工事における設計図のような役目を果すものではない。
三、而かも、事業設計は土地区画整理事業の施行に当り、其の基本をなすものであつて、恰かも農地買収手続における買収計画と同様に爾後の手続、例之仮換地指定の行政処分は其の実現のための一過程に外ならないものと云うべく、事業設計の公告を以って、原判決の云うが如き単なる中間的段階の行政処分ではない。
四、かように、土地区画整理事業手続の基本ともいうべき事業設計の公告がなされ、而かも右事業設計が違法であつて無効であるに拘らず、未だこの段階においては、その違法による無効を裁判所において争うことが許されないとすれば、爾後の手続は事業設計の瑕疵を承継するものであるので、結局において無駄な手続を積み重ねられるのを徒に黙視し、仮換地指定の行政処分後に至つて始めて争わねばならぬこととなる。
五、如之、事業設計の認可公告後は、爾後の仮換地指定等の行政処分は事業設計に基いて特別の支障なき限り、派生的に、機械的に且必然的に進められるものである。要するに、事業設計自体は上告人等に直接具体的権利の変動を来たさないが、事業設計の公告は施行地区内に存在する土地建物につき権利を有する上告人等は事業設計を以つて対抗され、其の施行によつて右土地建物の現状を変更されることが必然的であり、其の後の手続の進展に伴つて仮換地指定処分、建物移転除去処分等の具体的な法律効果を伴う各種の行政処分が機械的になされ、上告人等の権利(法律上の利益)を侵害されることが確定的であり、他方において建物の新改増築などに制限を受け、右新改増築の必要が現実となるに従つて右の抽象的制限は具体的制限となつて昭和二十三年三月二十日以降今日まで相当長期間に亘つて事実上の利益を侵害されて居るものであるから、それは矢張り上告人等が一種の法的拘束を受けたものと云わねばならない。事業設計の公告後においては、施行区域内に権利を有する第三者は未だ仮換地指定等の行政処分を受けなくとも、訴訟をなす法律上の利益を有するものであることは、東京地方裁判所昭和三十二年(行)第九一号行政処分取消請求事件(東京駅八重州口前広場の造成を目的とする土地区画整理事業)の中間判決(昭和三十四年六月十八日言渡)においても是認せられたところである、然るに、原判決は右判例と同様な事案である本件の事業設計につき、その公告の段階においては、上告人中村五市及び岩波功を除く其他の上告人等は未だ直接具体的な権利変動を受けないものとして本件の無効確認を求めることは許されないと判示するも、右は判決に影響を及ぼすこと明かなる法令の違背であつて、破毀せらるべきものである。
第二、原判決は左記の如く判決に影響を及ぼすこと明かなる法令に基かざる判決であるので、破毀せらるべきものである。原判決は上告人の中村五市及び岩波功の両名は夫々昭和三十四年三月二十六日及び同年八月二十四日被上告人より仮換地指定の行政処分を受けては居るが、猶本件の事業設計そのものについては、これを対象として無効確認を求める法律上の利益を有しないものと解するを相当とすると判示した。即ち其の理由として「……ただ昭和三十四年三月二十六日控訴人中村五市に対し、同年八月二十四日控訴人岩波功に対し、夫々被控訴人より土地区画整理法第七十七条第二項により仮換地の指定等に伴う「移転通知」がなされたことは弁論の全趣旨に照らし、当事者間に争がなく、仮換地の指定等により右控訴人両名の建物敷地に対する権利に直接具体的な変動を来たすから、右両名は「移転通知」を待たずに仮換地の指定等の処分に対し所定の手続を経て不服の訴を提起しうることは勿論である。然しながら、この場合でも、かように直接具体的な法律効果を発生せしめる仮換地指定等の処分に対して不服申立をなし得るに止り、かような直接具体的法律効果を生じない、謂わば中間段階の行政処分というべき前記事業計画そのものに対し、これを対象として無効確認を求める法律上の利益を有しないものと解するのを相当とする」と判示した。然しながら、上告人の中村五市及び岩波功の両名は被上告人によつて決定公告せられた本件事業設計に基き仮換地処分を受け直接具体的な権利の変動を受けたので、右仮換地処分の由来する本件事業設計自体を対象として、其の無効確認を求める法律上の利益を有するものと云わねばならない。即ち
一、本件土地区画整理事業は(1)被上告人の事業設計の企画、(2)建設大臣に対する事業設計の認可申請、(3)建設大臣の事業設計の認可、(4)被上告人の事業設計の公告、(5)区画整理委員の選挙、(6)都市計画審議会への諮問、(7)上告人等の区域内土地建物所有者に対する仮換地処分並に建物移転其他の処分及びその補償、(8)換地処分などの一連する手続を経て実施せられるが、その中、(3)の建設大臣の認可の段階までは未だ第三者の上告人等に対して具体的にも、抽象的にも、直接的にも、間接的にも権利の変動を来たさないが、(4)の事業設計の公告に至つては前記第一の如く一種の法的拘束を生ずるものであつて、認可公告された事業設計は一連する土地区画整理事業の基本であつて、原判決の云うが如き単なる中間的段階の行政処分ではない。(5)の区画整理委員の選挙以下の手続は事業設計に基く其の実施に過ぎず、殊に(7)の仮換地処分は右事業設計より当然に派生し、機械的に実施せられるものである。
二、従つて(7)の仮換地処分を受け、直接具体的な権利の変動を受けた右両名の上告人は被上告人が仮換地処分をなす基礎である本件事業設計自体を対象として其の無効確認を求める法律上の利益を有するものと云わねばならない。然るに、原判決は仮換地処分を受けた右両名の上告人と雖ども、本件事業設計自体に対しては、それを対象として無効確認を求める法律上の利益を有しないものと解するを相当とすると判示するも、右は法令に基かざる相当判決であり、独立の見解であるので、破毀せらるべきものである。
第三、原判決は左記の如く理由に齟齬があるので、破毀せらるべきものである。原判決は上告人の中村五市及び岩波功の両名は夫々被上告人の仮換地処分により直接具体的な権利の変動を受けたので、右仮換地処分に対しては所定の手続を経て不服の申立をなすことができるけれども、直接具体的法律効果を生じない、謂わば中間的段階の行政処分というべき事業設計(認可公告せられた)自体に対しては、これを対象として無効確認を求める法律上の利益を有しないと判示した。然しながら、上告人の中村五市及び岩波功の両名は夫々被上告人の仮換地処分により直接具体的な権利の変動を受けたので、右仮換地処分自体に対して所定の手続を経て不服の申立をなすことができるばかりでなく、右仮換地処分の由来する本件事業設計自体に対しても、亦これを対象としてその無効確認を求める法律上の利益を有するものと云わねばならない。即ち
一、被上告人が右両名の上告人に対して夫々仮換地処分をなしたのは本件事業設計に基くものである。従つて右仮換地処分は本件事業設計の瑕疵を当然に承継し、本件事業設計が無効であるときは当然に、右設計に由来する仮換地処分も亦無効である。上告人等が本件の無効確認を求める請求原因は本件事業設計自体に内在する無効を主張するものであつて本件の仮換地処分自体に内在する無効を主張するものではない。
二、従つて原判決の云うが如く、上告人等が仮りに、所定の手続を経て本件仮換地処分を対象として其の無効確認を求める場合においても、上告人等は其の無効の原因につき本件事業設計自体に内在する無効を主張し、本件仮換地処分自体については内在する無効を発見し得ないがために、本件仮換地処分自体に内在する無効を主張することはできない。原判決が上告人等は本件事業設計自体に内在する無効を原因として本件仮換地処分を対象として其の無効確認を訴求する法律上の利益を有するものと認定しながら、本件事業設計を対象としては其の無効確認を訴求する法律上の利益がないと云うのは正に矛盾であり、判決の理由に齟齬ある判決であつて破毀せらるべきである。原判決は上告人等が本件事業設計の無効確認を求める法律上の利益を有しないとして、門前払の判決をなし、本案の事案につき判決することを回避するものであると云つても、過言ではあるまい。
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