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  最高裁判所(第三小法廷)昭和431224日判決

 

   =行政百選T[第四版]bO42 〔処分性・墓地・埋葬等に関する通達〕


 昭和39年(行ツ)第87号法律解釈指定通達取消請求上告事件

 棄却
   
第1審→東京地判昭和37年12月21日

   控訴審→東京高判昭和39年07月31日

  上告人 東福院
  被上告人 厚生大臣

 最高裁判所民事判例集22巻13号3147頁、訟務月報15巻4号496頁、判例タイムズ233号92頁


 主 文

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。


 理 由

 上告代理人池谷四郎の上告理由について。

 論旨は、要するに、本件通達は従来慣習法上認められていた異宗派を理由とする埋葬拒否権の内容を変更し、新たに上告人に対して一般第三者の埋葬請求を受忍すべき義務を負わせたものであつて、この通達によれば、爾後このような理由による拒否に対しては刑罰を科せられるおそれがあり、また、右通達が発せられてからは現に多くの損害、不利益を被つている、従つて、右通達は上告人ら国民をも拘束し、直接具体的に上告人らに法律上の効果を及ぼしているのであつて、原判決が上告人のこのような主張を排斥して本訴を許すべからざるものとしたのは、本件通達の内容、効果を誤認し、ひいて法律の適用を誤つたものであり、また、審理不尽の違法を犯している、というのである。

 しかし、本件通達は、厚生省公衆衛生局環境衛生部長から都道府県指定都市衛生主管部局長にあてて発せられたもので、その内容は、墓地、埋葬等に関する法律13条に関し、昭和24.08.22付東京都衛生局長あて回答に示した見解を改め、今後は内閣法制局第一部長の昭和35.02.15付回答の趣旨にそつて解釈、運用することとしたことを明らかにすると同時に、諸機関において、この点に留意して埋葬等に関する事務処理をするよう求めたものであり、行政組織および右法律の施行事務に関する関係法令を参しやくすれば、本件通達は、被上告人がその権限にもとづき所掌事務について、知事をも含めた関係行政機関に対し、法律の解釈、運用の方針を示して、その職務権限の行使を指揮したものと解せられる。

 元来、通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあつても、一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達の内容が、法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合においても別段異なるところはない。このように、通達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。また、裁判所がこれらの通達に拘束されることのないことはもちろんで、裁判所は、法令の解釈適用にあたつては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、通達に定める取扱いが法の趣旨に反するときは独自にその違法を判定することもできる筋合である。

 このような通達一般の性質、前述した本件通達の形式、内容および原判決の引用する一審判決認定の事実 (挙示の証拠に照らし肯認することができる。 ) その他原審の適法に確定した事実ならびに墓地、埋葬等に関する法律の規定を併せ考えれば、本件通達は従来とられていた法律の解釈や取扱いを変更するものではあるが、それはもつぱら知事以下の行政機関を拘束するにとどまるもので、これらの機関は右通達に反する行為をすることはできないにしても、国民は直接これに拘束されることはなく、従つて、右通達が直接に上告人の所論墓地経営権、管理権を侵害したり、新たに埋葬の受忍義務を課したりするものとはいいえない。また、墓地、埋葬等に関する法律21条違反の有無に関しても、裁判所は本件通達における法律解釈等に拘束されるものではないのみならず、同法13条にいわゆる正当の理由の判断にあたつては、本件通達に示されている事情以外の事情をも考慮すべきものと解せられるから、本件通達が発せられたからといつて直ちに上告人において刑罰を科せられるおそれがあるともいえず、さらにまた、原審において上告人の主張するような損害、不利益は、原判示のように、直接本件通達によつて被つたものということもできない。

 そして、現行法上行政訴訟において取消の訴の対象となりうるものは、国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に法律上の影響を及ぼすような行政処分等でなければならないのであるから、本件通達中所論の趣旨部分の取消を求める本件訴は許されないものとして却下すべきものである。

 以上のとおりであるから、これと同旨の原判決の判断は正当として首肯することができる。所論はるる主張するが、ひつきよう、原判決のした事実の認定を非難するか、原判示を誤解するか、または、原判示にそわない事実もしくは独自の見解を前提として原判決の違法を主張するものであり、原判決には所論の違法は認められない。所論はすべて採用することはできない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

  (裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 )


 上告代理人池谷四郎の上告理由

 原審は昭和35年3月8日厚生省衛環発第八号通達 (以下本訴通達という ) に対して、上告人所有墓地に対する経営権同管理権を害するところが無いものとして、第一審の訴却下の判決を維持し、控訴棄却の判決を言渡したのは、以下陳べるように事実関係の理解に根本的な誤まりがあつて、法律の適用を誤まつたものである。

  第一、原審が 「本件通達は行政訴訟の対象となる行政処分でない 」と判断を下した理由として示めしたところは次の如くである。 (便宜上項目別に番号を仮設する )

 第一項 「およそ行政訴訟の対象となる行政処分は、行政庁が公権力の発動としてなす行為で、国民の権利義務または法律関係に直接法律上の効果を及ぼすものであることを要するとし、第二項「国家行政組織法第一四条第二項によれば、各大臣各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について命令または示達するため、所管の諸機関および職員に対し訓令または通達を発することができるのであり、その目的はこれによつて行政上の事務取扱の基準を示めし法令解釈を統一することにある」といい、第三項 「すなわち通達というものは、元来行政官庁が所管の諸機関及び職員に対し発するものであつて、行政機関内部を拘束するが (例外的な場合を除き法規としての効力を有しないことはいうまでもない ) 国民に対しては拘束力がない 」とし、第四項 「本件通達も被控訴人 (被上告人 ) から都道府県指定都市衛生主管部局長に宛てて発せられたものであり、その内容は被控訴人 (被上告人 ) が従来墓地埋葬等に関する法律13条に関し、昭和24年8月2日付で東京都衛生局長宛の回答 (以下旧通達という ) に示めしたとおり 「従来から異教徒の埋収蔵を取扱つていない場合にはその仏教宗派の宗教的感情を著しく害うおそれのある場合には同法13条の正当の理由があるとして墓地の管理者は埋葬を拒んでも差支えない」との見解 (旧通達が発せられていることは当事者間に争がない ) を改め、今後は法制局第一部長の昭和35年2月15日付回答の趣旨に沿つて解釈運用することにしたことを明らかにすると同時に諸機関においてもこの点に留意して遺憾なく埋葬に関する事務処理をなすよう求めたものであると解される」。続いて、第五項「これを受けた衛生主管部局長さらにその管下の保健所長等は、これに従がう義務を生ずることはあつてもその形式上一般の国民に対し直接何らの法律上の効果を及ぼすことはない。」というきわめて皮相形式に止まる判断をしたのである。

 第二、右原判決の趣旨の説明のうち、第一項の論旨は行政訴訟の一般的な原則を前提し説示したもので、もとより所論の如くである。第二項の説明も国家行政組織法上、上級行政庁が下級行政庁に対し、行政上の事務取扱基準を統一するため通達を発する一般の場合を原則的に前提し説示するものであつて、一般の場合を原則的に考えるとすればこの論旨には誤りはないと言えるが、本件のごとく、その体裁の形式を通達に名を藉りて、国民の権利義務に制限や拘束を生ぜしめようと計つたような場合には、当該国民の権利を侵害から守るため行政訴訟を許さなければならないことは当然と考える。原審はいわゆる通達なるものが行政庁相互間における一片の意思表示以上に出ることが在り得ないものの如く独断しておられるもののようである。

 第三項において原審は通達は下級行政庁を拘束することはあつても直接国民に対し拘束するところがないというのであるが、この見解は誤りである。通達であつてもこれを受けた行政庁が、上級行政庁の機関委任を受けているような場合には、その下級行政庁は通達の趣旨どおり国民の権利の制限乃至変更を行わなければならないものであるから、本訴通達と仏教寺院の墓地経営権同管理権に対する行政法上の認可 (沿革的に許可と称されているを権利内容の変更との間には因果関係が存在する。すなわち厚生大臣と仏教寺院との間には墓地の経営及び管理につき、都道府県知事及びその補佐機関が介在していることは言うを待たないが、後に述べるごとくその都道府県知事以下その補佐機関は厚生省の機関委任を受けているものであるから、本訴通達に従うか否かを選ぶ自由があるわけではない。被上告人が本訴通達によつて実現しようと期待する行政上の効果は、本訴通達によつて墓地経営権及び管理権の内容を変更せしめることである。この因果関係に関し都道府県知事 (およびその補佐機関 ) は独立した責任と能力ある機関として介在して知事が自づから独自の行政処分に出るまで、墓地経営権及び管理権に対する許可の内容が従来のままで、何らの変化を受けていないものとは考えられない。もち論上告人としては変化を加えられたことに対し、法律上他にも権利保護の途は残されており必らずしも終局的運命に陥つたとは考えないが、本訴通達によつて墓地経営権及び管理権が侵害されていることは明白な事実である。

 第四項は原審の墓地埋葬等に関する法律13条に対する解釈と旧通達に対する理解を述べたものであるが、寺有墓地を経営管理する仏教寺院は、古来から所属檀 (信 ) 徒だけに墓地積を供用する慣行を有し、法律上は明治17年太政官布達27号墓地及埋葬取締規則1条及び明治17年内務省達乙40号墓地及埋葬取締規則施行細目標準3条以来行政庁の許可によりとの慣行が是認され、墓地埋葬等に関する法律案審議に際しては、法13条の正当理由の文詞はこの慣行を是認する趣旨か否かを確められ、昭和23年5月27日参議院厚生委員会において三木政府委員より、従来と同様趣旨に変るところなく「一般社会通念として認められる慣行を含む 」旨を明確にして同法の制定を見るに到つたものであるから、原審が判決理由中に説示した旧通達は、右のような論旨の再確認をしたもので、決して漫然同法13条に対する行政解釈を挙示したに止まるものでないことは、上告人が第一、二審を通じて論述したところのごとくである。原審はこの重要な点を極めて軽視し、被上告人が旧通達の考え方に対し、論理的に、または実際的に誤りでもあつたかの如く、法制局に法律上見解を求めたということで体裁を調えて新解釈を打出し、法律解釈の是正を行わんとした被上告人部局担当者の策謀を重視することを忘れた嫌らいがある。これは決して単なる行政解釈の統一のために計画された通達ではなく目的とするところは、ただ立法当時の制定趣旨に背反して、仏教寺院の墓地経営権及び管理権に対する行政庁の認可の内容を一方的に変更混乱せしめようとして企てられた通達で、右の認可内容の制限変更は決して間接の不利益などではない。 (なお本件第一審第一〇回口頭弁論昭和36年7月17日証人今野恒雄の証言によれば、被上告人の補佐機関は創価学会理事小平芳平の請託を容れ全日本仏教会には相談もなく、法制局に資料を提出し前掲回答を求めたものである )

 第五項は前段の推論に続いて述べられた原審の結論的見解であるが、原審は本件被上告人の本訴通達を受取つたものが「都道府県指定都市衛生主管部局長 」となつている点を指摘し、被上告人の下部補佐機関から、都道府県補佐機関に対す通達のみに止まつているかの如き誤解を有しているようである。本訴通達は発信者が厚生省の補佐機関であつても発令の全責任は厚生大臣にあるものであり、受信者が都道府県知事の補佐機関であつても機関委任を受けている都道府県知事に対し直ちにその効力を生じていることは疑ない。従つて上告人寺院開設以来から存在し明治17年内務省達乙第40号によつて確認され、新法13条の文詞も慣行尊重の趣旨に解すべきものである旨を政府委員から説明され、旧通達に依つて法制定後右趣旨が再確認せられて来たところの墓地経営権管理権の許可 (本質は認可 ) 内容が変更制限せられたものであるから上告人寺院の権利が侵害されていることは疑ない。その侵害の程度が他に救済を求める途が絶無であるか否かは自から別論と言わねばならない。

 第三、上告人の前記説明をさらに明確にするため本訴通達について、厚生大臣と、都道府県知事との各立場は次の如き関係にあるといわねばならない。

 一、本訴通達を発した者は厚生省の公衆衛生局長、環境衛生局長となつて居り、通達の相手方は、都道府県指定都市衛生主管部局長となつている。 (東福院の場合は東京都知事の補佐機関であり、鶏足寺の場合は栃木県知事の補佐機関ということになるわけである )

 二、補佐機関が発した通達であるからといつて厚生大臣が無関係ということではなく、補佐機関に宛てられた通達であつても都道府県知事は無関係というようなことはあり得ない。本訴通達の内容を仔細に検討すれば正さしく厚生大臣から都道府県知事に対する行政上の指揮監督に基く訓令である。

 三、本訴通達が厚生省の補佐機関から、都道府県の補佐機関に対し発せられる形式を採用したことは通達内容の重要性に照らし、異例とするに足るものがある。***ら都道府県に対する通達は、大臣から知事に対する訓令として発せられるのが普通である。次には厚生次官が厚生大臣の決済を経て、依命通牒 (または依命通知 ) としてこれを通知するのが慣行となつている。

 四、本訴通達は、厚生省を代表したものと解せられる公衆衛生局長、同環境衛生局長から相手方は、都道府県知事を代表するものと解さねばならぬ知事の補佐機関たる衛生主管部局長宛に発せられたる行政上の指揮監督に基く訓令であると解さねばならない。

 五、本訴通達が何故に直接都道府県知事宛に発せられなかつたかということは、通達を発する者が厚生大臣の補佐機関たる地位にある公衆衛生局長環境衛生局長がその名において発する通達であるから、たとえ通達の意味及び効果が厚生大臣から各都道府県知事に対する訓令の本質を備えているにもかかわらず、ことさら直接都道府県知事に対し直接発する形式を採ることなく、相手方知事の補佐機関である衛生主管部局長宛に通達をしたという官庁相互間の儀礼的慣例に従つたに止まつたとみるべきである。体裁がどのように取り繕われてあつても、本件通達の内容及び本質、すなわち意味及び効力は、厚生大臣から都道府県知事に対する行政上の指揮監督に基く訓令であることには些かも変るところがない。

 六、すなわち現実の問題としては厚生大臣の補佐機関から都道府県知事の補佐機関に対する通達であつても、前述の如くその通達の意味及び効力が、国の機関たる厚生大臣から、寺有墓地の経営並びに管理に対する行政上の許可 (認可 ) につき、主務官庁として受任機関たる都道府県の首長に対して 「変更せられたこと 」の代行方を命じた指示であるから、機関委任の関係上受任者たる都道府県知事は、この訓令のとおり服従して代行しなければならないものである。

 原審はこれに対し本訴通達が出た後でも都道府県知事乃至その補佐機関から、上告人等仏教寺院に対し何らかの処分に出るまでは、従来の墓地経営権及び管理権に対する行政庁の許可 (認可 ) はすべて在来どおり何の変化もなく無瑕のまま存続し、その何らかの処分が行われたときに始めて国民の権利を侵害するに到つたと理解しようとするものであるが、本訴通達はその文詞に明白であるように「今後はこの回答の趣旨に沿つて解釈運用することとしたので 」といい、主務官庁としては前記行政上の許可 (認可 ) の内容を一方的に変更する態度を明示し、受任機関に対してもその趣旨で行政権の運営をなし遺憾のないようにせよと命じているのである。従つて寺有墓地の経営及び管理に対する行政上の許可 (認可 ) の内容は、本訴通達によつて従来の許可 (認可 ) に依つて存在し継続している権利関係を否定する内容と置き換えられてしまつたものである。もとより寺院側において他に救済を求める途も残されており致命的段階に陥つたとまでは言えないかも知れない。裁判所は本訴通達には拘束されないこと原審所論のごとくであることは疑ないけれども、主務官庁が一方的に従来是認してきた行政上の許可 (認可 ) によつて生じている権利関係を否定する態度に切り換えたということは、その許可 (認可 ) のもとに墓地を経営し管理してきた上告人寺院に対し直接不利益を被らしめたものに外ならない。

 七、国家行政組織法15条によれば、 「各大臣は主任の事務について地方自治法150条の規定により、地方公共団体の長のなす国の行政事務に関し、その長を指揮監督することができる」と定めている。この規定の趣旨から見るなれば、本件通達を受けた各都道府県は通達の宛名が直接地方公共団体の長になつていなかつたとしても、言い換れば直接には首長の補佐機関に対する意思表示であつたからとしても、都道府県の首長たる知事は本件通達中に示された内容そのものを以て、厚生大臣が行政上必要ありとして、墓地の経営及び管理に関する従来の行政上の許可の内容の変更せられた事実を告知し、爾来この告知によるべき旨を指示した訓令としての意味及び効力を理解し服従しなければならないものである。 (仮りにこれに違反するとしたら、具体的事項の執行令を追求されたり、内閣総理大臣の罷免を覚悟しなければならないことは地方自治法146条の定めるところである。 ) 故に本訴通達は、国の機関たる厚生大臣から知事に対する訓令としての意味及び効力を有すること疑ない。

 これを恰かも補佐機関から補佐機関に対する法律解釈上の見解を通達して、解釈の統一を計つたに止まるから、厚生大臣対都道府県知事間の行政指揮監督には直接影響を招来しないというような見解を立てるとすれば、これは詭弁に過ぎないというべきである。殊に通達の後段において新解釈の実現につき「貴都道府県 (指定都市 ) においても遺憾のないよう処理されたい 」と明言しているところからみても以上の推論に誤りのないことを信ずる次第である。

 八、上告人その他の仏教寺院における墓地の経営という事業は寺院における古来の慣行に基く墓地の経営管理が明治以降行政庁から認可せられ沿革的に法律上許可と称されていたものである。

 明治17年10月4日太政官布達第二五号墓地及埋葬取締規則1条は 「墓地及火葬場ハ官轄庁ヨリ許可シタル区域ニ限ルモノトス」と定め、寺院における従来の慣行に基き経営管理されてきた墓地は、この許可に包含され、昭和23年5月に到り、墓地埋葬等に関する法律が制定されたところ、同法26条には「従前の命令の規定により都道府県知事の許可を受けて、墓地、納骨堂又は火葬場を経営している者は、この法律の規定によりそれぞれの許可を受けたものとみなす 」と定めている。従つて明治以前から慣行に従つて墓地を経営管理してきた寺院においては、その実相は認可と理解すべきにもかかわらず沿革的に許可として取扱われてきたのである。

 このように法律上許可と称されながら、実質的には認可に相当する仏教寺院の墓地経営及び管理の慣行は、上告人が原審判示理由第四項反駁の際に述べたように、上告人が在来経営管理してきた慣行の内容として、寺有墓地を上告人寺院の檀徒に対してのみ専ら供用することを慣行の根幹としているものであつて、この慣行は従来行政庁によつて是認せられ墓地埋葬等に関する法律制定に際しても、同法13条にいわゆる正当理由の法意中に慣行を尊重する方針であることが有権的に解釈せられ以て昭和35年3月に到つたものである。 (上告人寺院としては墓地積に余裕あるかぎり、檀徒に対する墓地積供用の拒否はしないから、新らたに寺檀関係を設定して新規に入檀を希望するものがあつた場合、故なくこれを拒否することはない。ただ上告人寺院の立教開宗の根本義に対し、これを邪宗と批判して非難攻撃を専らとする輩が、入檀の申込をしてもこれを受け入れないのは当然であり、従つてまた墓地積供用の申入れがあつたとしても、その埋葬埋蔵の請求乃至墓地積供用の申出を拒絶するにいたるは当然である。墓地積の供用は宗教的には永代継続を考えるもので、道路運送法に依る自動車運送申込みのごとき、医師法における診療の申込のように、運送の用事を終り、診療の目的を達したときは、設定された法律関係がすべて解消せられ原状に回復せられる場合と同一には扱うことができない永代継続さるべき関係にある慣行である。 ) それを本訴通達は突如として、一方的に、恣意的に、変更せられたものであるから、このような極めて著しい不当はもち論違法であつて、寺有墓地を経営する上告人寺院らは、行政訴訟により裁判所に権利の保護を求め得べきことは当然である。

 第三、原審判示理由三及び六に対する意見

 一、原審は理由三、において 「しかしながら、本件通達はその形式内容のいずれをみても前記のとおり行政官庁がその内部における事務処理の必要上、所管の諸機関等に対して発せられているものと考えるほかなく、法律上控訴人 (上告人 ) に義務を課したとする余地はない 」という。

 しかし上告人寺院の墓地経営及び管理の内容は遠く寺院開山当時以来の慣行で、行政上の取扱いとしては明治17年10月4日太政官布達25号墓地及埋葬取締規則1条、同年11月18日内務省通達乙第40号墓地及埋葬取締規則施行細目標準第1条 (管轄庁ヨリ許可シタル区域 )  (従前許可シタル区域 ) 3条1項 (従前別段ノ習慣アルモノ ) により行政庁の許可 (認可 ) を受け従来の慣行がそのまま許可の内容として採りいれられ、昭和23年墓地埋葬等に関する法律制定に際しても、同法26条による見做し許可の取扱いにより行政上の許可 (認可 ) が与えられているものであり、特に墓地管理の在り方については法13条正当事由の有権解釈として、在来の慣行が尊重される法意である旨を昭和23年5月27日参議院厚生委員会上政府委員三木行治からの説明があつて慣行についても従来どおり行政庁の許可の内容に採り入れられてきたものであるにもかかわらず、被上告人は主務官庁として昭和35年3月にいたり、本訴通達に依り法律解釈変更に名を藉り右行政上の許可内容の変更を断行し、機関委任を受けている都道府県知事に訓令をなしたものである。このような許可の内容変更断行の時期は本訴通達が都道府県知事補佐機関に到達した時期であつて、都道府県知事または補佐機関が寺院に対して通告をした時期ではない。実際には全然何らの通知も通告も行なつていないのが全国殆ど大部分であつて通告をしたものは上告人が第二審で立証したように僅少なものであつたのである。

 本訴通達の内容には、上告人が法13条に対しこれまで行政庁の許可によつて墓地の経営管理につき有した慣行上の権利並びに法律関係に対し、通達の時を限界としてすべて形成的に変更を加える効力の発生を包含する趣旨を有し、下級地方行政庁の別段の所為を必要としないものと考えられる。原審は上告人に「義務を課したとする余地はない 」というが、右のように行政上の許可の内容が変更せられる以上、他方において上告人その外の寺院が裁判上救済を求める途が残存しているからといつて、本訴通達なしたる変更処分により行政上の許可の内容は上告人の不利益に変更せられ受忍義務を要求しているものであるから、行政庁のこのような処分は是正されて然かるべきものである。

 二、原審は理由六において 「埋葬請求または強行の事実があつた場合、行政庁が何らかの行政処分をして控訴人 (上告人 ) に不利益を与えたことがあるとすれば、その個々の事件について訴訟を提起するよりほかに途はない。法21条違反の有無に関しても、具体的事件について裁判所が判断するところであつて裁判所が本件通達に拘束される理由はないという。もち論国家刑罰権の存否並びにその範囲に対する決定は裁判所の裁判によつて決定せらるべきことは言うまでもなく、第三者から埋葬埋蔵請求に名を藉りたる不当な請求に対し、寺院が裁判所に墓地経営権及び管理権の侵害に対する保護を訴求する途が残されていることは決して争うところではない。しかし上告人は前述のごとく、本訴通達によつて従来行政庁の許可 (認可 ) によつて認められていた墓地経営及び管理の上に構成せられる権利並びに法律関係を不利益に変更されたものとして、これを回復するため本訴に及ぶものにほかならない。しかもこのことは本訴通達によつて惹起されたものであつて、将来檀徒以外の第三者である特定人からの特定埋葬埋蔵請求を受けたのち行政庁の何らかの行為に遭遇するに到つて、はじめて許可 (認可 ) の内容の変更が認識され証明されるという筋合のものではない。むしろ上告人その他の寺院は行政庁の許可 (認可 ) によつて慣行上に立脚する法律関係が有効に存続することを主張し、以て一面本訴通達の取消しを求め、また他面不当な請求をするものが出てきた場合にはその都度当該請求をする第三者に対しその不当請求を排除するための訴訟行為を必要とすると考えているものである。

 原審は、本訴通達が告知した法律上の意見は、あくまでも都道府県知事 (及びその補佐機関 ) の心理中に潜在するに止まつていて、未だ表面化するに到つていないと誤解し、従つて表面化するに到つたと認められる形をとつたとき始めて行政訴訟の対象となるべき行政処分があつたと言うことができると誤断している。その結果として原審が考えている行政処分と見るべき事実が生ずるまでは、国民がどのような不利益を受け権利を害されたとしても、それはすべて行政処分以前の現象だから、いずれも間接の不利益並びに損害と観念して他に救済の途を求める外に手段なしとしているものである。しかるに上告人の所論は前述のごとくであつて、本訴通達によつて上告人その他寺有墓地を経営及び管理する寺院は、本訴通達当日まで適法に行政庁の許可 (認可 ) によつて慣行上に構成された檀徒専用の墓地経営同管理の権利並びに法律関係を有していたところ、同日以後本訴通達によつて変更され、檀徒以外第三者の埋葬埋蔵請求を受忍する義務を内容とするものと改められ不利益に変更せられたと考えるので、従来の許可によつて保障せられた権利関係の侵害を排除して回復を求めるという趣旨である。本訴通達があるにかかわらず従前の許可の内容が無瑕のまま存続し変更せられるところがないように想像しているのは原審の誤解である。

 第四、原審判示理由四、五、七以下に対する意見

 一、上告人の第一審以来の所論は原判示理由四が批判の対象としているがごとき、上告人寺院における墓地経営及び管理に対する既得の権利関係が、原審のいわゆる旧通達すなわち昭和24年8月22日付厚生省環境衛生課長発東京都衛生局長宛、衛環発88号回答のみによつて発生していると主張しているわけではなく

 (A) 上告人寺院における墓地の経営管理に関する習慣は開山以来伝統となつている慣行である上、

 (B) 前第三の一に述べたように、明治17年太政官布達25号、同年内務省通達乙40号、続いて明治25年2月5日警視総監発真浄寺宛回答等により、前記慣行上構成され権利並びに法律関係につき行政庁の許可 (認可 ) を受け、法例第2条に該当する慣習法上の権利関係となり、

 (C) 右行政庁の許可 (認可 ) は明治17年10月4日以来63年を経過し昭和22年に到つたとき、

 (D) 昭和22年法律72号 「日本国憲法施行の際、現に効力を有する命令の規定の効力に関する法律」第一条の四により、前記 (B) の規則が暫定的に法律に改められ、

 (E) 続いて昭和23年5月に到り墓地埋葬等に関する法律が制定せられるに際し、同法案13条の正当理由中に、前記 (A)  (B) 及び (C) に相当すべき 「社会通念として認められる慣行 」を含む趣旨である旨を、先に述べた第三の一のように政府委員から有権解釈説明の保証があつてのち、

 (F) 同法公布の翌年昭和24年8月22日同法13条正当理由中に、仏教寺院における墓地経営管理上の慣行が尊重せらるべきことにつき、これを再確認する趣旨において原審のいわゆる旧通達が発せられるに到つたものであるから、上告人その他の仏教寺院は、右沿革並びに経過によりその効力を主張することができる。

 従つて上告人の論旨は明治17年太政官布達25号以来、原審のいわゆる旧通達による法13条の有権解釈の再確認まで一連の沿革並びに経過に因り慣習法上の権利があり、この権利関係が侵害の対象となつている旨を述べるものであつて、原審のいわゆる旧通達のみにより「直ちに一個の権利が発生 」したとの論旨とは少しく相違する。これを、かくのごとく理解して判断を下したことは事案に対し適切な理解並び判断をしたものとは到底考えられない。原審は事実の認定並びに判断を誤つたものである。

 二、原判示理由五、七以下は、一連の意思発動と見るべき現象を、表面に現われた個々の事象であると考え、切り離して観察した嫌いがある。

 上告人は本訴通達により前述のように、主務官庁側から一方的に行政上の許可 (認可 ) の内容を変更され、これにより太政官布達以来護持されてきた墓地経営上所属檀徒専用慣行の許可の保証を失ない、新たに宗教的には疏通しない第三者の埋葬埋蔵請求受忍義務を包含したる許可 (認可 ) 内容に転換せられたものである。このように許可の内容が変更されるときは、 (判示理由七参照 ) 仏教寺院は宗教法人としての体質上、常時争訟に応接する準備をすべきでない (むしろしてはならない ) 法人としての意味を有するに対し、本訴通達が、既成宗派折伏を表明する創価学会と相提携して計画した上通達を発している関係上 (前掲第一審第10回口頭弁論今野恒雄証人供述参照。第一審創価学会側の被上告人に対する補助参加申立書参照 ) また側面からも原審判示理由五のごとく全国的に実害が生じているのである。このような現象を原審のように単独に切り離し孤立させて考えるとすれば本訴通達と関係がないように見えるのであろうが、寺有墓地経営の寺院の本質に対し (その在り方は行政庁の許可するところであつた ) 一つの意思連絡のもとに、側面からは寺院運営の侵害を計る学会に対し (宗教の当否正邪は正攻法で冷静に探究すべきで運動によつて制圧すべきものではない ) 表面からはその請託に動いて全国仏教寺院団体に秘密裡に事を進め、しかるのち本訴通達が発せられたことは、その経過、過程から考え本訴通達は上告人その他の仏教寺院に対し、その墓地経営権並びに管理権の権利関係の上に許可内容の変更 (変更の内容は混乱にまで及ぶ ) を目的としたものであつて前掲各実害の発生は本訴通達と決して無関係とは到底考えられない。

 結局原審は一連の事を故さらに切り離し弧立して考えたに止まり綜合的認識並びに判断をしなかつたもので事実の誤認があるといわねばならない。

 第五、原審の本訴通達に対する認識及び判断の誤りは審理不尽にも原因があると信ずる。

 一、本訴通達について、その内容にどのような意味を有し、いかなる範囲まで効力を生ずべきものと理解したらよいか未だ明確になつていないところがある。

 いま本訴通達の構成を見ると、

  (A) 本訴通達本文の要旨は 「墓地埋葬等に関する法律第13条の解釈につき、明確を期するため別紙 (一 ) により法制局に照会したら別紙 (二) の如く回答があつた。今後この趣旨に沿つて運用することにした 」

  (B) 別紙 (一) の要旨  「宗教団体の経営する墓地の管理者が、埋葬埋蔵の請求に対し、請求者が他の宗教団体の信者であることを理由にこれを拒む事例が各地に生じているが、正当の理由に基くものと解してよいか」

 「埋葬埋蔵請求者が当該墓地の区域内に先祖伝来の墳墓を有しているときといないときで相違があるか 」

  (C) 別紙 (二 ) の要旨  「宗教団体がその経営者である場合に、その経営する墓地に他の宗教団体の信者が、埋葬又は埋蔵を求めたとき、依頼者が他の宗教団体の信者であることのみを理由として求めを拒むことは正当事由と認められない」

 「埋葬又は埋蔵の施行に関する典礼の方式は墓地の経営者と依頼者の同意によつて決定する 」、「墓地の管理者は典礼の方式に関する限り依頼者の要求に応ずる義務はない」

 ということになつている。

 二、右 (B) 別紙 (一) における質問の要旨と、 (C) 別紙 (二) の回答の要旨との間には喰違いがあり、その結果委任を受けている都道府県知事 (及びその補佐機関 ) が質問に相当する事項を理解しようとするにあたり、別紙 (二) の回答だけでは問意に対する回答が尽されていないため、上告人その他寺院の墓地経営の許可の内容が、どのように変更せられてゆくか規を一にしない惧がある。

  (1) 別紙 (一 ) の趣旨の前段は、仏教寺院の墓地経営が檀徒の外護 (ゲゴ ) によつて扶けられていることを否定もしくは無視する考え方を基調とし前提としている。

 特定の寺院には限られたる墓地と、従来この墓地の施設に協力し供用を受けてきた檀徒がある。 第一審における法制局の山内一夫証人の証言並びにその上申書の考え方は墓地の経営を、道路運送法上の自動車運送における乗車申込み、あるいは医師法上における患者の診療の請求と同一視しようとしているのであるが、タクシーの従業員と客との関係は、一度乗車させてもその客の運送を終了すればその車は空車となり以前の状態に復帰するし、医師と患者との関係は診療を終つた患者が転帰をするに到れば診療室は開診前の状態に還元するのであるが、墓地経営はこれと異なり一度墓地を開設する以上は、当該墓地積は、たとえ法律的に有期的な理論構成をはかるかも知れないがそれは別として、少くとも宗教的には永遠の浄境として無限の護持を念頭に堅持して開設するものである。「埋骨豈只墳墓地 」の詩句にも見るとおり、墓地は診療室や営業用自動車の一時的利用と異り、一度埋葬埋蔵を施行した以上永遠 (少くとも相当長大な期間 ) の宗教的拘束を生ずるものと解さねばならない。

 前記 (B) の別紙 (一) の前段の問意には、このような檀徒の外護による寺院の墓地経営の在り方を否定する趣旨を包含する疑あり、行政庁の許可の内容を換骨奪胎する趣旨の存否を明かにする必要がある。

  (2) また右 (C) の別紙 (二) によると右別紙 (一) の前提たる理論的な基調を肯定しているかのごとき外観を呈しているので (1) と同様に墓地経営権の許可につき内容の換骨奪胎を意図しているか否かの疑があるばかりでなく、 (C) の別紙 (二) の後段に依るときは埋葬と典礼を分離して考察する態度を示しているのである。若しも本訴通達がこのような不明確な趣旨及び内容を以て示されている以上、行政庁の許可の内容は不明確に変更されたことになり、特定寺院の特定墓地積を、ただ葬式のときだけ、表面のみ当該寺院の典礼に依ることの途を拓らき、墓地積の管理料は負担するが、宗派には反対運動をするという典礼と、精神的要素を分離した不明確で、かつ変則的な墓地の使用関係を作り出すことになる。

  (3) 前掲別紙 (一) の前段では、 「請求者が他の宗教団体の信者であることを理由にこれを拒む事例」と言つて質疑を発しているのであるが、本訴における被上告人提出準備書面にも明らかなとおり、従来寺院の檀徒であつた者が創価学会に入会し日蓮正宗に改宗し旧寺院との寺檀関係を解消し絶縁を宣告しながら、解消前の旧墓地積に対し慣習上の物権を有すると称して一方的に埋葬埋蔵しようとするために紛争が相次いで起つているというのが実相である。その点があるからこそ本訴通達の別紙 (二 ) の後段において 「祖先伝来の墳墓を有しているときと、これを有しないとき 」を挙げ回答を求めたのであるが、別紙 (二 ) は何等の回答を与えていない。本訴通達はそのまま不明確のままこれを援用して墓地経営権及び管理権許可の新内容としたものであつて、その許可変更の範囲並びに内容が以上のように明確でないにも拘らず、これを明確にしようとする上告人のこの点に関する証人申請の全部を却下し現段階のままで判断をした原審判決は、未だ審理を尽さないもので上告の理由があるものである。
 以上の各理由から原判決を破棄しさらに相当な御裁判を迎ぐ次第である。


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