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最高裁(第三小法廷)昭和56年07月14日判決
=行政百選U[第四版]bQ18〔訴訟審理・処分理由差替え−青色申告法人税更正処分/京都市中京区〕
昭和52年(行ツ)第62号・法人税更正処分取消請求上告事件
棄却
第一審・京都地方裁判所昭和49年03月15日判決(昭和39年(行ウ)第6号)
控訴審・大阪高等裁判所昭和52年01月27日判決(昭和49年(行コ)第50号)
上告人 K株式会社 右代表者代表取締役 K 右訴訟代理人弁護士 酒見哲郎 同 田中実
被上告人 中京税務署長 島村宗治 右指定代理人 山田雅夫
最高裁判所民事判例集35巻05号0901頁、訟務月報27巻11号2143頁、判例タイムズ452号86頁
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人酒見哲郎、同田中実の上告理由第一点及び第三点について
被上告人が本件追加主張を準備手続において提出しなかったのはその故意又は重大な過失によるものではないとし、また、準備手続終結後の口頭弁論において被上告人に本件追加主張の提出を許しても訴訟を著しく遅滞させることにはならないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及び記録に現われた本件訴訟の経過に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同第二点及び第三点について
論旨は、要するに、被上告人の本件追加主張は本件更正処分の通知書に附記された更正の理由とは異なる新たな事実を内容とするものであって、これを本件更正処分の適否に関する攻撃防禦方法としてその取消訴訟である本件訴訟において提出することは許されないものと解すべきところ、被上告人が本件追加主張を提出することは妨げないとした原判決は、当裁判所昭和四三年(行ツ)第六一号同四七年一二月五日第三小法廷判決・民集二六巻一〇号一七九五頁に違背し、法令の解釈適用を誤ったものである、というのである。
そこで検討するに、原審が適法に確定したところによれば、(一)宅地の分譲販売等を業とする上告人は、本件係争事業年度において本件不動産を七六〇〇万九六〇〇円で取得しこれを七〇〇〇万円で販売したものとして、右事業年度の法人税につき青色申告書による確定申告をした、(二)これに対して、被上告人は、本件不動産の取得価額は六〇〇〇万円であるとして、他の理由とともにこれを更正の理由として更正通知書に附記し、本件更正処分をした、(三)ところが、被上告人は、本訴における本件更正処分の適否に関する新たな攻撃防禦方法として、仮に本件不動産の取得価額が七六〇〇万九六〇〇円であるとしても、その販売価額は九四五〇万円であるから、いずれにしても本件更正処分は適法であるとの趣旨の本件追加主張をした、というのであって、このような場合に被上告人に本件追加主張の提出を許しても、右更正処分を争うにつき被処分者たる上告人に格別の不利益を与えるものではないから、一般的に青色申告書による申告についてした更正処分の取消訴訟において更正の理由とは異なるいかなる事実をも主張することができると解すべきかどうかはともかく、被上告人が本件追加主張を提出することは妨げないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。そして、右のように解しても、所論引用の判例の趣旨に反するものではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(最高裁判所第三小法廷 裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 環昌一 裁判官 横井大三 裁判官 寺田治郎)
上告代理人酒見哲郎、同田中実の上告理由
第一点 原判決は民事訴訟法第二五五条本文の適用を誤った違法がある。
被上告人は「被上告人が本件更正処分をするに当り否認した前記金一六〇〇万九〇〇〇円の否認が認められなくとも、右申告遺脱分の金二四五〇万円を加算すれば、上告人の右事業年度の所得金額は金五一六四万一八〇円であって、本件更正処分において、認定した上告人の所得金額である金四三一四万九七八〇円を超過するから、結局、本件更正処分は適法である」旨の追加主張をなしたものであるが、右主張は被上告人の権力機関としての立場からすれば、上告人の所得を把握することは容易のものであり、調書作成までに主張することができたものである。
従って、第一九回の口頭弁論期日に始めてこの主張が提出されたことは、被上告人の故意又は重大な過失に基づくものである。 更に,被上告人の追加主張については立証を要するものであり、被上告人は書証として乙第九号証乃至二〇号証、人証として繁田俊雄、加藤博俊、木村文男、山本竹次、山内隆信の取調べを請求したのであるが、書証については上告人において直ちにその成立を認め得るものでなく、又証人についても期日に直ちに取調べることができなかったもので、これがため著しく訴訟が遅延したものである。
原判決は本件訴訟の経過に照らすときは、右追加主張の当否について判断をすることは別に著しく本件訴訟を遅滞せしめると考えられないというが
1 本件訴訟の経過というのは何を意味するのか。追加主張がなされるまで訴訟の進行がゆっくりしておれば、民事訴訟法第二五五条本文の規定はほおかむりして訴訟が遅滞しても良いというのか、この点が明らかでない。
少なくとも追加主張がなされる弁論期日迄に数回の弁論が空転している。元来、上告人において終結を求め、被上告人はその段階における最終準備書面を書かせて欲しいということで期日の続行を求め、上告人はこれを諒としたのであるが、被上告人は期日の空転を意図的に行い、ようやく第五準備書面を提出して追加主張をしたもので、追加主張までの訴訟の遅滞の責任はすべて被上告人に帰せられるところ、追加主張により更に訴訟が遅滞したこと、それが著しいものであることは明白である。2 追加主張の当否について判断することは著しく本件訴訟を遅滞せしめると考えられないというが、原審は大審昭和一二年(オ)第一一〇三号、同年一二月一一日民三判の左記判旨をどう理解するのであろう。
「準備手続調書に記載されない抗弁が口頭弁論期日に提出されたが、そのために弁論を続行し新たに証拠調を重ねなければならない特別の事情が認められない場合は著しく訴訟を遅滞せしめるものと断じ得ない」
即ち、そのために(追加主張のために)弁論を続行し新たに証拠調を重ねなければならなかった本件の場合は著しく訴訟を遅滞せしめるものなのである。
上告人は被上告人の追加主張については異議を述べておることも看過されてはならない。
第二点 原判決は、最高裁判所昭和四七年一二月五日第三小法廷判決(民集第二六巻第一〇号一七九五頁)に違反している。
一 原判決は、要するに更正処分時の附記理由と異なる新たな理由を訴訟上主張することは許されるべきであり、更正処分時の附記理由が認められなくても、訴訟上主張された新たな理由が認められれば、更正処分は維持されるべきであるというにつきる。しかしながら、この原判決の見解は、すべて最判昭和四七年一二月五日第三小法廷判決(民集第二六巻第一〇号一七九五頁)を無視した判決であるといわねばならない。即ち、右最高裁判決は判決要旨第二点において、更正処分の瑕疵の治癒に関し、「更正に理由附記を命じた規定の趣旨が前示のとおりであることに徴して考えるならば、処分庁と異なる機関の行為により附記理由不備の瑕疵が治癒されるとすることは、処分そのものの慎重、合理性を確保する目的にそわないばかりでなく、処分の相手方としても審査裁決によってはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない。そして、更正が附記理由の不備のゆえに訴訟で取り消されるときは、更正期間の制限により新たな更正をする余地のないことがあるなど処分の相手方の利害に影響を及ぼすのであるから、審査裁決に理由が附記されたからといって、更正を取り消すことが所論のように無意味かつ不必要なこととなるものではない。それゆえ、更正における附記理由不備の瑕疵は、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではないと解すべきである」と述ベているのである。従って、以下の理由の通り審査裁決の延長線上にある取消訴訟においても、同一の理由があてはまるものであるといえる。
二 そもそも、青色申告の更正処分に理由附記の必要とされるのは、処分庁に更正理由を附記せしめて処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与えることを目的とするものであることは、つとに判例及び学説により認められて来たところである。このような考え方の下に、更正処分の理由附記の不備を理由として更正処分を取消した例は枚挙にいとまがないのである。
そして、また、更正処分の理由附記の趣旨が右のようなものであるとすれば、前示最判昭和四七年一二月五日判決が、「青色申告についてした更正処分の理由附記の不備の瑕疵は、同処分に対する審査裁決において、処分理由が明らかにされた場合であっても、治癒されないと解すべきである」と判示したことは極めて正当なことであるといわねばならない。
三 さらに、前記最判をふえんして解釈すれば、青色申告の更正処分は審査裁決の段階はもとより、その取消訴訟においても、審査庁もしくは取消訴訟における被告が、更正処分の附記理由とは別の新たな理由をもって、更正処分を維持しようとすることは認められないというべきである。
蓋し、そう解しないと更正もしくは審査裁決において、適当に理由を附記しておいて、審査裁決もしくは取消訴訟において、新たにやり直しをすることが可能であり、理由附記制度及び前記判決自体が無意義となるからである。また、審査裁決もしくは取消訴訟で新たな理由の追加を許すとすれば、更正処分の理由を相手方に知らせて、不服申立の便宜を与えることを目的とする理由附記制度の目的を達成することができないからである。
即ち、最判昭和四七年一二月五日判決をもって、更正処分には新たな理由で処分を維持されることはないという行政上の手続的保障が与えられたものであるといわねばならない。最判昭和四七年三月三一日第二小法廷判決も右見解を提示するものである。
即ち、このように青色申告者に対する更正処分に対して理由附記が要求されることから考えれば、これは訴訟において主張の制限をしたものであると解することができ、青色申告者にはそのような権威を認めてしかるべきなのである。
四 右の通りであるから、原判決は、右のように更正処分に理由附記を必要と解し、この強行規定行性を守るため審査裁決の段階において理由附記の不備の治癒を許さないとする考え方の下では成立しない立論であるというべきである。原判決は、あるいはこの点において、更正処分の附記理由不備の瑕疵を治癒する場合と、更正処分自体は手続上正当でまた訴訟上別個の理由を追加する場合とは、意味が違うと考えているのかもしれない。しかしながら、不備の治癒の認められない性質上の行政処分について、何故、別個の理由の主張が許されるのか。もし、審査裁決もしくは取消訴訟において処分理由とは別個の新たな主張が許されるとするなら、何故、新たな主張の名の下に原処分の不備が治癒できないのか。このように、理由不備の治癒の問題も別個の新たな理由の主張の問題も同一の問題であるといわねばならないのである。
五 更正理由に記載されていない事項を訴訟上新たに主張できないことについては、次の見解によって指示されるべきである。
最高裁判所判例解説民事篇昭和四七年度三七一頁(佐藤繁)、(昭和四三年(行ツ)第六一号、同四七年一二月五日第三小法廷判決)
右判例解説において、最後に「消極説の論拠としては以上で十分であると思われるが、さらに、次のようなことも付加できるのではなかろうか。すなわち青色更正の場合は、その取消訴訟においてはもとより、審査段階においても、審査庁が更正に附記された理由とは別のあらたな理由をもって更正を維持することは許されないと解すべきである。この点は異論の予想されるところであるが、さもないと、更正には適当に理由を記載しておいて裁決でやり直してもらうことが可能となり、理由附記制度の前記の趣旨が無意義となるおそれがあるからである。その意味で、あらたな理由で処分を維持されることはないという手続的保障が与えられていると考えることができよう。そうだとすると、更正には理由にならない理由を附記しておき、裁決の理由附記をまって瑕疵が治癒されるとしたのでは、実質的に、審査庁があらたな理由をもって更正を維持するのと異ならないことになり、これを認めることはできないという結論になろう。」と述べられている。(三八〇‐三八一頁)
第三点 本件の場合には、次の理由によって更正理由の訴訟上の追加が許されるべきではない。
即ち、本件の場合には、単に青色申告というのみではなく、上告理由第一点記載の通り、準備手続を経た本件である。従って、二重の意味において、被上告人の主張には制限が加えられると解するべきである。
以上
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