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 最高裁(第一小法廷)昭和57年07月15日判決

   〔行政処分の成立−消防法による給油取扱所変更の「許可」/高砂市〕


 昭和53年(行ツ)第21号・不作為違法確認請求上告事件
 
一部破棄自判 一部破棄差戻
   第一審・神戸地方裁判所昭和50年09月12日判決(昭和48年(行ウ)第16号)
   控訴審・大阪高等裁判所昭和52年10月28日判決(昭和50年(行コ)第42号)

  上告人(控訴人・被告) 高砂市長 足立正夫 代理人 後藤三郎 外二名
  被上告人(被控訴人・原告) X

 最高裁判所民事判例集36巻06号1146頁、判例タイムズ479号64頁


 主 文
 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
 被上告人の主位的請求中上告人が昭和四八年三月三一日付で被上告人に対してした高消許第四六三号給油取扱所変更許可処分が存在し、かつ、その効力を有することの確認請求を棄却する。
 被上告人のその余の主位的請求に係る訴えをいずれも却下する。
 原判決中被上告人の予備的請求に関する部分につき本件を神戸地方裁判所に差し戻す。
 被上告人の主位的請求に関する訴訟の総費用は被上告人の負担とする。


 理 由
 上告代理人後藤三郎、同坂本義典、同大西裕子の上告理由について
 行政処分が行政処分として有効に成立したといえるためには、行政庁の内部において単なる意思決定の事実があるかあるいは右意思決定の内容を記載した書面が作成・用意されているのみでは足りず、右意思決定が何らかの形式で外部に表示されることが必要であり、名宛人である相手方の受領を要する行政処分の場合は、さらに右処分が相手方に告知され又は相手方に到達することすなわち相手方の了知しうべき状態におかれることによつてはじめてその相手方に対する効力を生ずるものというべきである(最高裁昭和二六年(れ)第七五四号同二九年八月二四日第三小法廷判決・刑集八巻八号一三七二頁参照)。
 これを本件についてみるのに、原審の適法に確定した事実は、次のとおりである。すなわち、被上告人は昭和三二年三月三一日高消許第三二号給油場の許可を得ていたが、昭和四八年三月初め頃上告人に対し、消防法一一条一項の規定に基づき給油取扱所変更許可申請(以下「本件変更許可申請」という。)をしたところ、同月三〇日右申請が受理された。上告人(主管・高砂市消防本部)は、本件変更許可申請に対し昭和四八年四月六日、遡及した日付である同年三月三一日付で高消許第四六三号給油取扱所とした変更許可書の原本とその写し(甲第一一号証の四)を作成し、被上告人の元売会社である三菱石油株式会社(以下「三菱石油」という。)大阪支店の千家課長に右許可書の写しを交付した。右写しは、その後大阪通商産業局長宛に提出された。この間の経緯は、次のとおりである。すなわち、上告人は、昭和四五年以降、給油取扱所の変更許可申請の際、事前に隣接住民の同意書を提出させていたので、前記被上告人の本件変更許可申請についても、昭和四八年三月三一日被上告人に対し隣接住民である石原誠一の同意書の提出が本件変更許可申請に係る許可処分(以下「本件変更許可処分」という。)の条件になる旨連絡し,その提出を求めたが、被上告人は終始これを拒否していた。他方、被上告人は格別三菱石油に対し本件変更許可申請手続に関する代理権を与えていたわけではなかつたが、上告人は同会社大阪支店を被上告人の代理人と考えて応待していたところ、右大阪支店及び同じく被上告人の元売り会社である兵庫県内海漁業協同組合連合会(以下「内海漁連」という。)から、隣接住民の同意書を後日提出するので昭和四八年三月三一日付で本件変更許可処分をしてもらいたい旨の懇請を受けた。その理由は、被上告人が通商産業省から昭和四七年度の給油取扱所の変更の枠を得るためには、昭和四八年三月三一日までに本件変更許可処分が効力を生じていなければならなかつたからである。そこで、上告人は、昭和四八年四月六日が本件変更許可処分の許可書の写しを添付して大阪通商産業局長宛に昭和四七年度の前記変更の枠の申請手続をする最終日であつたので、三菱石油らの前記懇請により、例外的に隣接住民の同意書の提出がないまま許可することとし、右同日、同年三月三一日付で本件変更許可処分の許可書の原本とその写しを作成したが、その際、上告人は、右写しの条件欄に隣接住民の同意書を提出すべき旨を記載すると前記変更の枠が流れてしまうので、その旨を記載しない代りに、三菱石油大阪支店と内海漁連から連名で、「工事に関する貴市指定隣接住民の同意書を提出するまで本件変更許可書の受理につき異議を申しません。云々」の念書(乙第一号証)を差し入れさせ、これと引換えに右許可書の写しを三菱石油大阪支店らに交付し、他方被上告人に対しては許可書原本を交付することなく、終始隣接住民である石原誠一の同意書を提出することを求めた。
 そこで、以上の事実関係の下において、上告人による被上告人に対する有効な変更許可処分がされたものと認めることができるかどうかを考えるのに、右の事実によれば、本件許可書の写しの三菱石油大阪支店らに対する交付は、同人らの懇請に応じ大阪通商産業局長に対する関係で昭和四七年度の給油取扱所の変更の枠を確保することを目的としてあたかも許可処分があつたかのような状況を作出するためにされたものにすぎず、被上告人に対する許可処分そのものは隣接住民の同意書の提出をまつて許可書の原本を交付することによつて行うこととされ、三菱石油らももとよりこれを了承して許可書の写しの交付を受けたのであるから、右交付をもつて被上告人に対する許可処分の外部的意思表示がされたものとみることはできない。したがつて、これだけでは、本件許可処分は行政処分として未だ成立していないといわざるをえず、その後この状態に変動がない以上、被上告人に対する有効な許可処分は存在していないというほかはない。そうすると、被上告人の主位的請求のうち本件変更許可処分の存在及びその効力の確認を求める部分は理由がないものというべきである。 
 次に、被上告人が昭和四八年三月三〇日にした給油取扱所内の灯油等専用の一般取扱所設置許可申請に対する上告人の不作為の違法確認の請求についてみるのに、右申請は、本件変更許可処分が有効にされたことを前提とし、右変更に係る給油取扱所内における灯油等専用の一般取扱所設置の許可を求めるものであるところ、前記のように前提である本件変更許可処分自体が存在しないのであるから、かかる申請については、これに対する行政庁の不作為があつても、申請者においてその違法の確認を求める訴えの利益はないと解するのが相当である。よつて、被上告人の前記請求に係る訴えは、不適法として却下すべきものである。
 また、被上告人の主位的請求のうち被上告人が本件変更許可処分につき隣接住民の同意書を提出する義務がないことの確認を求める部分は、本件許可処分があつたことを前提とし、右許可処分にはこれに関して被上告人に右同意書提出の義務を負わせるような附款が附されていないこと、仮にかかる附款が附されていたとしてもそれは無効であるとして右の義務不存在の確認を求めるものであるところ、本件許可処分自体が存在しないことは前記のとおりであるから、これが存在することを前提としてこれに関し同意書を提出する義務が被上告人に存在しないことの確認を求める訴えの利益はないといわなければならない。
 よつて、右請求に係る訴えもまた却下を免れない。
 以上の次第であるから、原判決中被上告人の主位的請求を認容した部分を破棄することとし、右部分については原審の確定した事実に基づき当裁判所において裁判をするに熟するものと認められるところ、第一審判決は右主位的請求を原審と同趣旨の理由で認容しているのでこれを取消したうえ、被上告人の主位的請求中上告人が昭和四八年三月三一日付で被上告人に対してした高消許第四六三号給油取扱所変更許可処分が存在し、かつ、その効力を有することの確認請求を棄却し、被上告人のその余の主位的請求に係る訴えをいずれも却下することとし、なお被上告人の予備的請求についてはさらに審理を尽くさせる必要があるから、右部分につき本件を神戸地方裁判所に差し戻すのを相当とする。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、四〇七条一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎万里 裁判官 本山亨 裁判官 中村治朗)


 上告代理人後藤三郎、同坂本義典、同大西裕子の上告理由
 第一点 原判決(第一審判決の引用による判示を含む。以下同じ)は、行政処分の成否を認定するにつき、経験則並びに採証の法則に違背しかつ法律上の判断を誤つた点において、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背があるので破棄されるべきである。
 一、本件給油取扱所変更許可処分は、行政行為として不成立である。もともと許可処分は、行政庁の意思表示によつて成立する行政行為である。それは行政庁が許可という法律効果の発生を欲する意思(効果意思)を有し、これを外部に表示する行為(表示行為)によつて成立する。
 しかしながら、本件の場合は、行政庁たる上告人に消防法の定めるところに従つて許可をなす効果意思が全くない。またその効果意思を外部に表示する行為も存しない。従つて本件許可処分は不成立である。
 二、すなわち、上告人は昭和四八年三月三一日付で本件許可処分をなす意思は、初めから全くなく、唯将来許可処分をなす場合の前提として、通産省の昭和四七年度の給油所変更枠を確保するため、大阪通産局に許可書の写を提出する目的で許可書を作成したに過ぎない。
 三、右の許可書作成は、上告人が許可申請者である被上告人、並びに許可申請手続関与者である三菱石油株式会社大阪支店、支店長川崎太郎(以下単に三菱石油大阪支店という)及び兵庫県内海漁業協同組合連合会岩城昭(以下単に内海漁連という)から懇請を受けて、被上告人の利益のために、便宜上これを作成したものに過ぎず、上告人が本件許可処分をなす意思を有しなかつたことは、右関係者全員が等しく了承しているところである。
 四、右事実は、前記三菱石油大阪支店、及び内海漁連両者の作成にかかる、昭和四八年四月六日付「念書」(乙一号証)において、「隣接住民の同意書を提出するまで本件変更許可書の受理につき異議を申しません。」という文言が記載されていることによつて、明らかに認められるところであり、また被上告人の作成にかかる、昭和四八年三月三〇日付「申入書」(乙二号証)には、「御市に御迷惑をお掛けしないという念書を御送りする」と記載されているところからも、容易に推認しうるのであり、証人若宮元、同滝本英一、同千家英雄の各証言内容に照せば明白に証明されている。
 従つて、上告人が行政庁として、本件許可処分をなす意思が全くなかつたことを疑う余地は存しない。
 五、つぎに上告人には、右許可処分意思を外部に表示した行為が存しない。
 一般に許可処分を外部に表示するには、許可申請者たる被上告人又はその代理人に対し、許可書を交付することによつてなすのであり、もし右交付が不可能の場合には、これに代る手続として右許可処分を了知させる状態をつくることをもつて足りるであろう。
 しかしながら、本件の場合には、上告人は前述のように、通産省の枠を確保するためのやむを得ない手段として、そして全く便宜的な手段として大阪通産局に許可書の写を提出するため、写のみを三菱石油大阪支店長川崎太郎に交付したに過ぎないのである。もとより被上告人に対しては許可処分の通知もしていないし、また許可書の写すら交付していない。そうすると右は、行政庁が行政目的ではなく、単に第三者の依頼によつて許可書の写を交付したにとどまるのであつて、これをもつてどうして許可処分の外部的表示と解することができるのか、納得することができない。
 六、原判決は、上告人が許可書の原本を作成したことをもつて、本件許可処分が成立し、原本の備付ないしはその写の交付によつて、被上告人の了知しうべき状態におかれたので、その効力を生じたと判断しているが、前述したように、原本の作成は、大阪通産局に提出する写を作成するためだけの目的であつたし、また写の交付も通産省の枠を確保するための手段として便宜的に三菱石油大阪支店に交付したに過ぎないから、こうした事実関係の下では、未だ行政行為としての許可処分は成立していないのであつて、この点、原判決の判断は全く誤つていると言わざるを得ない。
 七、しかるに、原判決は、前述の各証拠について、採証の法則を誤りかつ経験則に違背して、客観的、合理的な事実認定をなさず、行政行為の成否について法律的判断を誤り、本件許可処分は成立したものと判断したものであり、右は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背であるから、破棄を免れない。
 <その他、省略>


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