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名古屋高裁金沢支部平成15年01月27日判決
〔行政裁量・行政処分の無効−もんじゅ原発訴訟差戻第二審〕
平成12年(行コ)第12号・原子炉設置許可処分無効確認等請求控訴事件<もんじゅ原発訴訟差戻第二審>
原判決取消
第一審→福井地方裁判所昭和62年12月25日判決(昭和60年(行ウ)第7号)
控訴審→名古屋高等裁判所金沢支部平成01年07月19日判決(昭和63年(行コ)第2号)
上告審→最高裁判所第三小法廷平成04年09月22日判決(平成1年(行ツ)第130号)
差戻第一審・福井地方裁判所平成12年03月22日判決(平成4年(行ウ)第6号)
判例タイムズ1117号89頁
主 文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が動力炉・核燃料開発事業団に対して昭和58年5月27日付けでした,高速増殖炉「もんじゅ」に係る原子炉設置許可処分は,無効であることを確認する。
3 訴訟費用は,差戻しの前後を問わず,すべて被控訴人の負担とする。
事 実
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら(控訴の趣旨)
主文同旨
2 被控訴人
(1)本件控訴を棄却する。
(2)控訴費用は,控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,内閣総理大臣が動力炉・核燃料開発事業団に対して,昭和58年5月27日付けでした,高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市白木に建設が予定された液体金属冷却高速増殖炉で,研究開発段階にある原子炉及びその附属施設から構成される。以下,この原子炉を「本件原子炉」と,また,同原子炉とその附属設備を併せて「本件原子炉施設」という。)に係る原子炉設置許可処分(以下「本件許可処分」という。)について,本件原子炉施設の周辺に居住する住民である控訴人ら(第1審原告ら)が,本件許可処分は核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和61年法律第73号による改正前のもので,以下「規制法」という。)及びその他の法令に違反すると主張して,本件許可処分の無効確認を求めた事案である。
2 本件訴訟の経緯
(1)本件は,昭和60年9月26日に福井地方裁判所に提起され,同裁判所昭和60年(行ウ)第7号事件として係属したのであるが,控訴人らは,同時に動力炉・核燃料開発事業団を被告として,本件原子炉の建設・運転の差止めを求める訴えを併合提起した。
これに対して,福井地方裁判所は,本件(内閣総理大臣を被告とする事件)を分離した上で,本件は行政事件訴訟法36条の要件を欠く不適法な訴えであるとして,昭和62年12月25日,本件訴えを却下した。そこで,原告らは控訴したが,名古屋高等裁判所金沢支部は,平成元年7月19日,本件原子炉施設から半径20キロメートル以内に居住する原告らについては本件許可処分の無効確認を求める法律上の利益(原告適格)を認め,当該原告らについて,事件を福井地方裁判所に差し戻し,その余の原告らの控訴を棄却した。
そのため,控訴を棄却された原告ら(原告適格を認められなかった者)が上告するとともに,原告適格を認められた原告について,被告(内閣総理大臣)も上告した。
最高裁判所は,平成4年9月22日,半径20キロメートル以内に居住する原告ら(原告適格を肯定された者)に対する被告の上告を棄却するとともに,半径20キロメートル外に居住する原告らの上告を容れて,これらの原告にも本件許可処分の無効確認を求める法律上の利益(原告適格)を認め,当該原告らに関する原判決(名古屋高等裁判所金沢支部の上記控訴審判決)を破棄して,第1審(福井地方裁判所)の判決を取り消した上で,当該原告らについて,事件を福井地方裁判所に差し戻した。
(2)このような経緯で,本件(内閣総理大臣を被告とする事件)の全部が福井地方裁判所に差し戻されたが,差戻後の第1審(福井地方裁判所)は,平成12年3月22日,原告らの請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した(差戻後の事件番号は,福井地方裁判所平成4年(行ウ)第6号)。
そこで,これを不服とする控訴人ら(第1審原告ら)が本件控訴に及んだ。
第3 当事者双方の主張
当審における控訴人らの主張は,第3分冊記載のとおりであり,被控訴人の主張は,第4分冊記載のとおりである。
これ以外の当事者双方の主張は,原判決事実摘示(原判決の第3分冊及び第4分冊)のとおりであるから,これを引用する。しかし,弁論の全趣旨によれば,控訴人らが本件許可処分の無効事由として主張する点は,当審で争点を絞った結果,本判決の第3分冊記載のものに集約され,その余の原審及び当審での無効事由の主張は,事実上撤回されたものと認められる。したがって,当裁判所の判断は,本判決の第3分冊記載の主張に対するものを中心とし,必要な限度で,原審における当事者双方の主張にも触れることとする。
第4 本件の主要な争点
上記の当事者双方の主張を対比すると,本件の主要な争点は,次の1及び2の(1)ないし(5)のとおりであると認められる。
1 本件許可処分の無効要件
行政処分である本件許可処分の無効要件として「明白かつ重大」な違法事由を必要とするか。要しないとすれば,本件許可処分を無効とする要件は何か。
2 本件許可処分の無効事由
次の(1)ないし(5)の事項に関する安全審査が規制法24条1項3号又は4号に適合しているか否か。
(1)本件申請者(動力炉・核燃料開発事業団)の技術的能力(規制法24条1項3号)
(2)立地条件及び耐震設計(規制法24条1項4号)
(3)2次冷却材漏えい事故(同上)
(4)蒸気発生器伝熱管破損事故(同上)
(5)炉心崩壊事故(同上)
理 由
第1章 総論
第1節 本件の前提事実
第1 原子炉設置許可の申請及び許可処分等
1 原子炉設置許可の申請
動力炉・核燃料開発事業団(以下,「動燃」又は「本件申請者」という。)は,昭和55年12月10日,規制法23条の規定に基づき,本件原子炉の設置につき,内閣総理大臣に対し許可申請をした。その後,本件申請者は,昭和56年12月28日付け及び昭和58年3月14日付けで,それぞれ許可申請の一部補正を行った(この一部補正を含めて,本件申請者の行った原子炉設置許可申請を「本件許可申請」という。)。
2 本件許可処分
内閣総理大臣は,所部の機関である科学技術庁に審査をさせ,かつ,原子力委員会及び原子力安全委員会の答申を受けた上で,昭和58年5月27日付けで,本件許可申請に対し,これを許可する本件許可処分を行った。
3 その後の法改正
その後,法改正に伴い,動燃(本件申請者)は,平成10年10月1日の組織改正により,新法人として設立された「核燃料サイクル開発機構」に移行した。
また,中央省庁等改革関連法施行法(平成11年法律第160号,平成13年1月6日から施行)により,本件許可処分は,経済産業大臣がしたものとみなされた(同法904条,1301条)。
なお,中央省庁等改革に伴い,これまで科学技術庁が行っていた核燃料物質及び原子力に関する規制に関する事務は,経済産業省の外局である資源エネルギー庁に設置された特別の機関である原子力安全・保安院が所管することになった。(以上につき,争いのない事実,弁論の全趣旨)
第2 控訴人らの地位
控訴人ら(第1審原告ら)が本件原子炉施設からの距離が約11キロメートルから約58キロメートルの範囲に居住する住民であることは,当事者間に争いがない。なお,控訴人らが本件許可処分の無効確認を求める法律上の利益を有することについては,本件を福井地方裁判所に差し戻した最高裁判所の判決により確定している。
第3 本件原子炉の概要及び特徴等
1 本件原子炉の概要
本件原子炉は,本件申請者が昭和58年5月27日に本件許可処分を受け,その後,設計及び工事の方法の認可の手続を経て,福井県敦賀市白木地区に建設した液体金属冷却高速増殖炉である。本件原子炉は,研究開発段階の原子炉で,規制法施行令により同法23条1項4号の定める原子炉に該当する。本件原子炉施設は,昭和60年10月から建設工事が開始され,平成6年4月に初臨界に成功し,また,平成7年8月には初送電を達成した。(当事者間に争いのない事実)
2 本件原子炉の特徴(特に,軽水炉と比較した場合の特徴)
本件原子炉は,核分裂反応によって発生したエネルギーを利用する原子炉であるが,その最大の特徴は高速増殖炉である点にあり,現在,我が国を始めとして,世界の商業用原子炉の大半を占める軽水炉と比べて,具体的には,次のような特徴を有すると認められる(当事者間に争いのない事実,甲イ468,乙1ないし3,乙5,乙イ2及び乙イ4)。
(1)核燃料及びその増殖の点について
軽水炉は,核燃料としてウラン235を使用する。ウラン235は,核分裂を起こしやすい性質を持つ物質(燃えるウラン)で,核分裂性物質と呼ばれるものである。しかし,このウラン235は,天然ウラン全体のわずか0.7パーセントしか存在せず,残りの約99.3パーセントは,核分裂を起こしにくいウラン238(燃えないウラン)である。このように自然界ではウラン資源に限りがある。もっとも,ウラン238は,中性子を1個吸収すると,核分裂を起こしやすいプルトニウム239に転換する性質を有している。そこで,注目されたのが高速増殖炉である。高速増殖炉は,核分裂反応によって生じる熱エネルギーを発電の用に供する点においては,軽水炉と同じであるが,核燃料としてウランとプルトニウムの混合酸化物を使用し,核分裂によって生じた高速の中性子をウラン238に衝突させ,それをプルトニウム239に転換し,消費した燃料以上の核燃料物質を増殖しようとするものである。
これに対し,軽水炉でも,中性子の衝突によりウラン238がプルトニウム239に転換するが,中性子の速度が遅いためその確率が低く,核燃料の増殖機能は有しない。
(2)減速材について<省略>
(3)冷却材について<省略>
(4)プルトニウム及びナトリウムの危険性について
ア プルトニウム
高速増殖炉の燃料として使用され,かつ,運転によって消費した量以上に増殖されるプルトニウム239は,天然には存在しない人工放射性核種で,破壊力の極めて大きいアルファ線を放出し,その半減期は2万4100年とされている。プルトニウムの公衆に対する許容負荷量を国際的基準(ただし,本件訴え提起当時のもの)に基づく職業人に対する肺の最大許容負荷量の10分の1として計算すると,その量は0.0016マイクロキュリー(重量に換算すると,4000万分の1グラム程度)であり,軽水炉の燃料となるウラン235などよりもはるかに毒性の強い物質である。
イ ナトリウム
ナトリウム(金属ナトリウムともいう。)は,前記のように冷却材として優れた性質を有するが,その反面,酸素と激しく化合する特性を持っている。このため,高温のナトリウムが空気と接触すると,激しく燃焼して高熱を発する。また,水と接触しても,水分中の酸素と容易に化合し,高熱燃焼を起こすとともに,水素を発生させる(ナトリウム−水反応)。そして,発生した水素は,その濃度如何によっては,空気中の酸素と反応して,燃焼又は爆発する危険性がある。こうした特性は,ナトリウムがコンクリートと接触した場合でも同様であり,コンクリート中の水分とナトリウムとが激しく化合する結果(ナトリウム−コンクリート反応),水分をなくしたコンクリートは,その強度を失う可能性がある。したがって,ナトリウム(冷却材)の外界への漏えい防止対策は,重要な課題である。
3 本件原子炉の高速増殖炉としての段階
原子炉を開発する場合,安全性の確認と技術の確立の観点から,先ず実験炉から始め,次いで原型炉,実証炉を経て実用炉に至る。
本件申請者は,高速増殖炉の実験炉(基本的なシステムの機能を実証し,技術的経験を得るとともに,燃料や材料の照射施設としても活用する炉)として,「常陽」を設計・建設し,昭和52年4月に臨界実験に成功している。ただし,常陽は発電能力を有していなかった。
本件原子炉(もんじゅ)は,実験炉の次の段階の原型炉(発電プラントとしての性能を実証するための中型の炉)である。(以上につき,乙1,乙2,乙イ4)
4 本件原子炉の熱出力・電気出力と現状
本件原子炉(もんじゅ)は,熱出力71万4000キロワットであり,電気出力約28万キロワットの発電設備を有している。
しかし,本件原子炉施設において,平成7年12月8日に,ナトリウム漏えい事故が発生したため,それ以降,本件原子炉は運転を停止している。(以上につき,当事者間に争いのない事実,乙1,乙イ4)
第4 本件原子炉施設の具体的内容
1 本件原子炉施設の建物及び構造物
(1)本件原子炉施設の建物及び構造物は,原子炉建物,原子炉補助建物及び排気筒,タービン建物,ディーゼル建物,メンテナンス・廃棄物処理建物,開閉所,固体廃棄物貯蔵庫,淡水供給設備,排水処理設備,アルゴンガス及び窒素ガス供給設備,事務管理建物などから構成される(乙16,22,23)。
(2)このうち,原子炉建物,原子炉補助建物及び排気筒,タービン建物は,次のような構造になっている(乙16,22,23)。<以下、省略>
2 本件原子炉の設備の構成
本件原子炉の設備は,原子炉本体,冷却系設備,計測制御系統施設,タービン及び付属設備,その他の設備等から構成されるが,その具体的概要は次のとおりである(乙1,16,22,23,乙イ4,弁論の全趣旨)。<以下、省略>
3 本件原子炉の工学的安全施設について
工学的安全施設とは,原子炉の破損,故障等によって放射性物質の環境への放散の可能性がある場合に,これを抑制又は防止するための機能を備えるように設計された施設をいう。
本件原子炉においては,上記2記載の各施設のうち,原子炉格納施設,アニュラス循環排気装置,ガードベッセル,補助冷却設備及び1次アルゴンガス系収納施設が工学的安全施設とされている。
そして,原子炉容器や1次主冷却系設備等の原子炉施設の主要部分は,耐圧構造の鋼製の容器である原子炉格納容器(内径約49.5メートル,全高約79メートル)に収納される。また,原子炉格納容器の周囲を取り囲む格好で,鉄筋コンクリート構造物である外部遮へい建物が設置され,原子炉格納容器の胴部と外部遮へい建物との間の密閉された下部空間(アニュラス部)は,アニュラス循環排気装置によって負圧に保つようにされている。
第5 本件許可処分における審査手続
1 規制法の内容
規制法23条1項4号は,研究開発段階にある原子炉として政令で定める原子炉(本件原子炉施設は,これに該当する。)を設置しようとする者は,主務大臣(内閣総理大臣)の許可を受けなければならないものと規定している。これを受けて同法24条1項は,「主務大臣は,第23条第1項の許可の申請があった場合においては,その申請が,次の各号に適合していると認めるときでなければ,同項の許可をしてはならない。」と定めている。このうち,同法24条1項1号は,原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと,同項2号は,その許可をすることによって原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと,同項3号は,申請者(原子炉を設置しようとする者)に,原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり,かつ,原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること,同項4号は,当該申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。),核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであることを,それぞれ要件として定めている。要するに,規制法は,主務大臣(内閣総理大臣等)が原子炉設置許可申請の際にこれらの要件を充足するか否かの審査を行うべきものと定めている。
さらに,規制法24条2項は,「主務大臣は,第23条第1項の許可をする場合においては,あらかじめ,前項第1号,第2号,第3号(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については原子力委員会,同項第3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び第4号に規定する基準の適用については原子力安全委員会の意見を聴き,これを十分に尊重してしなければならない。」と定めている。
2 原子炉設置許可申請に対する審査手続の概要(ただし,本件許可申請当時のもの)
(1)研究開発段階にある原子炉を設置しようとする者は,規制法23条,同法施行令6条,原子炉規則1条の3に基づき,内閣総理大臣に対し,原子炉の設置許可申請を行う。
(2)内閣総理大臣は,当該許可申請が規制法24条1項各号所定の許可要件に適合しているか否かを審査する。審査は,その所部の機関である科学技術庁が行う。
(3)科学技術庁は,その審査に当たり,必要に応じ,原子力安全技術顧問(原子力の安全に関する各専門分野において,高度な専門技術的知見を持つ学識経験者の中から,科学技術庁長官が委嘱した者)から,その専門技術的見地からの意見を徴する。科学技術庁は,その意見を求めるに当たって必要があるときは,関係の原子力安全技術顧問による会合を開催する。
(4)内閣総理大臣は,当該許可申請につき,規制法24条1項1号,2号及び3号(経理的基礎に係る部分に限る。)の各要件適合性については原子力委員会に,同項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号の各要件適合性については原子力安全委員会にそれぞれ諮問する。当該諮問に際しては,科学技術庁が行った安全審査の内容をまとめた安全審査書案が原子力安全委員会に提出される。
(5)原子力委員会は,当該許可申請が規制法24条1項1号,2号及び3号(経理的基礎に係る部分に限る。)の各要件適合性について審議し,内閣総理大臣に対しその結果を答申する。
(6)原子力安全委員会は,当該許可申請が規制法24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号の各要件適合性について審議し,内閣総理大臣に対しその結果を答申する。
原子力安全委員会は,4号の要件に関しては,必要に応じ,同委員会に設置されている原子炉安全専門審査会(以下「安全審査会」ともいう。)に対し,その調査審議を指示する(原子力委員会及び原子力安全委員会設置法16条)。
安全審査会は,原子炉の安全性に関する専門の事項について,適切かつ効率的に調査審議を行うために,部会を置くことができ(原子炉安全専門審査会運営規程7条),通常は,原子炉設置許可申請ごとに部会が置かれる。
部会は,調査審議の方針等を検討した上,専門分野別にグループ分けを行い,グループ単位あるいは部会全体で調査審議を行う。部会は,その状況及び結果を適宜,安全審査会に報告し,安全審査会における審議に付する。
さらに,原子力安全委員会は,4号の要件適合性を審議するに当たって,公開ヒアリング等を実施して,当該原子炉施設固有の安全性について,地元住民の意見を参酌する(「原子力安全委員会の当面の施策について」昭和53年12月27日原子力安全委員会決定,昭和57年11月25日一部改正)。
(7)内閣総理大臣は,原子力委員会及び原子力安全委員会の各答申を十分に尊重し(規制法24条2項),またあらかじめ通商産業大臣の同意(規制法71条1項1号)を得た上,当該設置許可申請の許否について最終的な判断をし,処分を行う。
(以上につき,当事者間に争いのない事実,弁論の全趣旨)
3 本件許可処分における具体的審査手続
証拠(乙7ないし10,乙11ないし14の各1ないし3,乙16,乙17,乙20,乙22及び23)及び弁論の全趣旨によれば,本件許可処分における具体的審査手続は,次のとおりであったことが認められる。
(1)本件申請者は,昭和55年12月10日,内閣総理大臣に対し,規制法23条に基づき,本件許可申請をした(なお,本件申請者は,昭和56年12月28日と昭和58年3月14日の2回にわたって,申請書及び同添付書類の一部を補正した。)。
(2)内閣総理大臣は,直ちに,科学技術庁に上記申請に係る審査を行わせた。
(3)科学技術庁は,必要に応じ,原子力安全技術顧問から専門技術的見地からの意見を聴取するなどした上,本件許可申請は規制法24条1項各号の許可要件に適合すると判断した。
(4)内閣総理大臣は,昭和57年5月14日,科学技術庁の意見を付して,本件許可申請について,規制法24条1項1号,2号及び3号(経理的基礎に係る部分に限る。)の各要件適合性については原子力委員会に,また,同項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号の各要件適合性については原子力安全委員会にそれぞれ諮問した。原子力安全委員会への諮問に際しては,科学技術庁が作成した昭和57年3月付けの「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖炉もんじゅ発電所の原子炉の設置に係る安全審査書案」(以下「安全審査書案」という。)が原子力安全委員会に提出された(なお,昭和58年3月にその一部が修正されている。)。
(5)原子力委員会は,諮問を受けて審議した結果,昭和58年4月26日,内閣総理大臣に対し,本件許可申請が規制法24条1項1号,2号及び3号(経理的基礎に係る部分に限る。)の各要件に適合していると認める旨答申した。
(6)原子力安全委員会は,諮問を受けて,昭和57年5月14日,安全審査会に対し規制法24条1項4号に係る事項について調査審議を指示した。当時,安全審査会は,原子炉工学,核燃料工学,熱工学,放射線物理学等の原子炉施設に関する専門的分野を始め,地震学,地質学及び気象学等に及ぶ広範な分野から選ばれた審査委員44人により構成されていた。
(7)安全審査会は,上記指示に係る調査審議を適切かつ効率的に行うため,昭和57年5月18日,28人の審査委員からなる第16部会を設置した。
(8)第16部会は,主として原子炉施設に係る事項を担当するAグループ,主として公衆の被曝線量評価等の環境面に係る事項を担当するBグループ,主として地質,地盤,地震,耐震設計等の自然的立地条件に係る事項を担当するCグループに分かれ,各グループにおいて検討をした。また,同部会は,随時,全体の会合を開いて各グループに関係する事項の検討を行い,現地調査も行った。そして,同部会は,適宜その審査状況を安全審査会に報告し,安全審査会の審議に付した。
第16部会においては,全体会合7回,現地調査8回,Aグループ会合21回,Bグループ会合14回,Cグループ会合10回の会合等が開催された。
(9)原子力安全委員会は,昭和57年7月2日,福井県敦賀市において公開ヒアリングを開催した。同公開ヒアリングにおいて提出された意見等のうち,規制法24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)に係る事項については,直接これを参酌し,同項4号に係る事項については,同年9月2日,安全審査会にこれを参酌するよう指示した。
(10)第16部会は,昭和58年4月12日,それまでの調査審議の結果を安全審査会に報告した。安全審査会は,同報告を基に調査審議を更に行い,同年4月20日,本件許可申請が規制法24条1項4号の要件に適合すると判断する旨の調査審議結果を原子力安全委員会に報告した。
(11)原子力安全委員会は,本件許可申請の規制法24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)の要件適合性については自ら審議し,また,同項4号の要件適合性については安全審査会の上記報告を踏まえた上で審議した。その結果,原子力安全委員会は,昭和58年4月25日,内閣総理大臣に対し,本件許可申請が上記各要件に適合していると認める旨答申した。
(12)内閣総理大臣は,原子力委員会及び原子力安全委員会の上記各答申を受け,また,昭和58年4月28日に通商産業大臣の同意を得た上,本件許可申請は規制法24条1項各号の要件に適合していると判断し,同年5月27日,規制法23条1項に基づき,本件許可処分をした。
第6 本件許可処分における具体的審査基準等
1 本件安全審査に用いられた審査基準等
証拠(乙4,乙9及び乙14の3)によれば,本件許可申請に対する安全審査(以下「本件安全審査」という。)に用いられた審査基準等は,次のとおりであると認められる。
(1)本件安全審査に用いられた審査基準
〔1〕「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」(昭和39年5月27日原子力委員会決定,以下「原子炉立地審査指針」という。)
〔2〕「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」(昭和55年11月6日原子力安全委員会決定,以下「評価の考え方」という。)
〔3〕「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針について」(昭和57年1月28日原子力安全委員会決定)
〔4〕「プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について」(昭和56年7月20日原子力安全委員会決定)
〔5〕「許容被曝線量等を定める件」(昭和35年9月30日科学技術庁告示第21号)
(2)参考として用いられた指針
〔6〕「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針について」(昭和52年6月14日原子力委員会決定,以下「安全設計審査指針」という。)
〔7〕「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」(昭和53年9月29日原子力委員会決定,以下「安全評価審査指針」という。)
〔8〕「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針について」(昭和51年9月28日原子力委員会決定)
〔9〕「発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針」(昭和53年9月29日原子力委員会決定)
〔10〕「発電用軽水型原子炉施設の火災防護に関する審査指針について」(昭和55年11月6日原子力安全委員会決定)
〔11〕「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針について」(昭和56年7月20日原子力安全委員会決定,以下「耐震設計審査指針」という。)
〔12〕「発電用軽水型原子炉施設における事故時の放射線計測に関する審査指針について」(昭和56年7月23日原子力安全委員会決定)
〔13〕「「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」について」(昭和56年7月23日原子力安全委員会決定)
〔14〕「「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」について(審査,設計及び運転管理に関する事項)」(昭和55年6月23日原子力安全委員会決定)
〔15〕「「放射性液体廃棄物処理施設の安全審査に当たり考慮すべき事項ないしは基本的な考え方」について」(昭和56年9月28日原子力安全委員会決定)
〔16〕「被曝計算に用いる放射線エネルギー等について」(昭和50年11月19日策定の原子炉安全専門審査会内規)
〔17〕「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被曝線量評価について」(昭和52年6月17日策定の原子炉安全専門審査会内規)
〔18〕「原子力発電所の地質,地盤に関する安全審査の手引き」(昭和53年8月23日策定の原子炉安全専門審査会内規)
2 「評価の考え方」について
(1)上記の審査基準のうち,〔2〕の「評価の考え方」(「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」)は,高速増殖炉の安全審査をするために特に策定された指針である。この指針は,原子力安全委員会が原子炉安全基準専門部会の報告を受けて,昭和55年11月6日に決定したものであり,高速増殖炉である本件原子炉の安全審査においては,中核となる審査基準である。(乙4,弁論の全趣旨)
(2)<略>
(3)<略>
3 「評価の考え方」が「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析に当たって参考とすることとした安全評価審査指針の内容
この安全評価審査指針(「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」)は,原子力委員会が発電用軽水型原子炉施設を対象とする審査基準として昭和53年9月29日に策定した指針であるが,「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」について,次のように定めている。
(1)運転時の異常な過渡変化について<略>
(2)事故について<略>
(3)解析に当たって考慮すべき事項について<略>
第7 ナトリウム漏えい事故の発生
平成7年12月8日,本件原子炉施設において,ナトリウム漏えい事故(以下「本件ナトリウム漏えい事故」という。)が発生した。<以下、省略>
本件ナトリウム漏えい事故の炉心本体に対する影響はなかったが,同事故により使用前検査(規制法24条1項)は中止され,以後,現在に至るまで本件原子炉は運転を停止している。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
第8 本件申請者の変更許可申請
本件申請者は,本件ナトリウム漏えい事故後,その原因調査,各種実験,本件原子力施設の安全性総点検などを実施した。そして,本件申請者(核燃料サイクル開発機構)は,地元自治体の同意を得て,平成13年6月6日,被控訴人(経済産業大臣)に対し,規制法26条1項の規定に基づき本件原子炉の設置変更許可申請(以下「本件変更許可申請」という。)をした。その変更の理由は,「空気雰囲気下でのナトリウム漏えいに伴う火災に対する影響緩和機能の充実,強化を図るため,2次ナトリウム補助設備の一部を変更する。」というものである。
さらに,本件申請者は,原子力安全・保安院から文書をもって,本件原子炉の「安全性総点検の一環として,蒸気発生器伝熱管における高温ラプチャ発生防止に関連する蒸気発生器計装等の設置許可申請書における記載を一層明確化するよう」にとの指示を受け,平成13年12月13日,本件変更許可申請に係る申請書の本文及び添付書類の一部について補正をした。
本件変更許可申請は,原子力安全・保安院の事前審査を受けた後,原子力安全委員会の安全審査(調査・審議)の結果の答申を経て,被控訴人(経済産業大臣)がその許否を決することとなる。(乙イ94,96,97,弁論の全趣旨)
第9 世界における高速増殖炉の現状
高速増殖炉は,発電(運転)しながら消費した燃料以上の燃料を生み出すことから,「夢の原子炉」といわれ,次世代の原子炉として,世界の主要な先進国がこぞってその研究開発に取り組んだ原子炉である。しかし,現在においては,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツなどの主要な先進国は,高速増殖炉の研究開発を中止若しくは断念している。<以下、省略>
これに対して,我が国は,これまでのところ,高速増殖炉の実用化を目指す方針を堅持している。したがって,原型炉を完成させる段階にまで至った国の中では,事実上,我が国だけが実用化の道を進んでいることとなる。(甲イ391ないし395,454,乙1,弁論の全趣旨)
第2節 原子炉設置許可処分の司法審査と処分の無効要件
第1 原子炉設置許可処分の司法審査
1 原子炉設置許可処分の特質
(1)前記(第1章,第1節 第5の1)のとおり,規制法24条1項は,原子炉設置許可申請に対し,その申請が同項1号ないし4号の各号に適合していると認めるときでなければ,主務大臣は許可をしてはならない,と定めている。さらに,同条2項は,主務大臣は許可をする場合においては,あらかじめ,同条1項第1号,第2号,第3号(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については原子力委員会の,同条1項第3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び第4号(当該申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないこと)に規定する基準の適用については原子力安全委員会の意見を聴き,これを十分に尊重してしなければならない,と定めている。
そして,原子力安全委員会は,核燃料物質及び原子炉に関する規制のうち,安全の確保のための規制に関することなどを所掌事務とする委員会であり,同委員会には,学識経験者及び関係行政機関の職員で組織される安全審査会(原子炉安全専門審査会)が置かれ,原子炉の安全性に関する事項の調査審議に当たるものとされている(以上につき,昭和58年法律第78号による改正前の原子力委員会及び原子力安全委員会設置法2条,13条,16条,17条)。
(2)規制法において,原子炉設置許可における安全性の基準として,上記のように定められた趣旨は,原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼働により,内部に人体に極めて有害な放射性物質を多量に発生させるものであって,原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置,運転につき所定の技術的能力を欠くとき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ,このような災害が万が一にも起こらないようにするため,原子炉設置許可の段階で,原子炉を設置しようとする者(申請者)の技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性につき,科学的,専門技術的見地から,十分な審査を行わせることにあるものと解される。
(3)ところで,技術的能力を含めた原子炉施設の安全性に関する審査は,当該原子炉施設そのものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民及び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺地域への影響等を,原子炉設置予定地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討するものであり,しかも,この審査の対象には,将来の予測に係る事項も含まれているのであって,同審査においては,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そして,規制法24条2項が,「主務大臣は,原子炉設置の許可をする場合においては,同条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適用について,あらかじめ原子力安全委員会の意見を聴き,これを十分に尊重してしなければならない。」と定めているのは,このような原子炉施設の安全性に関する審査の特質を考慮し,上記各号所定の基準の適合性については,専門的な学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う主務大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨と解される(以上(2),(3)の説示につき,最高裁判所第1小法廷平成4年10月29日判決・民集46巻7号1174頁参照。以下,この最高裁判決を「伊方最高裁判決」という。なお,伊方最高裁判決において判断の対象となった伊方原子力発電所についての原子炉設置許可処分がなされた当時においては,原子力委員会が現在の原子力安全委員会(昭和53年設置)の所掌事務も所管していたため,当時の規制法(昭和52年法律第80号による改正前のもの)24条2項の規定も,内閣総理大臣が原子炉設置許可処分をする場合においては,同条1項各号に規定するすべての基準の適用について,原子力委員会の意見を聴き,これを尊重してしなければならないと規定しており,そのため,伊方最高裁判決は,規制法24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適用については,「原子力委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨と解するのが相当である。」と判示している。しかし,法律改正によって,原子炉等の安全の確保に関する事務が原子力安全委員会の所掌事務とされ,規制法24条2項も,主務大臣は,原子炉設置の許可をする場合においては,同条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適用について,あらかじめ原子力安全委員会の意見を聴き,これを十分に尊重してしなければならないと定めるようになったのであるから,本件訴訟において伊方最高裁判決を参考とするに当たっては,上記のように修正して理解すべきことになる。)。
(4)上記のような原子炉設置の安全性に関する基準適合性の有無が,原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う主務大臣(内閣総理大臣)の合理的な判断にゆだねられているということは,主務大臣に専門技術的裁量が認められていると解することができる。しかしながら,その基準適合性の判断(裁量)は,規制法の趣旨に従い,あくまで安全確保の見地から,科学的かつ合理的に行うものでなければならない。したがって,この主務大臣に認められた裁量(専門技術的裁量)は,非科学的であってはならず,かつまた,安全性にかかわらない政策的要素を考慮する余地がないという点において,他の分野で認められている「裁量」(政治的,政策的裁量)とは,その性質,内容を異にするというべきである。
2 住民が原子炉設置許可処分の効力を争う場合に主張が許される違法事由
(1)住民が原子炉の設置許可処分に対して抗告訴訟を提起した場合,その訴訟類型としては,取消訴訟と無効等確認訴訟の二者が想定される。
ところで,行政事件訴訟法は,取消訴訟について,「当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り,提起することができる」と規定し(9条),また,「自己の法律上の利益に関係しない違法を理由として取消しを求めることができない」とも定めている(10条1項)。他方,無効等確認訴訟については,「無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で,当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り,提起することができる」と規定するのみで(36条),上記10条1項の規定を準用していない。
しかし,無効等確認訴訟も,取消訴訟と同じく,自己の権利利益の救済を求めることを目的とする主観訴訟であることには変わりがないのであるから,「自己の法律上の利益に関係しない違法」の主張を認めるべき合理的根拠は,見あたらない。したがって,同法10条1項の規定は,無効等確認訴訟に類推適用され,住民原告は,自己の法律上の利益に関係しない違法を理由として,原子炉設置許可処分の無効等確認を求めることはできないと解すべきである。
(2)本件は,原子炉設置許可処分の無効確認訴訟である。そこで,本件において,住民である控訴人(原審原告)らに主張が認められる事由につき検討する。
規制法24条1項各号のうち,1号,2号及び3号(経理的基礎に係る部分に限る。)の基準要件が住民個人の利益に関係しないものであることは,明らかである。したがって,本件において,控訴人らが上記各号の基準適合性の違法を主張することは,許されない。
これに対して,規制法24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号を原子炉設置許可の基準としたのは,原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置,運転につき必要な技術的能力を欠くとき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることからに他ならない。したがって,これらの基準適合性の審査に過誤,欠落があれば,重大な原子炉事故が起こる可能性があり,事故が起こったときには,原子炉施設の付近住民に直接的かつ重大な被害を及ぼす危険性があるというべきであるから,控訴人らは,上記各基準適合性の違法を本件において主張することができるというべきである。また,規制法が,主務大臣は同各号に規定する基準の適用については原子力安全委員会の意見を十分に尊重しなければならない,と規定している(同法24条2項)ことからすると,上記各号の審査に関する手続上の瑕疵も,控訴人らは,違法事由として主張が許されると解すべきである。
もっとも,3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号に関するものではあっても,原子炉施設の従業員の被害にかかわる事由は,住民である控訴人らの個人的権利利益に関係するものではないから,控訴人らがこれを違法事由として主張することは許されない。
3 原子炉設置許可段階における安全審査の対象事項
(1)規制法は,その規制の対象を,製錬事業(第2章),加工事業(第3章),原子炉の設置,運転等(第4章),再処理事業(第5章),核燃料物質等の使用等(第6章),国際規制物質の使用(第6章の2)に分け,それぞれにつき主務大臣の指定,許可,認可等を受けるべきものとしているのであるから,第4章所定の原子炉の設置,運転等に対する規制は,専ら原子炉設置の許可等の第4章所定の事項をその対象とするものであって,他の各章において規制することとされている事項までをその対象とするものでないことは明らかである。
(2)また,規制法第4章の原子炉の設置,運転等に関する規制の内容をみると,原子炉の設置の許可,変更の許可(23条ないし26条の2)のほかに,設計及び工事の方法の認可(27条),使用前検査(28条),保安規定の認可(37条),定期検査(29条),原子炉の解体の届出(38条)等の各規制が定められており,これらの規制が段階的に行われることとされている。したがって,原子炉の設置の許可の段階においては,専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となるのであって,後続の設計及び工事の方法の認可(27条)の段階で規制の対象とされる当該原子炉の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならないものと解すべきである。
以上にみた規制法の規制の構造に照らすと,原子炉設置の許可の段階の安全審査においては,当該原子炉施設の安全性にかかわる事項のすべてをその対象とするものではなく,その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である(以上(1),(2)につき,伊方最高裁判決参照)。
(3)ところで,ここでいう「基本設計」なる概念は,規制法等の法律上に定義規定があるわけではないから,ある特定の事項が「基本設計の安全性にかかわる事項」に該当するのか,それとも,後の設計及び工事の方法の認可の段階での規制対象となるのかは,法律上一義的に明確ではない。しかし,既述のように原子炉設置許可の基準適合性が,専門的な学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う主務大臣の合理的な判断にゆだねられていることに鑑みると,ある特定の事項が「基本設計の安全性にかかわる事項」に該当するかどうかの点も,原子力安全委員会の意見を尊重して行う主務大臣の合理的な判断にゆだねられていると解するのが相当である。しかし,この主務大臣の判断は,安全審査の目的を達成するため,もっぱら科学的かつ専門技術的な見地から合理的に行われなければならない。
他方,上記の主務大臣の具体的な判断は,決して固定的,硬直的なものではなく,流動的かつ柔軟なものというべきである。すなわち,同じ原子炉といっても,その炉型の実績,技術,知見は決して一様ではない。既に世界各国で実用炉(商業炉)として稼働している軽水型原子炉のように,ほぼ技術的には解明され,多くの経験と知見が蓄積されている原子炉もあれば,本件原子炉(高速増殖炉)のように,未だ研究開発段階で稼働実績に乏しく,技術,知見ともに不十分な原子炉も存在する。このように実績,技術,知見などの異なる原子炉の間では,その安全審査の在り方に差が生じるのは当然のことである。実績のある軽水炉であれば,技術と知見の蓄積とともに,原子力安全委員会が直接審査しなければならない「基本設計の安全性にかかわる事項」の項目,範囲が初期のころよりも段階的に縮小し,それまで基本設計の安全事項とされていたものが,後続の具体的な設計段階の審査事項(設計及び工事の方法の認可の規制対象)に委ねられることも,十分あり得ることである。しかし,研究開発段階の原子炉であれば,実績,技術,知見などの不十分さの故に,その安全審査には,安全裕度を高く設定する慎重かつ保守的な対応が求められるのであり,審査すべき「基本設計の安全性にかかわる事項」が軽水炉の場合と比較して,広範囲に渡ることはやむを得ないことである。
第2 原子炉設置許可処分の無効要件(主要な争点1)
1 原子炉設置許可処分の違法事由
本件は,本件許可処分の無効確認訴訟であるが,本件許可処分が無効と判断されるためには,その無効事由が違法と認められるものでなければならない。そこで,まず原子炉設置許可処分が違法と評価されるのは,どのような場合であるかについて判断する。
(1)伊方最高裁判決は,「原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分取消訴訟における裁判所の審理,判断は,原子力委員会(注・本件許可処分当時は,原子力安全委員会がこれに相当する。)若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって,現在の科学技術水準に照らし,右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして,右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。」と判示している。
(2)当裁判所も上記判例に従うものであるが,その判示によれば,原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分取消訴訟において,原子炉設置許可処分が違法となるのは,現在の科学技術水準に照らし,〔1〕原子力安全委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議で用いられた具体的審査基準に不合理な点があること,あるいは,〔2〕当該原子炉施設が具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があること,の2点である。もっとも,主務大臣(行政庁)の判断が原子力安全委員会の調査審議に基づく意見に依拠していなかったときには,主務大臣は原子力安全委員会の意見を十分に尊重して処分をしなければならない旨を定める規制法24条2項に違反する疑いがあるから,この場合は,手続上の違法が生じる余地がある。
また,上記判決が,安全審査・判断の過程に単なる「過誤,欠落」でなく,「看過し難い過誤,欠落」があると認められる場合に限って違法としているのは,主務大臣の判断が多角的,総合的なものであることから,過誤,欠落が軽微なものであって重大なものでない場合には,必ずしも主務大臣の判断が不合理なものとなるものではないという趣旨であると解される。
2 原子炉設置許可処分の無効要件としての違法(瑕疵)の明白性
(1)行政処分の違法事由と無効事由との関係については,これまで様々な議論のあったところであるが,一般には,裁判所が行政処分を無効と宣言できるのは,当該行政処分に重大かつ明白な違法事由(瑕疵)がある場合に限られると解されてきた。このように解されてきたのは,行政事件訴訟における取消訴訟と無効確認訴訟の法律上の位置付けの相違からきたものである。すなわち,
ア 国民が行政処分を法的に直接争う場合の訴訟形態は,取消訴訟が基本である(行政事件訴訟法第2章 第1節)。しかし,取消訴訟は,出訴期間(3箇月)内に提起しなければならず(同法14条1項),処分から1年を経過したときは,正当な理由がない限り,提起することができないともされている(同法14条3項)。このように,行政事件訴訟法が取消訴訟の提起に一定の期間制限を設けたのは,行政処分が公共の利害にかかわるところが大きいうえ,処分後には,処分を信頼した第三者も関係する様々な法律関係が形成される可能性があることから,行政処分の効力をいつまでも争い得る状態に置いていることは,相当でないからである。
イ しかし,行政処分の瑕疵の程度如何によっては,出訴期間の徒過を理由に,処分の効力を争えないとすることが著しく不相当な場合もあり得るところである。そこで,行政事件訴訟法は,取消訴訟とは別に,権利救済の手段として無効等確認訴訟を認めている(同法36条)。この無効等確認訴訟は,「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない」場合に限り,提起が認められるものであるが(同法36条),その提起に特に期間の制限は設けられていない。このように,無効等確認訴訟の提起に期間制限がなく,国民はいつでも行政処分を無効と主張し得るとすることは,行政の法的安定及び処分に対する第三者の信頼保護という観点からすると,はなはだ不都合なことである。かかる矛盾する要請を調整するには,行政処分を無効とする違法事由を一定の限度に制限する必要があるとされ,そこで唱えられたのが,処分に重大かつ明白な違法事由(瑕疵)がある場合に限り,処分を無効とする理論であり,判例もこの理論を原則的には採用しているところである。そして,最高裁第3小法廷昭和36年3月7日判決(民集15巻3号381頁)は,「瑕疵が明白というのは,処分成立の当初から誤認であることが外形上,客観的に明白であることを指すものと解すべきである。」と判示している。
(2)しかしながら,行政処分の種類,性質,内容は,複雑で多種多様なものがあり,それに応じて,違法な処分によって国民が受ける不利益(権利・利益の侵害)の程度,態様も必ずしも一様でない。そのため事案によっては,無効要件として重大かつ明白な瑕疵の存在を不可欠とすることが適当でない場合が出てくることは,避けられないところである。最高裁第1小法廷昭和48年4月26日判決(民集27巻3号629頁)も,冒用された所有権移転登記に基づく課税処分につき,「一般に,課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので,処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要がないこと等を勘案すれば,当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって,徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお,不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが,著しく不当と認められるような例外的事情のある場合には,前記の過誤による瑕疵は,当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である。」と判示し,明白性の要件を問うことなく,課税処分を無効とした。この判決は,判決自身が述べるように例外的事情のある場合の判断ではあるが,行政処分を無効とするのに,違法の明白性の要件を必要としない場合のあることを認めたものとして,注目すべき判例である。
以上を概観すれば,最高裁の判例は,違法な行政処分を無効とするには,原則としてその違法が重大かつ明白なことを要するが,特段の事情のあるときは,必ずしも違法の明白性の要件は必要としないとしているものと解され,当裁判所は,この解釈を正当なものと考える。
(3)そこで,原子炉の安全性の適否が争われる原子炉設置許可処分の無効確認訴訟においては,その処分無効の要件として,違法(瑕疵)の明白性を要するか否かを検討する。
ア 原子炉設置許可処分は,申請者に原子炉の設置を許可するものであるから,申請者にとっては,その処分の可否は重大な利害に係わるものである。そして,原子炉設置許可に続いて,設計及び工事の方法の認可を受ければ,申請者は,原子炉の建設に着手することができ,その場合には,建設に巨額な資金を投ずることとなるばかりでなく,第三者である工事関係者なども,処分を前提にして様々な法律関係を形成することになるのであるから,原子炉設置許可処分の法的安定の必要性と第三者の信頼保護の要請は,他の行政処分と比較しても,相当高いものがあるということができる。また,処分庁にとっても,原子炉の設置は我が国の中長期的なエネルギー需要の充足に少なからざる影響を及ぼすものであるから,原子力行政の遂行及び運営上,許可処分がいつまでも不安定であることは,決して好ましいことではない。
以上のことからすると,原子炉設置許可処分の無効要件を緩和することは,相当ではないようにも思われる。
イ しかしながら,原子炉は,ウランなどの核燃料物質を燃料とし,その核分裂反応によって発生する熱エネルギーを電気エネルギーに転換する装置であり,その稼働により,原子炉容器内には人体に極めて有害な放射性物質を大量に発生させるものであって,正常に維持,管理されても,常に潜在的危険性を有する構造物である。そして,原子炉にひとたび本格的な重大事故が起これば,旧ソ連邦のチェルノブイリ事故の例を見るまでもなく,それが付近住民と環境に与える影響及び被害は,その内容,態様,程度,範囲において,深刻かつ甚大であって,その悲惨さが言語に絶するものとなることは,容易に推測できることである。原子炉がかかる潜在的危険性を有するものであることからすると,その設置許可の段階における安全審査において,その調査審議及び判断の過程に重大な過誤,欠落があるとすれば,当該原子炉は,付近住民にとって重大な脅威とならざるを得ない。この場合において脅威にさらされるのは,人間の生命,身体,健康,そして環境であり,換言すれば,人間の生存そのものということができる。かかる何事にも代え難い権利,利益の侵害の危険性を前にすれば,原子炉設置許可処分の法的安定性並びに同処分に対する当事者及び第三者の信頼保護の要請などは,同処分の判断の基礎となる安全審査に重大な瑕疵ある限り,比較の対象にもならない,取るに足りないものというべきである。
ウ 以上のことからすれば,原子炉設置許可処分については,原子炉の潜在的危険性の重大さの故に特段の事情があるものとして,その無効要件は,違法(瑕疵)の重大性をもって足り,明白性の要件は不要と解するのが相当である。
そして,この解釈は,次のような事例の場合のことを考えても,相当であるということができる。すなわち,伊方最高裁判決は,既述のとおり,原子炉設置許可処分取消訴訟における原子炉施設の安全性に関する行政庁の判断の適否に対する裁判所の審理,判断は,現在の科学技術水準に照らして行うべき旨を判示している。これによると,処分当時の知見による安全審査に問題はなくとも,その後の科学技術の進展によって新しい知見が得られ,この新知見によって判断すれば,処分の前提となる安全審査に看過し難い過誤,欠落のあることが判明した場合には,当該処分は違法と判断されることとなる。そうすると,住民が,原子炉設置許可処分当時は安全性に問題はないとして,取消訴訟を提起しなかったものの,出訴期間経過後に新しい知見が確立され,その知見によれば,安全審査に過誤,欠落があったとして,処分の効力を争う訴えを提起しようとすれば,無効確認訴訟を提起する外ないが,かかる場合に,違法事由に「重大かつ明白」の要件を要求することは,極めて不当なことといわなければならない。けだし,前記のように,最高裁第3小法廷昭和36年3月7日判決は,「瑕疵が明白というのは,処分成立の当初から誤認であることが外形上,客観的に明白であることを指すものと解すべきである。」と判示しているのであるから,処分後の新知見に基づく処分の無効確認につき,違法(瑕疵)の明白性を求めることは,事実上,提訴の断念を強いるに等しいことであるからである。かかる点に鑑みれば,無効確認訴訟である以上,違法の重大性を要件とすることはやむを得ないとしても,違法の明白性は不要と解さなければ,国民の権利救済の途を閉ざすことになるのは,明らかである。
3 原子炉設置許可処分の無効要件としての違法(瑕疵)の重大性
(1)前述のとおり,原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる場合において,それが違法とされるのは,現在の科学技術水準に照らし,〔1〕原子力安全委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議で用いられた具体的審査基準に不合理な点があること,あるいは,〔2〕当該原子炉施設が具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があること,の二つの場合である。
(2)ところで,安全審査において,原子炉施設の基本設計若しくは基本的設計方針として確認されるべき事項は,証拠(原審証人Aの証言)及び弁論の全趣旨によれば,
〔1〕原子炉の平常運転によって放射性物質の有する潜在的危険性が顕在化しないように,平常運転時における被爆低減対策が適切に講じられていること,
〔2〕原子炉施設に事故が発生することにより放射性物質の有する潜在的危険性が顕在化しないように,自然的立地条件との関係を含めた事故防止対策が適切に講じられていること,
の2点であり,これに尽きることが認められる。
要するに,原子炉設置許可処分の段階における安全審査の究極の目的は,平常運転時はもとより,事故時においても,原子炉内の放射性物質の有する潜在的危険性を顕在化させないことの確認にあるということができる。したがって,上記違法と目される審査基準の不合理,又は安全審査の過程における看過し難い過誤,欠落によって,この確認(原子炉内の放射性物質の潜在的危険性を顕在化させないことの確認)に不備,誤認などの瑕疵が生じたとすれば,その瑕疵は,安全審査の根幹にかかるものであるから,原子炉設置許可処分を無効とならしめる重大な違法事由と認めることができる。
(3)そこで,具体的にどのような事項(それが「基本設計の安全性にかかわる事項」でなければならないのは当然である。)に対する安全審査の瑕疵が,原子炉設置許可処分を無効ならしめる重大な違法事由を構成するかについて検討する。
ア 原子炉施設内には,放射性物質として,〔1〕核燃料物質,〔2〕燃料の核分裂反応によって生じる原子核分裂生成物,及び〔3〕炉心燃料集合体等の構造材や冷却材が中性子により放射化されることなどによって生じる放射化生成物が存在する(原審証人Aの証言)。ここでは核燃料の保管場所を除外すると,上記放射性物質は,いずれも原子炉容器及びこれを格納する原子炉格納容器の内部に存在する(乙1,2,乙イ4,弁論の全趣旨)。放射性物質の潜在的危険性が顕在化するというのは,この原子炉格納容器内に閉じ込められていた放射性物質が周辺の環境に放出されることをいうものと解されるが,そのような事態が生じるのは,原子炉本体又はその容器の工学的設計に不備があるか,若しくは,何らかの要因(外乱)によって原子炉に異常な事象や事故が発生した場合が想定される。
イ したがって,かかる事態の発生の防止,抑制,安全保護対策に関する事項の安全審査に瑕疵があり,その結果として,放射性物質が環境に放散されるような事態の発生の具体的危険性を否定できないときは,安全審査の根幹を揺るがすものであるから,原子炉設置許可処分を無効ならしめる重大な違法(瑕疵)があるというべきである。
なお,上記事態の対策に関する安全審査の事項には,原子炉格納容器内の安全性に関する事項に限らず,原子炉の損傷又は溶融の原因を与える可能性のある事項,例えば,2次主冷却系設備の事故に関する事項も含まれる。
また,上記事態の発生の具体的危険性については,裁判所は,その存在を積極的に認定する必要はなく,その具体的危険性を否定できるかどうかを判断すれば足りると解すべきである。けだし,原子炉設置許可処分の抗告訴訟において,原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる場合における裁判所の審理,判断は,被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきものであり(伊方最高裁判決),裁判所は,行政庁に代わって,原子炉施設の安全性の有無を直接判断する立場にないからである。
第3 主張立証責任
1 伊方最高裁判決は,原子炉設置許可処分の取消訴訟における違法事由(被告行政庁の判断の不合理性)の主張,立証責任について,「原子炉設置許可処分についての右取消訴訟においては,右処分が前記のような性質を有することにかんがみると,被告行政庁がした右判断に不合理な点があることの主張,立証責任は,本来,原告が負うべきものと解されるが,当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると,被告行政庁の側において,まず,その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等,被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠,資料に基づき主張,立証する必要があり,被告行政庁が右主張,立証を尽くさない場合には,被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。」と判示している。
これを要するに,
〔1〕行政庁のする原子炉設置許可処分は専門技術的判断(裁量)に基づくものであるから,取消訴訟における当該判断の不合理性(違法事由)の主張立証責任は,原告が負担すべきである,
〔2〕しかし,安全審査に関する資料を被告行政庁が保持していることから,被告行政庁の側で当該判断に不合理な点がないことを相当の根拠,資料に基づき主張立証する必要がある,
〔3〕被告行政庁がその主張立証を尽くさないときには,当該判断に不合理な点があることが事実上推認される,
というものである。
2 以上の考え方は,原子炉設置許可処分の無効確認訴訟の無効事由の主張立証責任についても,妥当すると解すべきである。けだし,別異の考え方を採る合理的理由がないからである。
被控訴人は,取消訴訟が抗告訴訟の原則的訴訟形式であるのに対し,無効確認訴訟が例外的,補充的な訴訟形式であることを強調して,伊方最高裁判決の判示する上記〔2〕,〔3〕の点は,無効確認訴訟に適用する余地はないと主張する。
しかしながら,無効確認訴訟であっても,当該原子炉施設の安全審査に関する資料はすべて被告行政庁に保持されているのに対し,周辺住民である原告らはこれらの資料を保持していない証拠の偏在という事情は,取消訴訟の場合と何ら異なるものではない。そして,最終的な主張立証責任が原告側にある以上,証拠の偏在を理由に,当事者間の衡平を図る見地から,上記〔2〕の主張立証の負担を被告行政庁に負わせ,それが尽くされないときは,上記〔3〕の事実上の推認をするという考え方は,被控訴人が指摘する無効確認訴訟の特性(例外的,補充的訴訟)であることを考慮しても,決して不合理ということはできない。
被控訴人は,出訴期間の制限のない無効確認訴訟においては,その出訴の時期如何によっては,時の経過によって行政庁の保管している原子炉設置許可処分に関する資料が散逸し,被告行政庁が相当な資料に基づき主張立証することが困難になる事態も考えられると主張する。しかし,裁判所は,当事者に不可能なことを求めるものではないから,仮に資料の散逸が生じ,それがやむを得ない事情に基づくものと認められるときは,その限度で被告行政庁の主張立証の負担は軽減されると解すべきである。したがって,資料散逸の事態が生じたからといって,被控訴人行政庁に過酷な負担を課すことにはならないというべきである。
3 以上のとおりであるから,伊方最高裁判決の主張立証責任に関する考え方は,原子炉設置許可処分の無効確認訴訟にも基本的に妥当するものである。したがって,原子炉設置許可処分の無効確認訴訟の主張立証責任は,次のように考えるべきである。すなわち,
〔1〕行政庁のした原子炉設置許可処分の判断に処分を無効とするに足る重大な瑕疵(違法事由)のあることの主張立証責任は,原告が負担する。
〔2〕被告行政庁は,当該判断に処分を無効とするに足る重大な瑕疵(違法事由)のないことを相当の根拠,資料に基づき主張立証する必要がある。
〔3〕被告行政庁がその主張立証を尽くさないときには,当該判断に処分を無効とするに足る重大な瑕疵(違法事由)のあることが事実上推認される。
なお,上記における「処分を無効とするに足る重大な瑕疵(違法事由)」というのは,前述したように,主務大臣(行政庁)が原子炉設置を許可すべきと判断するのに依拠したと認められる原子力安全委員会(原子炉安全専門審査会を含む。)の安全審査(調査審議及び判断)において,その安全審査に用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該原子炉施設が具体的審査基準に適合するとした判断の過程に看過し難い過誤,欠落があることにより,原子炉格納容器内に閉じ込められている放射性物質が周辺の環境に放出される事態の発生の防止,抑制,安全保護対策に関する事項の安全確認に不備,誤認が生じたときにおける,その安全審査の瑕疵であって,その結果として,そのような事態の発生の具体的危険性を否定できない場合をいう。
第2章 各論
第1節 本件申請者の技術的能力(主要な争点2の(1))
第1 技術的能力に対する安全審査
1 技術的能力の審査基準
規制法24条1項3号の定める「原子炉を設置するために必要な技術的能力」及び「原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力」に関連する法令上の規定は,試験研究の用に供する原子炉等の設置,運転等に関する規則1条の3第2項が,規制法施行令6条2項に基づき,「原子炉施設の設置及び運転に関する技術的能力に関する説明書」(5号)を許可申請書に添付すべきことを定める以外に特になく,また,その審査の指針となる審査基準も,特に定められていない。
2 技術的能力に関する本件安全審査
証拠(乙14の3,16,22)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)原子力安全委員会は,本件安全審査において次のことを確認した。
ア 本件申請者(動燃)は,本件原子炉施設の建設に当たり,法令に基づく諸手続,設計,工事計画,品質保証及びこれらに付随する対外連絡等の業務を含めて本社技術者約150人を直接従事あるいは関与させ,また,本件原子炉施設運転開始時には約180人の技術者を確保することとしている。同技術者は,それぞれ土木建築系,保健物理(放射線物理)系,炉物理系等の知識を有しており,管理者の約半数は,高速増殖炉の研究,開発,計画等に10年以上の経験を有している。
イ 本件申請者は,本件原子炉施設の建設,運転を行うに当たって,建設に必要な組織(技術者等で組織されるもんじゅ建設事務所)を設置すると共に,運転を適確に遂行する組織体制を設けることとしている。また,技術者の養成については,高速実験炉「常陽」と新型転換炉「ふげん」発電所の運転・保守の実務経験を通じて技術者の養成を行い,原子力関係機関への研修派遣や本件原子炉施設用のシミュレータでの訓練を通じて技術者の養成を行うこととしている。さらに,原子炉主任技術者及び第一種放射線取扱主任者その他法令上必要な有資格者を確保している。
(2)原子力安全委員会は,本件申請者は,本件原子炉施設の建設,運転に当たって,十分な要員を確保していると共に,業務を適確に遂行するに十分な人的,組織的体制を準備しており,本件許可申請は規制法24条1項3号の技術的能力に係る基準要件に適合していると判断した。
第2 当裁判所の判断
1 控訴人らの主張
(1)原子炉等規制法24条1項3号の技術的能力に係る基準要件の審査は,伊方最高裁判決の判示からも明らかなように,多角的,総合的見地からこれを検討し,多方面にわたる高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づいて総合的に判断すべきものである。しかるに,原子力安全委員会は,本件申請者(動燃)の組織の要員や技術者の資格等という形式的な人的要素に限定して,その技術的能力を判断しており,その安全審査は,不十分かつ不合理である。
(2)技術的能力の基準要件適合性は,現在の知見によって判断すべきところ,本件申請者は,本件許可処分後,次のような事故を起こし,また,情報を隠匿する体質を露呈しており,本件申請者が原子炉の設置,運転の技術的能力を欠くことは明らかである。したがって,技術的能力の存在を肯定した本件安全審査には,看過し難い過誤がある。<以下、省略>
2 控訴人らの主張に対する判断
(1)控訴人らは,技術的能力の審査は多角的,総合的見地から行うべきなのに,原子力安全委員会が審査の対象を動燃の組織の要員や技術者の資格等という形式的な人的要素に限定しているのは,不合理であると主張する。
ア しかし,規制法において原子炉設置許可の安全性の基準として24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号を定めた趣旨は,原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼働により,内部に人体に極めて有害な放射性物質を多量に発生させるものであって,原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置,運転につき所定の技術的能力を欠くとき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ,このような災害が万が一にも起こらないようにするため,原子炉設置許可の段階で,原子炉を設置しようとする者の技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性につき,科学的,専門技術的見地から,十分な審査を行わせることにあるものと解される(伊方最高裁判決参照)。
イ 以上の趣旨に照らせば,申請に係る原子炉施設の具体的な位置,構造及び設備の安全性に関する基準は,規制法24条1項4号の定めるところであるから,同項3号の技術的能力に係る基準は,申請者が当該原子炉を安全に設置,運転するに足りる技術的能力を客観的に具備していることを要件にしているものと解される。そして,かかる客観的な技術的能力の有無は,当該申請者のこれまでの実績,組織・要員の実態,技術者の人数とその専門分野などの面から判断されるべきものである。
そうすると,原子力委員会が,同項3号の技術的能力に係る基準適合性を,専ら本件申請者(動燃)の実績及びその人的,組織的要因の観点から判断したことは相当であり,不合理ではないというべきである。
ウ 控訴人らは,伊方最高裁判決は技術的能力の審査は多角的,総合的見地から行うべきものとしていると主張する。
しかし,同判決は,「技術的能力を含めた原子炉施設の安全性に関する審査は,当該原子炉施設そのものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民及び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺地域への影響等を,原子炉設置予定地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討するものであり」と述べているのであって,確かに,技術的能力を含めた原子炉施設の安全性に関する審査は,多角的,総合的見地から検討するものであるとしているが,その技術的能力は,原子炉施設の工学的安全性等を多角的,総合的見地から検討するに際し,その関連において検討すべき事由の1つとしているのであり,技術的能力そのものを多角的,総合的見地から検討すべきものとしている訳ではない。
したがって,控訴人らの主張は採用できない。
(2)次に,控訴人らは,本件申請者が技術的能力の欠くことを裏付けるものとして,前記1の(2)の〔1〕ないし〔6〕の事由を挙げる。
しかし,<中略>この事由の故に本件申請者の技術的能力が否定されるものではない。
(3)以上のとおりであるから,本件許可申請につき,その技術的能力の基準要件を充足するとした本件安全審査の不合理をいう控訴人らの主張は,理由がない。
第2節 立地条件及び耐震設計(主要な争点2の(2))
第1 立地条件及び耐震設計に関する審査基準
1 「評価の考え方」の示す審査基準<省略>
2 原子炉立地審査指針における審査基準<省略>
3 耐震設計審査指針における審査基準<省略>
第2 本件原子炉施設の立地条件及び耐震設計に関する安全審査の内容
証拠(乙4,9,16)及び弁論の全趣旨によれば,科学技術庁(内閣総理大臣の所部機関)が,本件許可申請につき,本件原子炉施設の立地条件及び耐震設計に対してした安全審査の内容の要旨は,次のとおりであると認められる。また,証拠(乙14の3)及び弁論の全趣旨によれば,原子力安全委員会のした安全審査の内容,結論もこれと同旨であったことが認められる。
1 敷地について
(1)<略>
(2)そして,本件敷地の広さは,法令で規制される周辺監視区域の設定において十分な条件を有しており,また,周辺公衆との離隔の確保についても,「立地審査指針」に示される条件を満足しているので,妥当であると判断した。
2 地震について
(1)耐震設計上想定すべき地震<略>
(2)基準地震動について<略>
3 地盤について
(1)敷地の地盤について
<中略>ウ 審査においては,以上のことから,本件敷地の地盤は地震時等にも崩壊などによって施設に影響を与えるおそれはなく,安定した地盤であると判断した。
(2)原子炉設置地盤について<略>
4 耐震設計について<省略>
第3 当裁判所の判断
1 強震動予測の手法を採用しない耐震設計審査指針の合理性の有無
(1)控訴人らの主張
ア 現在の知見によれば,地震現象の本質は,震源断層面のズレ破壊であり,活断層(地表地震断層)は,震源断層面の最上部が地表に達して出現したものにすぎず,地震が必ず活断層を生み出すとは限らない。したがって,そのような活断層を地震動予測の基準とすることには無理がある。現在の強震動予測は,震源断層面とそこでのアスペリティ(震源断層面において強く固着している領域のこと)を想定した上で,その断層面上の破壊ごとに発生した震動が,それぞれの破壊の発生地点から当該立地点まで,どのように減衰するかを,その場所ごとの特性に応じてコンピュータシミュレーションにより計算する。これにより,当該立地点での地震動の波形までが具体的詳細に予測することができる。これに対して,耐震設計審査指針が定める地震動の予測方法は,経験式に基づく不正確なものであり,現在の知見に照らせば,全く合理性を欠くものであるから,耐震設計審査指針は極めて不合理である。
イ 政府の調査機関である地震調査研究推進本部は,平成13年5月,「糸魚川−静岡構造線断層帯(北部,中部)を起震断層と想定した強震動評価手法について(中間報告)」と題する報告書(以下「糸魚川−静岡報告書」という。)を公表したが,同報告書においては,地震動を予測するのに,強震動予測の方法を採用しているのであり,このことは,強震動予測の手法が既に確立されていることを裏付けるものである。
(2)控訴人らの主張に対する判断
ア 証拠(甲ハ88)及び弁論の全趣旨によれば,地震とは,地下の岩盤が面状にズレ破壊(震源断層面の急激なズレ)を起こし,地震波を放出する現象をいうが,地震学の研究が進み,その成果として,地震の構造が次第に明らかとなり,最近では,地震の規模は震源断層面の大きさに関係し,激しい地震動が生じるのは,震源断層面のアスペリティが次々とズレ破壊を起こし,そのときに特に激しい地震波が放出されるからであると考えられるようになっていること,こうしたことから,強い地震動の予測(強震動予測)は,これまでの活断層の長さを基準とするのではなく,震源断層面の大きさやアスペリティの個数と面積などを拠りどころにして行うべきとの意見が有力に提唱されていることが認められる。
イ 控訴人らが主張する糸魚川−静岡報告書については,証拠(乙ハ21の1,甲ハ87,88)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。<以下、省略>
ウ 以上の事実によれば,確かに,最近では強い地震動の予測評価については,強震動予測手法によるべきとの意見は有力であり,政府機関である地震調査研究推進本部においても,この手法を用いた検討,評価がなされていることを認めることができる。しかし,上記報告書に照らしても,強震動予測手法は,まだ不確定な部分が多く,ようやく試算をする程度のごく初期的な研究段階にあるに過ぎないと認められ,C作成にかかる陳述書(甲ハ88)も,この認定判断を左右するに足りない。したがって,強震動予測手法は,現在の科学水準に照らし,地震動予測評価の方法として確立された知見とまではいうことができない。以上のとおりであるから,耐震設計審査指針が強震動予測の手法を採用していないからといって,直ちに不合理であるとはいえず,控訴人らの上記主張は理由がない。
2 経験式(松田式,金井式及び大崎の方法)の合理性の有無
(1)控訴人らの主張
本件原子炉施設の安全審査に使用された耐震設計審査指針は,地震動の算定方式として,経験式である松田式,金井式及び大崎の方法を採用しているが,これらの方式は,次のとおり不合理なものであるから,耐震設計審査指針も不合理というべきである。
ア 松田式の不合理性<略>
イ 金井式の不合理性<略>
ウ 大崎の方法(大崎スペクトル)の不合理性<略>
(2)控訴人らの主張に対する判断
ア 控訴人らの主張の前提について
まず,控訴人らは,耐震設計審査指針が松田式,金井式及び大崎の方法を採用していると主張し,その不合理を主張するが,耐震設計審査指針は,上記各式,方法について直接触れている訳ではない。もっとも,その解説の中で,「地震動の最大振幅,周波数特性,継続時間,振幅包絡線の経時的変化等と,地震のマグニチュード,震源距離あるいは基盤の岩質等,それぞれの間には,過去の観測結果に基づいて相関関係を求めた研究成果がかなりあり,必要に応じて参考とすべきである。」,「解放基盤表面の地震動の水平方向における最大速度振幅は,地震動の実測結果に基づいた経験式あるいは適切な断層モデルに基づいた理論値を参照して定めることができる。」との記載があることが認められるが(乙4の385頁と386頁),ここにおいても,松田式,金井式及び大崎の方法という具体的な式,方法を指定している訳ではない。しかしながら,前記(本節,第2の2)のとおり,本件申請者は,耐震設計をするための地震のマグニチュード,最大速度振幅,基準地震動の応答スペクトルなどの解析に上記の松田式,金井式及び大崎の方法を使用し,これを審査した科学技術庁及び原子力安全委員会もこれらの式,方法を用いることを是認しているのであるから,控訴人らの主張は,これらの式,方法による解析を是認した本件安全審査の不合理をいうものと解される。
イ 松田式について
(ア)・(イ)<略>
(ウ)以上のことからすると,Cが陳述書(甲ハ88)で述べる松田式の曖昧さや不確実さを考慮しても,これに代わるべきより信頼性の高い合理的な計算式若しくは手法が確立していない以上,松田式はなお合理性を失っていないというべきである。したがって,松田式が不合理であることを前提とする控訴人らの主張は,採用できない。
もっとも,証拠(乙ハ23)及び弁論の全趣旨によれば,Dは,最近の論文(平成10年の「活断層からの長期地震予測の現状 糸魚川−静岡構造線活断層系を例にして」と題する論文)において,新しい計算式(以下「新松田式」という。)を使用して,地震動の計算をしていることが認められる。しかし,証拠(乙ハ23ないし25)によれば,新松田式は,地震により陸域の地表に現れた断層の長さのみから地震のマグニチュードを推定しようとするもので,例えば,海域に存在すると合理的に推認される断層などを無視していることから,原子力安全委員会は,原子炉設置の耐震設計に関する安全審査に用いる経験式としては,従来の松田式の方が妥当であると判断したことが認められる。これによれば,新松田式を採用しないとする原子力安全委員会の判断が不合理であるとは認められない。
ウ 金井式について
(ア)・(イ)<略>
(ウ)このほか,金井式についての当裁判所の判断は,原判決の説示(原判決第1分冊286頁8行目から295頁11行目まで)と同じであるから,これを引用する。
したがって,金井式が不合理であることを前提に,本件安全審査の不合理をいう控訴人らの主張は,理由がない。
エ 大崎スペクトルについて
(ア)<略>
(イ)大崎スペクトルに関する当裁判所の判断は,原判決の説示(原判決第1分冊295頁12行目から303頁1行目まで)と同じであるから,これを引用する。
したがって,大崎スペクトルが不合理であることを前提に,本件安全審査の不合理をいう控訴人らの主張は,採用することができない。
3 本件原子炉施設敷地直下における断層の存在の可能性
(1)控訴人らの主張
本件原子炉施設の敷地の直下には,たて方向の条線及び鏡肌や幅1メートルに及ぶ破砕帯があるが,条線や鏡肌は,両側の地盤がずれてできたものであり,敷地直下の2つの地盤が異なる運動をしたことを示している。このような地盤は,耐震設計上で前提とされる健全な地盤とはいえないことは明らかである。また,この幅1メートルに及ぶ破砕帯がどこまで拡がっているかも確認されておらず,それが断層である疑いもある。この条線及び鏡肌の部分や破砕帯が地盤の運動によって生じたものであれば,敷地直下に断層が走っていることになり,地盤の健全性は明らかに損なわれるから,本件安全審査には,看過し難い審理及び判断の欠落がある。
(2)控訴人らの主張に対する判断
ア・イ<略>
ウ そうすると,本件許可申請書のボーリング柱状図に,条線及び鏡肌や破砕帯の記述があるからといって,本件敷地の直下に断層があるとは直ちに認めることはできず,甲ニ第3号証の3も上記認定を左右するものではない。よって,控訴人らの上記主張は理由がない。
4 白木−丹生リニアメントの活断層の可能性
(1)控訴人らの主張
ア<略>
イ<略>
ウ<略>
エ こうして,被控訴人が白木−丹生リニアメントは断層ではないと言う理由は,ことごとく不合理なものとして否定されてしまうことになり,白木−丹生リニアメントは,断層である可能性が否定できない。
したがって,本件安全審査においては,本件敷地(本件原子炉施設の敷地)の近くを走行する白木−丹生リニアメントを断層として考慮し,そこで生じる地震を想定しなければならないにもかかわらず,それがされなかったのであるから,本件安全審査には,看過し難い過誤,欠落がある。
(2)控訴人らの主張に対する判断
ア 白木−丹生リニアメントに関する前提事実<略>
イ 白木−丹生リニアメントに関する本件申請者の調査及び本件安全審査の内容<略>
ウ 上記の点に関する安全審査の合理性
<中略>上記の本件申請者の調査内容並びに科学技術庁及び原子力安全委員会の安全審査の内容に不合理と思われるところはなく,また,第16部会の審査委員であったFの説明にも不合理な点はないと認められる。そして,このことに加えて,前述のように,「新編・日本の活断層」において,白木−丹生リニアメントが確実度〈3〉に分類されていることも併せ考えると,白木−丹生リニアメントは断層の活動によって形成された地形ではないと認めるのが相当である。
エ 本件露頭の位置が不明確との控訴人らの主張について<略>
オ 白木−丹生リニアメントが活断層でないと断定できないとの控訴人らの主張について
<中略>控訴人らは,白木−丹生リニアメント沿いに断層変位地形といえるまでのものが認められないとしても,これだけで直ちに同リニアメントが活断層でないと断定することはできないと主張する。
しかしながら,前記ア,イで認定した事実によれば,本件安全審査において,白木−丹生リニアメントを活断層ではないと判断したことには,合理的根拠があるということができ,その調査審議及び判断の過程に過誤,欠落があるとは認められない。したがって,控訴人らの主張は理由がない。
5 巨大震源断層面の存在と複数活断層の同時活動の可能性
(1)控訴人らの主張
ア 巨大震源断層面の存在を想定しない本件安全審査の不合理性<略>
イ 複数の活断層の同時活動を想定しない本件安全審査の不合理性<略>
(2)控訴人らの主張に対する判断
ア 巨大震源断層面の存在の可能性<略>
イ 複数の活断層の同時活動の可能性<略>
6 直下地震に関する耐震設計審査指針の不合理性
(1)控訴人らの主張<略>
(2)控訴人らの主張に対する判断<略>
7 鉛直地震力に関する耐震設計審査指針の不合理性
(1)控訴人らの主張<略>
(2)控訴人らの主張に対する判断
ア 鉛直地震力の水平地震力に対する比の妥当性
<中略> よって,この点に関する控訴人らの主張は理由がない。
イ 鉛直地震力について動的解析を求めないことの妥当性
<中略> よって,控訴人らの主張は理由がない。
8 超高層建築物の規制要件を満たさない耐震設計の不合理性
(1)控訴人らの主張
ア 本件原子炉施設の原子炉建物は,高さが60メートルを超える建築物であるが,建築基準法施行令36条3項は,高さが60メートルを超える建築物を「超高層建築物」としている。
(ア)ところで,超高層建築物については,建築基準法20条,同法施行令36条4項の規定により,「超高層建築物の構造方法は,(中略)第81条の2の規定により国土交通大臣が定める基準に従った構造計算によって安全性が確かめられたものとして国土交通大臣の認定を受けたものとしなければならない。」とされ,同法施行令81条の2は,「超高層建築物の構造計算は,建築物の構造方法,振動の性状等に応じて,荷重および外力によって建築物の各部分に生ずる力及び変形を連続的に把握することにより,建築物が構造耐力上安全であることを確かめることができるものとして国土交通大臣が定める基準に従った構造計算によらなければならない。」と定めている。そして,国土交通大臣が定める基準として制定されているのが「超高層建築物の構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1461号,以下「告示1461号」という。)であるが,同告示は,その構造計算の基準として,建築物に水平方向に作用する地震動につき,解放工学的基盤における加速度応答スペクトルを,建築物の周期に応じて,「稀に発生する地震動」及び「極めて稀に発生する地震動」のそれぞれについて数値で定めている(第4号イ)。
(イ)また,同法施行令36条4項にいう「国土交通大臣の認定」は,同法68条の26第1項に定める「構造方法等の認定」に当たるところ,これに関する認定の申請に対する審査に必要な評価は,国土交通大臣が同法77条の56の定めるところにより指定する者に行わせることができるとされている(同法68条の26第3項)。そして,国土交通大臣の指定を受けた評価機関としては,「財団法人日本建築センター」(東京),「財団法人日本建築総合試験所」(大阪)ほか1機関があるが,これらの機関は,その評価業務を行なうための基準として,それぞれ「時刻歴応答解析建築物構造安全性能評価業務方法書」(以下「業務方法書」という。)を定め,国土交通大臣の認可を得ている。
(ウ)いずれの評価機関も,その業務方法書において,水平方向に作用する地震動の設定に関して,〔1〕告示1461号に定められた解放工学的基盤における加速度応答スペクトルをもち,建設地表層地盤による増幅を適切に考慮して作成した地震波(以下「告示波」という。)を設計用入力地震動とし,この場合,地震波を3波以上用いること,〔2〕第4号イただし書により,建設地周辺における活断層分布,断層破壊モデル,過去の地震活動,地盤構造等に基づいて,建設地における模擬地震波(以下「サイト波」という。)を適切に作成した場合は,告知波のうち「極めて稀に発生する地震動」に代えて設計用入力地震動として用いることができるが,この場合,告示波と併せて3波以上用いること,〔3〕上記〔1〕及び〔2〕で作成された地震波が適切なものであることを確かめるため,過去における代表的な観測地震波のうち,建設地及び建設物の特性を考慮して適切に選択した3波以上について,その最大速度振幅を25cm/s(カイン),50cm/s(カイン)として作成した地震波を,それぞれ「稀に発生する地震動」及び「極めて稀に発生する地震動」とし,これらの地震波も設計用入力地震動として併用すること,を定めている。
(エ)また,業務方法書は,「上下方向の地震動の影響を水平方向地震動との同時性の関係を考慮して,また建築物の規模および形態を考慮して適切に評価していること。」と定めているが,実際の運用では,建築物の規模,形態に応じて,指定評価機関の安全審査委員会(学識経験者で構成)は,上下方向の動的設計を組み合わせることなどを要求している。
(オ)さらに,業務方法書は,評価判定の基準として,「稀に発生する地震動」の「損傷限界」として,「許容応力度以内であるか,または地震後有害なひび割れまたはひずみが残留しないこと」などを定めている。そして,「極めて稀に発生する地震動」の「倒壊,崩壊限界」としては,各階の応答層間変形角が100分の1を超えないこと,応答塑性率が一定の値以下であることなどを定めている。
イ しかるところ,本件原子炉施設で採用された地震波は,強いて言えば上記(ウ)の〔2〕のサイト波にあたるが,本件原子炉施設の耐震設計で想定された水平方向の最大速度振幅は22.8カインに過ぎず,上記の一般の建物(超高層建築物)につき定められた50カインの半分にも満たないものである。しかも,作成された地震波の個数も1波に過ぎない。また,(エ)のとおり,評価機関の安全審査委員会は,運用において,上下方向の動的設計を組み合わせることなどを要求しているが,本件原子炉施設の原子炉建物の耐震設計については,このような設計がされていない。さらに,業務方法書は,(オ)のとおり,「稀に発生する地震動」の「損傷限界」を具体的に定めるとともに,「極めて稀に発生する地震動」の「倒壊,崩壊限界」も一定の数値をもって規定しているが,耐震設計審査指針には,このような明確にして具体的な定めはない。
ウ 当然のことながら,一般の建築物より,本件原子炉施設の耐震設計は,より厳しい条件を満たすものでなければならない。ところが,本件原子炉施設の耐震設計は,一般の建築物より緩やかな条件でなされており,一般の超高層建築物の2分の1にも満たない最大速度振幅の地震波を入力して,しかもそのような小さな速度振幅の地震波を前提にしても,すでに弾性限界を超えた変形まで許すこととされてしまっている。
少なくとも,一般の建築物で想定する大きさの地震動にまで耐えられるようにしなければ,その耐震設計は不充分であることが明らかであり,上下動をも含めた動的解析を求めていない点を含めて,そのような耐震設計を許容する耐震設計審査指針が不合理なものであることもまた明らかである。
(2)控訴人らの主張に対する判断
ア 本件原子炉施設の原子炉建物が建築基準法施行令36条3項の定める 「超高層建築物」(高さが60メートルを超える建築物)であることは当事者間に争いがなく,同法及び同法施行令の規定の内容はもとより,告示1461号及び国土交通大臣から指定を受けた評価機関の定めた業務方法書の記載内容が控訴人ら主張のとおりであることも,被控訴人の明らかに争わないところである。
しかし,弁論の全趣旨によれば,本件原子炉施設の原子炉建物は,建築基準法38条(平成10年法律第100号による改正前のもの)所定の特殊の構造方法を用いる建築物に当たり,その構造方法が同法第2章の規定又はこれに基づく命令若しくは条例の規定によるものと同等以上の効力があるものとして建設大臣から昭和60年10月7日に認定され,これを前提として,本件原子炉施設の原子炉建物について,同月25日,福井県建築主事により建築確認がされていることが認められる。
したがって,控訴人らの主張は,本件原子炉施設の原子炉建物の耐震設計は現在の建築基準法などの法令によって規制される一般の超高層建築物の要件も満たさない不十分なものであり,現在の知見に照らせば,本件安全審査には看過し難い過誤,欠落がある,というものと解される。
イ しかし,原子炉施設とそれ以外の一般の超高層建築物(以下「超高層ビル等」という。)とでは,その耐震設計を行う前提に,次のような重要な違いがあり,これを同列に論ずることはできない。
(ア)前述のように,原子炉施設は,放射性物質の有する危険性を顕在化させないようにするとの観点から,想定されるいかなる地震力に対してもこれが大きな事故の誘因とならないよう十分な耐震性を有することが要求されている。そのため,立地選定において,敷地及びその周辺について詳細な調査を実施し,重要な建物・構築物は,必ず岩盤に直接設置されている。また,原子炉施設は,地震動などによる外力を受けた場合に,変形を起こしにくい鉄筋コンクリート耐震壁で囲まれた剛構造となっている(以上につき,「耐震設計審査指針」及び「原子力発電所の地質,地盤に関する安全審査の手引き」参照)。
これに対して,超高層ビル等は,その敷地の地盤の選定について,法令上特段の規制はない。すなわち,建築基準法20条は,建築物が自重,積載荷重,積雪,風圧,土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして,政令で定める基準に適合することを求めているが,地盤の基準が政令に特に定められている訳ではない。そして,証拠(甲ハ94の添付資料1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,超高層ビル等については,構造計算の必要から敷地のボーリング調査等の地盤調査は行われているものの,その地盤の堅さについての基準は,告示1461号及び業務方法書にも定めがないことが認められる。また,弁論の全趣旨によれば,一般に超高層ビル等は,沖積平野において広範囲に分布する岩盤上に厚く堆積した地盤(これは,第三紀の地質時代に形成された岩盤に比して一般的に軟らかい。)に建設される場合が多いうえ,構造も,外力を受けた場合に相対的に変形を起こしやすい柔構造であることが一般的であると認められる。
(イ)そうすると,耐震設計の構造計算において,原子炉施設と超高層ビル等とでは,その基本思想を別にしても何ら異とするに足りないのであって,設計上想定する地震動(最大速度振幅)などに差が生じたとしても,それが直ちに不合理であるとはいえない。
ウ そこで,控訴人らが不合理であると主張する点について検討する。
(ア)最大速度振幅<略>
(イ)上下動の動的解析<略>
(ウ)損傷限界及び倒壊,崩壊限界<略>
9 総括
以上に検討したところによれば,立地条件及び耐震設計に係る安全審査基準について,控訴人らが不合理であると主張する点は,すべて理由がなく,また,本件原子炉施設の地震に係る安全性についての本件安全審査に関して,控訴人らが不合理であると主張する点も,すべて理由がない。
したがって,立地条件及び耐震設計に係る安全審査基準は不合理であるとは認められず,また,本件原子炉施設の地震に係る安全性についての本件安全審査の調査審議及び判断の過程に,看過し難い過誤,欠落があるとは認められない。
第3節 2次冷却材漏えい事故(主要な争点2の(3))
第1 ナトリウムの性質(冷却材としての長所及び短所)等<省略>
第2 本件許可申請書及びその添付書類八,十の記載事項等
証拠(乙16)によれば,2次冷却系設備及び2次冷却材漏えい事故に関し,本件許可申請書とその添付書類八の「原子炉施設の安全設計に関する説明書」,同添付書類十の「原子炉の操作上の過失,機械又は装置の故障,地震,火災等があった場合に発生すると想定される原子炉の事故の種類,程度,影響等に関する説明書」には,概ね次のような記載のあることが認められる。
1 本件許可申請書の記載事項<略>
2 添付書類八(原子炉施設の安全設計に関する説明書)の記載事項<略>
3 添付書類十(原子炉の操作上の過失,機械又は装置の故障,地震,火災等があった場合に発生すると想定される原子炉の事故の種類,程度,影響等に関する説明書)の記載事項<略>
第3 2次冷却材(ナトリウム)漏えい事故の安全審査
証拠(乙9,14の3)及び弁論の全趣旨によれば,科学技術庁は,本件申請者の本件許可申請書及び添付書類に基づいて安全審査を行い,安全審査書案を作成して,これを原子力安全委員会に提出したが,同委員会の評価,判断は安全審査書案のそれと同じであったと認められるところ,この安全審査書案には,2次冷却材漏えい事故に対する評価,判断として,次のような記載がある。<以下、省略>
第4 本件許可処分後における2次冷却材漏えい事故の解析数値の変更
1 本件申請者は,本件許可処分後の昭和60年2月18日に,本件原子炉施設について原子炉設置変更(2次主冷却系循環ポンプ等の設備の変更に伴うもの)の許可申請を行い,その後,同年8月9日に,原子炉設置変更許可申請書の一部補正を行った(乙イ6)。
2 本件申請者は,上記の一部補正の中で,漏えいナトリウムの熱的影響を評価する事故解析を行った。
この事故解析は,流出・移送過程(漏えいナトリウムが漏えい口から床ライナ上を流れて,連通管開口に達する過程)と貯留後(漏えいナトリウムが貯留場所に貯留された後)の2つに分けて解析を行っており,解析の結果も,以下のとおり,内圧上昇の値,床ライナ及び建物コンクリートの最高温度並びに床ライナの設計温度の各数値が,従来の「漏えいナトリウムによる熱的影響の解析」(本節,第2の3)と比べて,次のように変更されている(乙イ6)。<以下、省略>
第5 本件ナトリウム漏えい事故(2次冷却材漏えい事故)の発生
平成7年12月8日,本件原子炉施設において本件ナトリウム漏えい事故が発生したことは,既に第1章,第1節,第7で述べたところであるが,ここでは,その具体的経過,状況,内容などを詳しく検討する。
1 事故の概要<略>
2 事故の経緯<略>
3 事故の具体的結果(被害状況)
本件申請者は,本件ナトリウム漏えい事故の具体的結果(被害状況)について調査を行った。他方,科学技術庁は,本件申請者から報告を受けるとともに,本件原子炉施設に立入検査(規制法68条1項)を行って,本件ナトリウム漏えい事故の具体的結果(被害状況)について調査した。
その結果,本件ナトリウム漏えい事故の具体的結果(被害状況)は,次の(1)ないし(6)のとおりであると認められる。<以下、省略>
第6 本件ナトリウム漏えい事故の原因等について
本件申請者は,本件ナトリウム漏えい事故の原因について調査を行った。他方,科学技術庁は,本件申請者から報告を受けるとともに,本件原子炉施設に立入検査(規制法68条1項)を行った上で,〔1〕計器,モニター,運転記録等の入手,〔2〕機器の作動状況等の現場確認,〔3〕本件申請者の職員からの聞き取り,〔4〕X線撮影や材料等のサンプリング等を通じて,本件ナトリウム漏えい事故について調査した。さらに,原子力安全委員会も,科学技術庁から報告を受けて,本件ナトリウム漏えい事故の原因について検討した。
その結果,本件ナトリウム漏えい事故の原因は,次のとおりであると認められた。
1 事故の直接の原因について
(1)本件ナトリウム漏えいが生じた原因<略>
(2)本件温度計のさや細管部が破損した原因等
ア 本件温度計のさや細管部が破損した原因<略>
イ 本件温度計が流力振動を回避できなかった原因<略>
2 事故が拡大したその他の原因について
事故後の本件申請者の調査,科学技術庁及び原子力安全委員会の検討の結果によれば,本件ナトリウム漏えい事故が早期に収束されずに拡大した原因として,
(1)当直長が本件ナトリウム漏えい事故を異常時運転手順書に定める「中漏えい」(中規模なナトリウム漏えいのこと)でなく,「小漏えい」(小規模なナトリウム漏えいのこと)と判断したことに誤りがあったこと
(2)本件申請者が作成した異常時運転手順書に判断を誤らせる不適切な記載があるとともに,事故時の運転手順書としても不十分なものであったこと
(3)現場確認が不徹底であったこと
(4)空調ダクトの閉止操作が速やかに行われず,ナトリウム汲み上げ停止の操作も遅れたこと
等が指摘されている。
3 事故に対する備えや事故後の対応等における本件申請者の問題点
本件申請者のナトリウム漏えい事故に対する備えや事故後の対応等については,科学技術庁及び原子力安全委員会によって,次のとおりの問題点が指摘され,改善検討が要求された。
(1)ナトリウム漏えい事故に対する備えについて
ア 運転員に対する教育訓練の問題点<略>
イ 火災検知器の問題点<略>
ウ 換気空調システム<略>
(2)運転体制についての問題点<略>
(3)事故時の情報の取扱いについての問題点
本件申請者は,事故後の最初の現場入域調査(平成7年12月9日午前2時過ぎ)の結果について,ビデオテープによる情報を含め,規制当局に正しく提供せず,速やかな公表もしなかった。
特に,本件申請者が事故後に公表した入域調査ビデオ映像(12月9日午前6時過ぎに入域して撮影したもの)は,内部及び外部の関係諸機関の事故状況の把握と対策の立案のための貴重な情報の一つであったにもかかわらず,漏えい箇所等をカットし編集したものであることなどが,その後明らかにされた。
このことから,本件申請者による事故隠しとの批判を招き,国民及び地域住民に不安感と不信感をもたらした。現場状況の情報を内部及び外部の関係諸機関が共有することは,事故対応の基本であることを考えると,このことは非常に重要な問題である。事故時の情報伝達を含む情報の取扱いは,設置者の危機管理システムの一環として遂行されることが要求される。(以上の事実につき,甲イ243,乙イ9ないし13)
第7 本件申請者が事故後に行った燃焼実験とその解析(本件申請者の見解)<省略>
第8 科学技術庁の腐食機構等についての見解
科学技術庁は,本件申請者から受けた報告をもとに検討して,平成9年2月20日付けの「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏えい事故の原因究明結果について」と題する報告書を取り纏めて,この中で,本件ナトリウム漏えい事故時,燃焼実験〈1〉及び燃焼実験〈2〉における腐食機構等について,次のとおりの見解を発表した。<以下、省略>
第9 原子力安全委員会(事故調査ワーキンググループ)の事故解析及び見解
1 事故調査ワーキンググループの設置<略>
2 事故調査ワーキンググループの第2次調査報告書における見解の概要<略>
3 事故調査ワーキンググループの第3次調査報告書における見解の概要<略>
第10 本件ナトリウム漏えい事故後に本件申請者が発表した本件原子炉施設の改善策
本件申請者は,本件ナトリウム漏えい事故後の平成8年12月から,本件原子炉施設の安全性の総点検を行い,その結果を平成10年5月付けの第6報報告書(乙イ47ないし49)として取り纏めたが,それによると,本件申請者が行った点検及び本件申請者が用意した改善策の具体的内容は次のとおりである。
1 流力振動に対する健全性の点検と改善策<略>
2 漏えいの早期検出,拡大防止及び影響緩和に関する点検と改善策<略>
第11 床ライナの腐食機構に関する被控訴人の立場
1 床ライナの腐食機構に関する本件申請者・科学技術庁と原子力安全委員会(事故調査ワーキンググループ)の見解の相違<略>
2 原子力安全委員会(安全性確認ワーキンググループ)の対応<略>
3 安全性確認ワーキンググループの見解<略>
4 被控訴人の主張
被控訴人の本件ナトリウム漏えい事故における床ライナの腐食機構に関する主張は,本件申請者・科学技術庁の見解に基づくものであり,事故調査ワーキンググループの見解を採用していない。したがって,被控訴人は,本件ナトリウム漏えい事故の床ライナの損傷はナトリウム・鉄複合酸化型腐食によるものであり,燃焼実験〈2〉のときに生じたような溶融塩型腐食(界面反応による腐食)ではないとの立場を採っている。
第12 当裁判所の判断
1 2次主冷却系設備の機能と意義<略>
2 「2次冷却材漏えい事故」に対する本件安全審査<略>
3 本件ナトリウム漏えい事故とその後の燃焼実験によって判明した事実<略>
4 本件安全審査の過誤,欠落
(1)床ライナの腐食について<略>
(2)熱的影響について<略>
(3)安全審査の対象とならないとの被控訴人の主張について
ア 被控訴人の主張
原子炉設置許可段階における審査事項は,基本設計ないし基本的設計方針をその対象としており,本件安全審査においても,2次冷却材ナトリウムの漏えい事故に関しては,鋼製の床ライナによって漏えいナトリウムと建物コンクリートとの直接接触の防止を図るという本件申請者の基本的設計方針の当否を審査したものである。したがって,高温ナトリウムと床ライナが接触すれば化学反応により腐食が生じる場合があるとしても,床ライナによってナトリウムとコンクリートの直接接触が防止できるとの基本的設計方針が維持できるものである以上,腐食に備えて床ライナの板厚をどの程度にするかなどは,具体的設計段階(設計及び工事の方法の認可の段階)の問題であり,本件安全審査の対象となるものではない。また,床ライナの温度の上昇についても,漏えいナトリウムの燃焼による熱的影響によって床ライナ自体が溶解することのない限り,床ライナの温度は,本件安全審査の審査事項ではなく,具体的設計段階の問題である。
イ 被控訴人の主張に対する判断
(ア)床ライナの腐食について
2次冷却材漏えい事故に関し,漏えいナトリウムと建物コンクリートの直接接触の防止を図ることが本件原子炉施設の基本的設計の安全性に係る事項であること,そして,本件においては鋼製の床ライナの敷設によってそれを実現する設計であることは,被控訴人もこれを認めるところである。
しかし,既に見たように,ナトリウムの酸化物によって床ライナが腐食する場合のあることが明らかになった以上,もはや床ライナの敷設によって無条件にナトリウムとコンクリートとの直接接触を防止できる保障はなくなったといわなければならない。本件安全審査においては,審査担当者が腐食の知見を有していなかったことから,腐食を考慮した審査をしていないけれども,もしその知見を有していたならば,当然,漏えいしたナトリウムの燃焼継続時間,床ライナの板厚の程度及び腐食の減肉速度などが審査された筈である。けだし,そうでなければ,ナトリウムとコンクリートの直接接触の防止という基本設計事項の安全性の確認ができないからである。被控訴人は,腐食を考慮した床ライナの板厚の程度などは,具体的設計段階の問題であると主張するが,本件申請者及び安全審査の関係者は誰も腐食の知見を有していなかったのであるから,具体的設計の当否を審査する設計及び工事の方法の認可の段階で,腐食を考慮した具体的な設計がされるとは,到底期待することができない。被控訴人の主張が是認できるのは,床ライナの腐食機構が充分に解明されてそれが周知の事実となり,原子力安全委員会の審査を受けるまでもなく,実務的な見地から腐食対策を適切に講じた設計が可能となってからのことである。現に,本件申請者は,本件ナトリウム漏えい事故とその後の安全性総点検を踏まえて,被控訴人に対して,「空気雰囲気下でのナトリウム漏えいに伴う火災に対する影響緩和機能の充実,強化を図るため,2次ナトリウム補助設備の一部を変更する。」との理由で,規制法26条1項の規定に基づき,本件原子炉の設置変更許可申請をしているのであり(第1章,第1節,第8参照),規制法27条2項の設計及び工事の方法の変更の認可を申請しているものではない。このことは,本件ナトリウム漏えい事故によって露見した2次主冷却系設備の不備が原子力安全委員会が審査する基本的設計の安全性に係る事項であることを,本件申請者自身が認めていることにほかならない。また,この設置変更許可申請を被控訴人が受理したことは,被控訴人もそのことを認めているといわなければならない。
したがって,被控訴人の主張は採用することができない。
(イ)床ライナの温度について
<中略> このような点に鑑みれば,床ライナの膨張率を左右する床ライナの温度は,極めて重要な審査事項であり,被控訴人が主張するような「念のために確認した」程度で済まされるものではない。したがって,2次冷却材漏えい事故において,床ライナの最高温度が何度であるのかは,原子炉設置許可の段階の安全審査の対象となるべき事項といわなければならない。被控訴人の主張は,失当である。
5 本件安全審査の過誤,欠落の重大性(看過し難いものであるか否か)
(1)当裁判所の見解
ア 本件ナトリウム漏えい事故による具体な被害の状況は,前述(本節,第5の3)のとおりであり,事故が発生した配管室の床ライナ,換気ダクト,グレーチングなどにある程度の損傷が生じたものの,原子炉本体はもとより他の施設には何の影響もなく,外部環境への影響もほとんど無視できる程度のものであった。
しかしながら,本件ナトリウム漏えい事故及びその後の実験,調査などによって判明したことは,本件申請者の温度計についての品質管理に不備があったことは勿論であるが,それ以上に深刻なことは,本件申請者が本件許可申請書で想定した「2次冷却材漏えい事故」の解析において,その前提となる床ライナの健全性及びその設計温度の評価に誤りがあったのに,本件安全審査は,調査審議の過程でこれに気付かず,本件申請者の事故解析を妥当なものと判断したことである。この点において,本件安全審査には,その調査審議及び判断の過程に過誤,欠落があったと認めるべきことは,既述のとおりであるが,問題は,その過誤,欠落が看過し難い程に重大なものであるかどうかである(第1章,第2節,第2の1参照)。
イ 本件申請者が本件許可申請書において設計基準事故として想定した「2次冷却材漏えい事故」は,安全審査の審査基準を定めた「評価の考え方」及び「安全評価審査指針」に基づくものである(乙16)。<以下、省略>
ウ 以上によれば,安全審査で評価の対象となる「事故」(設計基準事故)は,「発生頻度は小さいが,発生した場合は原子炉施設からの放射能の放出の可能性があり,原子炉施設の安全性を評価する観点から想定する必要がある事象」として位置づけられているのであるから,その事故拡大防止対策が万全であると確認されなければ,もはやその原子炉施設は安全とは評価できないものというべきである。
しかるに,本件安全審査は,「評価の考え方」が事故解析に「ナトリウムによる腐食,ナトリウム−水反応,ナトリウム火災」への配慮が必要であることを指摘しているにもかかわらず,ナトリウムと鉄との腐食機構の知見を欠いていたため,床ライナの健全性の評価を誤り,また,ナトリウム−水反応,ナトリウム火災の解析が不十分であったため,床ライナの加熱による最高温度の評価を誤るという結果を招いてしまった。このような瑕疵ある安全審査では,「2次冷却材漏えい事故」の事故拡大防止対策が万全であることが確認されたといえないことは明らかである。
このように,事故拡大防止対策が万全とはいえないとなれば,最悪の事態も想定しなければならないところ,原審証人Iの証言によると,現在の知見では,ナトリウムとコンクリートが本格的に接触したときにどのような事象が生じるのかは未だ十分に解明されていないことが認められるから,事故発生ループ配管室又は過熱器室の床ライナの健全性が損なわれ,同所で本格的なナトリウム−コンクリート反応が生じた場合,それが他の冷却系ループに具体的にどのような影響を及ぼすかを正確に予測することはできないけれども,事故ループ以外の冷却系ループが正常に機能する保障は全くない。そして,弁論の全趣旨によれば,本件原子炉施設の設計では,3系統(ループ)の冷却能力がすべて失われることは想定していないことが認められるから,仮に事故ループ以外の残り2ループの冷却能力も同時に失われる最悪の事態になれば,たとえ原子炉の緊急停止に成功しても,その後も核燃料から発生する崩壊熱を冷却することができず,炉心が溶融することは避けられないところである。
エ 上記認定の事実によれば,設計基準事故としての「2次冷却材漏えい事故」に対する本件安全審査の過誤,欠落は,決して軽微なものではなく,看過し難い重大な瑕疵というべきである。
(2)被控訴人の主張
被控訴人は,本件ナトリウム漏えい事故後に,〔1〕床ライナの腐食,〔2〕設計温度を上回る床ライナの温度上昇,という2つの知見が得られたとしても,原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性に関する事項のみを審査する本件安全審査の合理性は何ら左右されないとして,縷々主張しているけれども,その趣旨は,仮に本件安全審査に過誤,欠落があったとしても,それは,「看過し難い」程の重大なものではないとの主張も含むものと解される。そのように解した場合の被控訴人の主張の要旨は,次のとおりである。<以下、省略>
(3)被控訴人の主張に対する判断
ア 事故防止対策における2次冷却系床ライナの位置づけについて
<中略> 仮に被控訴人の主張が,2次冷却系ナトリウムが放射性を帯びない故に,2次系の床ライナの安全性の評価に過誤,欠落があったとしても,それは看過し難いものに当たらないという趣旨であれば,その主張は到底受け入れることができない。
イ 腐食と本件安全審査について
<中略> 以上の次第であるから,本件申請者のしたナトリウム燃焼新解析の結果をもってしても,本件原子炉施設の床ライナの健全性が確認されたとは認められず,腐食の知見を欠いた本件安全審査の過誤,欠落が「看過し難い」ものではないということはできない。
ウ 漏えいナトリウムと本件安全審査<略>
エ 結び
以上のとおりであるから,設計基準事故である「2次冷却材漏えい事故」の評価に関する本件安全審査の過誤,欠落が「看過し難い」ほどに重大ではないという被控訴人の主張は,採用することができない。
6 本件許可処分の違法,無効
(1)本件許可処分の違法
弁論の全趣旨によれば,内閣総理大臣は,科学技術庁及び原子力安全委員会の本件安全審査に依拠して,本件許可処分を行ったと認められる(第1章,第1節,第5の3参照)。そして,本件安全審査には,「2次冷却材漏えい事故」の評価に関し,その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があったのであるから,本件許可処分は,違法というべきである(第1章,第2節,第2の1参照)。
(2)本件許可処分の無効
ア 違法な原子炉設置許可処分が無効となるのは,審査基準の不合理又は安全審査の調査審議,判断の過程の看過し難い過誤,欠落によって,安全審査における原子炉内の放射性物質の潜在的危険性を顕在化させないことの確認に不備,誤認などの瑕疵が生じ,その結果として,原子炉格納容器内の放射性物質が周辺の環境に放出される事態の発生の具体的危険性が否定できない場合である(第1章,第2節,第2の3参照)。
イ 本節においてこれまで検討した本件安全審査の過誤,欠落の内容は,設計基準事故である「2次冷却材漏えい事故」の評価に関する事項である。具体的には,床ライナの健全性(腐食の可能性)と床ライナの温度上昇(熱的影響)に関する安全評価の過誤,欠落である。そして,この安全評価の不備のもたらす危険性は,ナトリウム燃焼,ナトリウム−水反応及びナトリウム−コンクリート反応によって生じるかも知れない2次主冷却系の全冷却能力の喪失である。2次主冷却系のすべてが機能不全に陥れば,1次主冷却系も冷却能力を失って炉心溶融が生じ,そうなれば出力は暴走し,放射性物質の外部環境への放散の可能性は高度の確率をもって覚悟しなければならない。
問題は,3系統に分離独立している2次主冷却系の冷却設備のすべてが同時に機能不全に陥ることの具体的可能性の有無である。その危険を顕在化させるものとして,最も重視すべきものはナトリウム−コンクリート反応である。このことは,本件原子炉施設において,ナトリウムとコンクリートとの直接接触を防止するため鋼製の床ライナを敷設していることからも,明らかである。ナトリウム−コンクリート反応が生じた場合,ナトリウム燃焼,水素の発生,コンクリートの強度の劣化などが生じることは,既に述べたところであり,極めて危険な事態となることは明らかである。もっとも,燃焼実験〈2〉で見られたようなごく小規模なものは別として,ナトリウムとコンクリートが本格的に接触した場合に発生する具体的事象がどのようなものとなるのかは,水素爆発の有無とその規模なども含め,本件全証拠によっても必ずしも明らかでないが,少なくとも被控訴人は,ナトリウムの漏えいにより1つのループの配管室又は過熱器室で本格的なナトリウム−コンクリート反応が生じても,他のループの冷却能力に影響はなく,系統分離が維持されるとは主張していない。そうだとすれば,2次主冷却系の1ループで本格的なナトリウム−コンクリート反応が起これば,その被害は他のループにも及び,系統分離が破壊される高度の蓋然性を否定できないと認めるべきである。そして,本件原子炉施設の現状設備では,床ライナの腐食や温度上昇に対する対策を欠いているため,漏えいナトリウムとコンクリートの直接接触が確実に防止できる保障のないことは,既に繰り返し述べたところである。
ウ 以上のことからすると,「2次冷却材漏えい事故」の評価に関する本件安全審査の調査審議及び判断の過程には看過し難い過誤,欠落があると認められ,その結果,本件安全審査(安全確認)に瑕疵(不備,誤認)が生じたことによって,本件原子炉施設においては,原子炉格納容器内の放射性物質の外部環境への放出の具体的危険性を否定することができず,本件許可処分は無効というべきである。
そうすると,本件許可処分は無効であって,これをいう控訴人らの主張は理由がある。
第4節 蒸気発生器伝熱管破損事故(主要な争点2の(4))
第1 本件原子炉施設の蒸気発生器関連設備の概要<省略>
第2 「評価の考え方」における蒸気発生器伝熱管破損事故の位置付け<省略>
第3 本件許可申請書添付書類八,十の記載事項<省略>
第4 「蒸気発生器伝熱管破損事故」の安全審査<省略>
第5 蒸気発生器伝熱管破損事故の影響と伝熱管破損伝播の機序<省略>
第6 蒸気発生器伝熱管破損事故に関して本件申請者が行った実験<省略>
第7 イギリスの高速増殖原型炉PFRにおいて発生した蒸気発生器伝熱管破損事故(高温ラプチャ)<省略>
第8 本件変更許可申請に対する原子力安全・保安院の指導等
1 本件変更許可申請
前記(第1章,第1節,第8)のとおり,本件申請者(核燃料サイクル開発機構)は,本件ナトリウム漏えい事故後の平成13年6月6日,被控訴人(経済産業大臣)に対し,「空気雰囲気下でのナトリウム漏えいに伴う火災に対する影響緩和機能の充実,強化を図るため,2次ナトリウム補助設備の一部を変更する」ことを理由として,本件変更許可申請を行った。
しかし,原子力安全・保安院は,平成13年12月11日本件申請者に対し,次の2の(2)のとおり文書をもって指導を行い,これを受けて,本件申請者は,次の3のとおり,本件変更許可申請書の一部補正を行った。
2 原子力安全・保安院の指導等
(1)原子力安全・保安院が行った指導前の再解析の指示<略>
(2)原子力安全・保安院の指導の趣旨及び内容
ア 原子力安全・保安院は,本申請者がした再解析を検討したうえ,平成13年12月11日,本件申請者に対し,「高速増殖原型炉もんじゅの蒸気発生器計装等の設置許可申請書への記載について」と題する書面をもって,カバーガス圧力計等の位置付けを一層明確にするのが適当であるとして,設置許可申請書本文の「蒸気発生器計装」と記載されている部分を「カバーガス圧力計等の蒸気発生器計装」と明記するとともに,併せて,その他の蒸気発生器伝熱管破損時の影響緩和に関係する設備について当該申請書の添付資料に追記するように指導を行った。
イ 原子力安全・保安院は,カバーガス圧力計等の位置付けを一層明確にするのが適当であると認めた理由の根拠について<略>
3 本件変更許可申請書の一部補正
本件申請者は,原子力安全・保安院の上記指導に従って,平成13年12月13日,「高速増殖原型炉もんじゅ原子炉設置変更許可申請書(原子炉施設の変更)本文及び添付書類の一部補正」と題する書面を被控訴人(経済産業大臣)に提出して,本件変更許可申請書の一部補正を行ったが,その主要なものは,次の(1)ないし(5)のとおりである。<以下、省略>
第9 当裁判所の判断
1 本件原子炉施設の蒸気発生器の特徴等と技術的課題
(1)本件原子炉施設の蒸気発生器の特徴等<略>
(2)蒸気発生器の技術的課題<略>
2 本件安全審査における高温ラプチャの審査の有無
(1)被控訴人の主張
被控訴人は,「内閣総理大臣は,仮に,本件原子炉施設の蒸気発生器伝熱管が破損するとしても,高温ラプチャは生じ得ず,本件安全審査における蒸気発生器伝熱管破損事故に係る安全評価において高温ラプチャを考慮する必要はないと判断した。」と主張する。
(2)被控訴人の主張に対する判断
<中略> そうすると,総理大臣は本件原子炉施設の蒸気発生器において高温ラプチャが生じないことを確認したとの被控訴人の主張は採用することができず,本件安全審査においては,蒸気発生器伝熱管破損事故の安全評価につき,高温ラプチャによる伝熱管の伝播破損の可能性の調査審議及び判断を欠落したものというべきである。
3 本件原子炉施設の蒸気発生器における高温ラプチャ発生の可能性
(1)判断の前提<略>
(2)被控訴人が高温ラプチャが生じないとする論拠<略>
(3)被控訴人の論拠1(水漏えいの検出システム)に対する判断
ア 被控訴人の主張<略>
イ 被控訴人の主張に対する判断
<中略> 以上の認定判断によれば,本件原子炉施設の蒸気発生器では,伝熱管破損事故が起こっても早期に水漏えいを検出するシステムが整っているから高温ラプチャは生じない,という被控訴人の主張は,これを是認することができない。
(4)被控訴人の論拠2(水・蒸気の急速ブローなどの対応対策)に対する判断
ア 被控訴人の主張<略>
イ 被控訴人の主張に対する判断
<中略> これまでの認定判断によれば,本件原子炉施設の蒸気発生器における高速ブローなどの対策は,水・蒸気の漏えい検出速度とその確実性如何にもよるが,高温ラプチャを防止するうえでその抑止効果を相当期待することはできるものの,絶対的な効果までは期待することはできず,被控訴人のこの点に関する主張は採用することができない。
(5)「単一故障」の仮定の是非<略>
(6)まとめ
以上のとおりであるから,高温ラプチャ防止対策の観点から見た本件原子炉施設の設備は,水漏えい検出設備の検出速度とその精度は必ずしも万全とは言い難く,急速ブロー系設備にも高温ラプチャ防止の絶対的効果を期待することができないことが明らかである。そうだとすれば,本件原子炉施設において,蒸気発生器伝熱管破損事故が生じれば,伝熱管の高温ラプチャ型破損の発生の可能性を否定することはできない。
また,本件申請者が本件の「蒸気発生器伝熱管破損事故」(設計基準事故)の解析で仮定しなかった「単一故障」として,急速ブロー系機器の故障を仮定し,蒸気発生器伝熱管破損事故時において水・蒸気の急速ブローに失敗したことを想定すれば,高温ラプチャの発生は,ほぼ避けられないということができる。
4 本件安全審査の瑕疵の重大性(「看過し難い過誤,欠落」の有無)
(1)「蒸気発生器伝熱管破損事故」に関する本件安全審査の過誤,欠落の内容
<中略> したがって,「蒸気発生器伝熱管破損事故」に関する本件安全審査には,過誤,欠落があることは明らかである。
(2)本件安全審査の過誤,欠落の重大性(看過し難いものであるか否か)
<中略> 「評価の考え方」及び「安全評価審査指針」が設計基準事故の安全評価を求めているのは,事故拡大防止の観点から原子炉施設の基本設計の安全性を確認するためである。そして,前述(第1章,第1節,第6の3参照)のとおり,設計基準事故としての「事故」は,「運転時の異常な過渡変化を超える異常状態であって,発生頻度は小さいが,発生した場合は原子炉施設からの放射能の放出の可能性があり,原子炉施設の安全性を評価する観点から想定する必要がある事象をいう。」と定義されている。
このように設計基準事故の安全評価は,原子炉施設の基本設計の安全性の確認のうえで重要な意義を有するものであるところ,その安全審査における原子力安全委員会の調査審議及び判断の過程に,上記のような深刻な事故に繋がりかねない事項についての過誤,欠落があったのであるから,その過誤,欠落は看過し難い重大なものというべきである。
5 本件許可処分の違法,無効
(1)本件許可処分の違法
弁論の全趣旨によれば,内閣総理大臣は,科学技術庁及び原子力安全委員会の本件安全審査に依拠して,本件許可処分を行ったと認められる(第1章,第1節,第5の3参照)。そして,本件安全審査には,「蒸気発生器伝熱管破損事故」の安全評価に関し,その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があったのであるから,本件許可処分は,違法というべきである(第1章,第2節,第2の1参照)。
(2)本件許可処分の無効
ア 違法な原子炉設置許可処分が無効となるのは,審査基準の不合理又は安全審査の調査審議,判断の過程の看過し難い過誤,欠落によって,安全審査における原子炉内の放射性物質の潜在的危険性を顕在化させないことの確認に不備,誤認などの瑕疵が生じ,その結果として,原子炉格納容器内の放射性物質が周辺の環境に放出される事態の発生の具体的危険性が否定できない場合である(第1章,第2節,第2の3参照)。
イ 本節においてこれまで検討した本件安全審査の過誤,欠落の内容は,「蒸気発生器伝熱管破損事故」の安全評価に関する事項である。具体的には,蒸気発生器の伝熱管が破損した場合の伝播破損の形態としてウェステージ型破損のみを考慮し,より重大な結果を招く高温ラプチャ型破損の可能性を調査審議の対象としなかったことである。
ウ そこで,この本件安全審査の過誤,欠落が本件原子炉施設の安全性の評価にどのような影響をもたらすのかについて判断する。
<中略> 以上によれば,「蒸気発生器伝熱管破損事故」の評価に関する本件安全審査の調査審議及び判断の過程には看過し難い過誤,欠落があると認められ,その結果,本件安全審査(安全確認)に瑕疵(不備,誤認)が生じたことによって,本件原子炉施設においては,原子炉格納容器内の放射性物質の外部環境への放出の具体的危険性を否定することができず,本件許可処分は無効というべきである。
そうすると,本件許可処分は,この点からも無効であって,これをいう控訴人らの主張は理由がある。
第5節 炉心崩壊事故(主要な争点2の(5))
第1 本件原子炉の構造<省略>
第2 原子炉における核分裂反応<省略>
第3 炉心崩壊事故<省略>
第4 「評価の考え方」が定めるいわゆる「5項事象」と本件申請者が選定した事象
1 「評価の考え方」が定めるいわゆる「5項事象」<略>
2 本件申請者が選定した5項事象<略>
第5 本件許可申請書の添付書類十の記載事項(反応度抑制機能喪失事象に関する記載事項)
本件許可申請書の添付書類十の「原子炉の操作上の過失,機械又は装置の故障,地震,火災等があった場合に発生すると想定される原子炉の事故の種類,程度,影響等に関する説明書」には,「技術的には起こるとは考えられない事象」に関する記述があるが,このうち反応度抑制機能喪失事象解析についての記載は,以下のとおりである。<以下、省略>
第6 反応度抑制機能喪失事象の安全審査
証拠(乙9,14の3)によれば,科学技術庁は,本件許可申請書及び添付書類に基づいて安全審査を行い,安全審査書案を作成し,これを原子力安全委員会に提出したが,同委員会の評価,判断は,安全審査書案のそれと同じであったと認められるところ,この安全審査書案には,反応度抑制機能喪失事象に対する評価,判断として,次のような記載がある。<以下、省略>
第7 外国で起こった炉心溶融ないし炉心崩壊事故
1〜4<略>
5 チェルノブイリ事故
(1)事故の発生時
1986年(昭和61年)4月26日
(2)原子炉の概要
事故を起こしたチェルノブイリ4号炉は,ソビエト連邦(当時)のウクライナ共和国チェルノブイリに設置された黒鉛減速・軽水冷却・沸騰水型原子炉(RBMK)である。1984年(昭和59年)3月に運転を開始し,電気出力は100万キロワットで,熱出力は320万キロワットである。
(3)事故の概要
1986年(昭和61年)4月26日,外部電源喪失によりタービンの蒸気供給が停止された場合,惰性で回っているタービン発電機からの電力で非常用炉心冷却系設備のポンプ等をどの程度稼働させることができるかを確認する試験の最中において,原子炉出力が急激に増大し,これを抑えることができなかったことから,燃料チャンネル及び原子炉上部の構造物が爆発によって破壊され,燃料及び黒鉛の一部が飛散し,原子炉建屋も破壊された。約1600トンないしは2000トンの重さの原子炉の蓋が吹き上げられ,ほぼ垂直に立てかけられた状態になった。
暴走後,減速材の黒鉛に火がつき,大火災に拡大し,セシウム137など気化しやすい核分裂生成物が大量に上空高く吹き上げ,北半球を広く汚染した。
また,火災の熱によって,爆発後も残っていた燃料がさらに溶融し,炉心から流れ出した。灼熱の溶融燃料物質は,構造物や床のコンクリートを溶かし,穴を開け,さらにその下へ流れ落ちた。
(4)事故の処理
ヘリコプターから炉心へ鉛,粘土等を大量に投下することにより,炉心の温度上昇を抑えた。破損した建屋,原子炉等をコンクリートで密閉した。
(5)事故の影響
事故直後の1986年(昭和61年)8月のソビエト連邦政府の報告書(以下「86年報告書」という。)によれば,作業員や消防士等230人が急性放射線障害と診断され,事故で死亡した者は31名(うち急性放射線障害により死亡した者29名)であると報告された。また,発電所周辺30キロメートル圏内の住民約13万5000人が避難したが,避難住民には急性放射線障害が生じた者はなかったと報告されている。
しかし,ソビエト連邦崩壊後の1992年(平成4年)4月に公表されたソビエト連邦共産党中央委員会政治局事故対策グループの議事録によれば,1986年(昭和61年)5月4日から同年6月12日までに,極めて大勢の人が入院治療を受け,このうち相当数の人が放射線障害の診断を受けていること(日々,入院する者があり,他方で,退院するものや死亡する者がいるので,日によって人数が異なるが,入院治療中の者は最高で1万人を越え,また,放射線障害の診断を受けた者は最高で900人を越えていること)が明らかとなった。
その後,1992年(平成4年)9月には,ベラルーシ共和国(チェルノブイリは,ベラルーシ共和国に隣接している。)のミンスクの保健局の調査により,高度に汚染された地区では,子どもの甲状腺ガンの発生は1986年ないし1989年では年間2ないし6例で平均4例だったのに,1990年29例,1991年55例,1992年前半30例と大幅に増加したこと,特に汚染の顕著であったゴメリ地区では,1991年38例,1992年前半13例を記録し,これは,100万人の子どもで1年間に1人という世界の平均基準の80倍にあたることが報告された。また,これに関連して,ベラルーシ共和国医療テクノロジーセンターの研究者は,被曝した子ども達のうち,30キロメートル圏内から避難した子ども達の悪性腫瘍,甲状腺ガンの発生率は特に高く,ベラルーシ全体との発生率と比較すると,悪性腫瘍は18.4倍,甲状腺ガンは73.7倍であると報告している。
さらに,1995年(平成7年)9月に国連人道援護局がまとめた報告書によれば,〔1〕現在も1平方キロメートル当たり5キュリー以上の汚染地区に700万人を超える人が住み続けており,その約7割が精神的障害をかかえていること,〔2〕汚染除去作業者の実際の数は約80万人であり,これら作業者が,肺ガンや各種の腫瘍,白血病の危険にさらされ,また発ガンの恐怖に苦しんでいること,〔3〕ベラルーシで行った統計調査では,1990年(平成2年)から1994年(平成6年)にかけて,子どもの神経・知覚関連の異常発生が43パーセント増えており,骨や筋肉の異常が62パーセントも増加していることなどが報告されている。
また,1995年(平成7年)11月にWHO(世界保健機関)が主催した「チェルノブイリその他の放射線事故による健康影響に関する国際会議」は,チェルノブイリ原発の周辺地域で多発している小児甲状腺ガンについて,事故に伴う放射能が原因であるという結論を出し,さらに,1996年(平成8年)3月にミンスクで開催された欧州委員会とベラルーシ,ウクライナ,ロシアによる国際会議では,小児甲状腺ガンの発生が約1000人に達したことが報告された。
そして,WHO(世界保健機関)の会議の中では,白血病が増加しているとの議論もなされ,さらに,ミンスクのガン医学放射線研究所の医師は,肺ガンが急増しており,1993年(平成5年)のガン患者4500人のうち,900ないし1000人が小細胞ガンで放射線の影響によるものと推測されると報告している。
この他に,ベラルーシ共和国では,先天性胎児障害(口唇・口蓋裂,腎臓・尿管異常,多指症など)を有する子どもが,放射能汚染が強い地区ほど,事故後に増加していること(1平方キロメートル当たりセシウム137が15キュリー以上の汚染地域では,事故前に比べて,事故後に79パーセントも増加していること)や,放射能汚染地域の子どもの多くに,末梢血リンパ球染色体異常が認められ,末梢血リンパ球に観察される染色体異常レベルは,事故後6年間増加した状態が継続していることも,ベラルーシ共和国の研究者らによって報告されている。
以上のことから,チェルノブイリ事故の影響は,まだ全貌は明らかではなく,放射線の晩発性障害が本格的に現われるのはこれからであるとされている。
(6)事故の原因
事故直後の86年報告書によれば,事故の原因は,運転員の規則違反,すなわち,〔1〕制御棒の反応度操作余裕が制限値以下で運転を継続したこと,〔2〕予定出力以下の炉出力で電源テストを行ったこと,〔3〕1次系循環ポンプを全台運転し,ポンプの流量が規定を越えたこと,〔4〕タービン蒸気弁閉に伴うスクラム(原子炉緊急停止)信号を解除したこと,〔5〕気水分離タンクの水位・圧力に伴うスクラム信号を解除したこと,〔6〕ECCS(緊急炉心冷却装置)を切り離していたこと,という6つの規則違反をしていたことにあると報告された。
しかし,その後1991年(平成3年)1月,ソビエト連邦原子力産業安全監視国家委員会の特別調査委員会は,「チェルノブイリ4号炉事故の原因と状況について」と題する報告書(以下「91年報告書」という。)により,「事故の原因は,設計の欠陥と責任当局の怠慢にあり,チェルノブイリのような事故はいずれ避けられないものであった。」との見解を発表した。すなわち,91年報告書は,「チェルノブイリ4号炉では,制御棒が,制御棒本体の下に黒鉛棒がぶら下がったような構造をしており,制御棒を完全に引抜いた状態では,黒鉛棒の下に1.25メートルほどの水域ができる。この状態でスクラム(原子炉緊急停止)がかかると,炉心の上部では制御棒本体が入ることによりマイナスの反応度が加わるが,炉心の下部では,中性子を吸収していた水域が,ほとんど中性子を吸収しない黒鉛棒に置き変わるため,最初にプラスの反応度が加わる。炉心全体の挙動は,各制御棒の位置関係や炉の運転状況によって決まってくるが,条件によっては,ポジティブスクラムが発生し,炉の出力が上昇する。事故の直前には,チェルノブイリ4号炉は,原子炉熱出力は0ないし3万キロワットに低下し,その後,出力上昇の操作(制御棒を引き抜くこと等)の結果,20万キロワットでなんとか安定するに至った。しかし,この時の炉は,反応度操作余裕の低下と低出力の状況に伴う正のボイド反応度係数が働き(ボイドすなわち泡が増えると核分裂連鎖が盛んになる性質のこと),一触即発の状態に陥っていたが,運転員はそのことを知らなかった。その後,運転員は,試験(惰性で回っているタービン発電機からの電力で非常用炉心冷却系設備のポンプ等をどの程度稼働させることができるかを確認する試験)を行ったが,試験中は,炉の出力は安定しており,異常な兆候はなかった。試験終了後,運転員がスクラム(原子炉緊急停止)の操作をしたが,それが,事故の発端となった。すなわち,制御棒の一斉挿入により,ポジティブスクラムが発生し,停止するはずの炉が逆に急激に出力が上昇して,暴走事故となった。」と発表し,要するに,炉の設計に構造的欠陥があったとした。そして,91年報告書は,86年報告書の指摘している運転員の規則違反について,「〔1〕の点は,規則違反であり,運転員は規則違反であることを知りながら運転を続けテストをしたと思われる。しかし,反応度操作余裕の値が緊急防御系の有効性に影響を及ぼすということは運転員に知らされていなかったのであり,如何なる運転状況であろうと,緊急防御系は有効に作動して原子炉は停止すると運転員が期待するのは正当であるから,この点の規則違反は,事故の原因であるとはいえない。〔2〕の点は,運転規則で低出力での運転が禁じられていたわけではない。〔3〕の点は,全ての循環ポンプを運転してはならないとは運転規則では定められていない。もっとも,いくつかのポンプの流量が制限値をいくらか超えていたことは規則違反であったが,この制限は,ポンプ・キャビテーション(気泡の発生とそれに伴う衝撃による破損)を防ぐために設定されたものであり,実際にはポンプ・キャビテーションは生じていなかったことが確認されている。〔4〕の点は,タービンへの蒸気弁を閉じた際,スクラム信号を解除したのは規則違反ではない。〔5〕の点は,86年報告書では,運転員が気水分離タンクの水位・圧力に伴うスクラム信号を切ったとしているが,実際には,全て,解除されていなかった。〔6〕の点は,ECCS(緊急炉心冷却装置)を解除したのは規則違反であったが,テスト手順書に従って行ったのであって,運転員に違反はない。また,ECCSが解除されていなくても,事態の進展には関係がなかった。」と報告している。
(7)事故で生じた爆発のエネルギー
未解明な点が多く,事故で生じた爆発のエネルギーがどれほどであったか,その定量的な推定は困難であるとされている。(以上の事実につき,甲6,甲イ27,179,199,372,385,甲ニ2の1,6の1,乙イ24)
第8 当裁判所の判断
1 炉心崩壊事故に対する安全審査の在り方
(1)前記第7において,外国において発生した炉心崩壊事故の概要を見てきたが,このうち最も重大かつ深刻な事故はチェルノブイリ事故である。この事故は,原子炉の炉心が崩壊した場合の危険性と悲惨さを如実に物語っている。そして,1600トンないし2000トンもの重量の原子炉の上蓋が空中に吹き上げられたということは,炉心崩壊の際の核分裂反応によるエネルギーが如何に巨大であるかを示すものであって,人類は,これを教訓としなければならない。
(2)もとより,事故を起こしたチェルノブイリ4号炉は,黒鉛減速・軽水冷却・沸騰水型原子炉で,その電気出力も100万キロワット(熱出力320万キロワット)であり,本件原子炉とは,その炉型の種類,構造及び出力規模などを異にするものであって,チェルノブイリ事故と同じような炉心崩壊事故が本件原子炉において生じるとたやすく速断することは相当でない。
しかし,本件原子炉は,研究開発段階の高速増殖炉であり,未解明な分野が少なくなく,しかも,炉心中心領域においては正のボイド反応度を持ち,出力密度も高い炉心特性を有しており,充分な安全対策が必要である。
(3)本件申請者は,炉心崩壊事故(反応度抑制機能喪失事象)を本件原子炉では「技術的には起こるとは考えられない事象」として捉え,発生頻度は無視し得るほど極めて低いと位置付けている(本節,第5参照)。しかし,運転実績に乏しい研究開発段階の本件原子炉の炉心崩壊事故をそのように評価することには疑問がある。また,たとえ設計上の理論ではそうであっても,炉心を構成する燃料,機器,装置の品質管理が不十分であったり(本件ナトリウム漏えい事故は,配管に挿入されていた温度計の品質管理に不備があったことが直接の原因であることを想起すべきである。),若しくは,工事の施工に瑕疵があったりすれば,設計上予想もしない事故が発生する可能性は否定できないのであり,このことは当然想定していなければならないことである。
「評価の考え方」が,LMFBR(液体金属冷却高速増殖炉)について,設計基準事象の他に5項事象を選定してその評価を求めているのも,発生頻度は設計基準事故よりも更に低くともその事象の発生可能性が無視できないからであると認められる。
(4)したがって,5項事象として選定された炉心崩壊事故(反応度抑制機能喪失事象)は,決して空想の出来事としてではなく,現実に起こり得る事象としてその安全評価がされなければならない。そして,その事象の発生は重大な結果を招くのであるから,炉心崩壊の際に生じる核エネルギーの大きさがどの程度のものであって,本件原子炉容器及び原子炉格納容器がそのエネルギーの荷重(衝撃)にどこまで耐えられるかの評価は,特に重要である。
2 本件申請者がした反応度抑制機能喪失事象の機械的エネルギーの解析
(1)本件申請者は,想定した反応度抑制機能喪失事象について,即発臨界の有無及び即発臨界を超える場合の機械的エネルギーを解析した(なお,本件申請者が計算した機械的エネルギーは,熱エネルギーの大気圧までの等エントロピ膨張による仕事量のことである。)。すなわち,HCDA(仮想的炉心崩壊事故)の起因過程を解析コードSAS 3Dを用いて解析し,炉心の反応度が即発臨界を超えて機械的エネルギーの発生に至ると予測されたケースについては,解析コードVENUS−PMに接続して機械的炉心崩壊過程の解析を行った。解析は,幾つかの基準によりケースを区分し,その区分されたものを組み合わせて,様々なケースを想定して行われたが,具体的には次のとおりである。<以下、省略>
3 アメリカ,ドイツにおけるHCDAの機械的エネルギーの評価について
(1)アメリカ<略>
(2)ドイツ(旧西ドイツ)<略>
4 本件原子炉の炉心崩壊事故における有効仕事量(機械的エネルギー)についての当事者双方の主張の要旨とこれに対する当裁判所の考え方
(1)控訴人らの主張の要旨
ア <略>
イ 実際の炉心崩壊を模擬した実験が事実上不可能である以上,炉心崩壊の爆発エネルギーの算出,評価は,コンピュータによるシミュレーション計算に頼らざるを得ない。しかし,上記のようにこれまでの実験は模擬性に乏しいうえに,その実績も僅かであって,コンピュータによる解析をするにしても,その計算コードの信頼性の問題もさることながら,どのようなパラメータを入力するかが重要な問題とならざるを得ない。けだし,入力するパラメータ如何によって,結果が大きく左右されるからである。その意味で,本件申請者が行った解析は,その解析コードにも信頼を置くことができないけれども,本件申請者が妥当とした解析結果のケースのパラメータは保守性を欠き,極めて不十分なものといわなければならない。
本件申請者は,自らが行った解析結果のうち,992MJのケースを採用せず,356MJのケースを採用し,これに補正を加えて約380MJを機械的エネルギーの最大値とした。上記992MJのケースは,燃料棒の破損口を5センチメートルではなく,30センチメートルと想定したものであるが,TREAT−PFR実験(燃料棒の破壊実験)では,最初に少しだけ破損し,その0.004秒後に全長の70パーセント近くが破損した例(データ)も存在するのであり,992MJのケースを排斥する理由はない。また,同じく本件申請者の解析において,燃料棒の中心部が破損したケースでも,380MJを大きく上回る値が得られているが,TREAT−PFR実験では,燃料棒の中心部(この位置が燃料反応度価値が最大になる。)が破損した例(データ)が報告されているのであって,このケースの解析結果を無視することは不合理である。
ウ 以上のように,本件申請者は,自分に都合の悪いケースは殊更に排除して,設定したモデルでの機械的エネルギーの最大を380MJとしているのであって,極めて恣意的といわなければならない。これに加えて,本件申請者は,起因過程の即発臨界を上回る最大級の核的爆発の起こる可能性のある遷移過程における即発臨界の機械的エネルギーを解析計算していないのである。したがって,本件申請者のした解析結果を妥当と判断した本件安全審査には,看過し難い過誤,欠落がある。
(2)被控訴人の主張の要旨
ア 反応度抑制機能喪失事象については,当然のことながら,実際に原子炉施設においてこの事象を発生させて実験することはできない。しかし,上記事象の解析評価に用いられた計算コード(SAS 3D及びVENUS−PM)は,本件安全審査前である1960年代から1970年代にかけて米国のTREATその他の実験施設を用いて行われた実験において観測された実験データと比較して,十分な検証がされているものである。また,未だ実験によって十分な確証が得られていない部分については,不確かさの幅を十分に考慮することにより,全体として,安全上厳しい結果となるように作成されている。
イ 本件申請者は,本件安全審査当時に最も確からしいとされる計算条件等を用いた解析ケース(BEケース)や,起因過程を構成する各個の現象について物理的に合理的と考えられる範囲を越える計算条件を設定して解析結果に及ぼす影響を確認するためにされた解析ケース(パラメータ解析ケース)等,相当数の解析ケースについて解析をした上,本件許可申請においては,本件安全審査当時の実験的知見と海外における評価例を踏まえて,物理的に合理的と考えられる範囲内で最も保守的に計算条件を設定して解析した上限ケース(EXNRCケース)を採用している。
ウ 控訴人らは,炉心損傷後の最大有効仕事量を380MJとする解析結果を過小評価であると主張し,992MJとなった解析ケースを指摘する。しかし,この992MJの解析結果は,「パラメータ解析ケース」のうち,「FCIパラメータ」解析の一つとして選定された,「破損口径効果(LRIP・FCI)ケース」について,SAS 3Dコード及びVENUS−PMコードによる計算の結果,得られた値である。この解析は,一般に燃料被覆管の破損口の長さや面積が大きいほど,短時間で多量の溶融燃料の流出が生じることによって,燃料破損に伴うFCI現象が激しくなると考えられるため,この影響を強調して検討するために行ったものであり,実験データに基づいたものではなく,単に計算コードの感度解析を目的としたものである。
控訴人らは,992MJのケースに関連して,燃料棒の破損口が5センチメートルを超える実験例を指摘するが,本件申請者が初期の破損口の軸方向の長さを5センチメートルとするパラメータを採用したのは,本件安全審査当時既に行われていた実験に基づくものである。控訴人らが指摘するTREAT−PFR実験の例は,飽くまで初期の破損口が生じた後,それが軸方向に拡大したものであり,初期の破損口の長さに相当するものではない。なお,本件安全審査終了後に行われたCABRI試験の結果によれば,燃料被覆管(燃料棒)の初期の破損口の軸方向の長さは2ないし4センチメートル程度であり,初期の破損口の軸方向の長さ5センチメートルを下回る結果が得られている。このCABRI試験は,定常運転状態から条件を模擬しており,燃料要素の破損位置や燃料の移動をTREATよりも更に精度良く測定する技術が使われているものであり,実験データとしてより信頼の置けるものである。
また,控訴人らは,燃料棒の破損位置を問題とするが,本件申請者が採用した上述の上限ケースにおいては,燃料要素の破損位置が,軸方向の中心部から上部になることが知られていることは踏まえた上で,計算条件として,あえて保守的に,燃料要素の破損位置を軸方向の中心部としているのであって,控訴人らの主張は,この点を看過するものである。
(3)当裁判所の考え方
ア 炉心崩壊事故を原子炉施設を使って実際に模擬実験することが事実上不可能であることは,当事者双方もこれを認めるところである。したがって,炉心崩壊の際の機械的エネルギー(有効仕事量)を具体的に予測しようとすれば,コンピュータシミュレーションによる解析に依らざるを得ないことは明らかである。しかし,その場合においては,信頼するに足る計算(解析)コードの存在と適切な解析条件の設定が不可欠である。他方,証拠(甲イ385,491,乙ニ4の1ないし4,弁論の全趣旨)によれば,これまで海外及び日本で行われたHCDAに関する模擬実験は,控訴人らが指摘するような部分的現象についての小規模なものしか行われておらず,実験に基づくデータは限られており,それを含めて解析の基礎となるデータには一定の幅をもってしか確定できない部分が少なからず存在していることが認められる。したがって,どのようなモデルを対象にどのコードを使っていかなるパラメータのもとに解析を行うのが妥当なのかの判断,並びにパラメータを異にする複数の解析結果のうちのどの解析結果を設計上の基準として採用するのが適当なのかの判断は,決して容易なことではなく,それを的確になすには,高度な原子物理学の知識,経験はもとより,これに加えて熱流体力学などの関係する分野の幅広い科学的,専門技術的知見,見識を必要とし,そこには知識,経験等に裏付けられた総合的見地に基づく一定の裁量を認めなければならない。
イ 規制法24条の規定の趣旨に照らせば,上記の適正な判断は,科学の各分野の専門的な学識経験者から構成される原子力安全委員会に期待されていることは明らかである。それ故に,原子力安全委員会が慎重な調査審議を経て,その科学的,専門技術的裁量に基づき,本件申請者のした解析を妥当と判断したのであれば,それが不合理なものでない限り,司法機関である裁判所は,それを尊重すべきである。
5 反応度抑制機能喪失事象についての本件安全審査の不備及び信頼性
(1)反応度抑制機能喪失事象における機械的エネルギーの解析評価の不備
<中略> しかるに,そのころは既に遷移過程の事象推移と再臨界に伴う機械的エネルギー発生の可能性の重要性は認識されていたにもかかわらず,証拠(乙9,14の3,原審証人H,同Aの各証言)を検討しても,本件安全審査において,遷移過程の事象推移などが評価された形跡は一切認められない。そうすると,原子力安全委員会は,この点の評価をしなかったと認めるほかはない。しかし,原子力安全委員会は,規制法24条1項4号の「当該申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること」を審査する機関であり,炉心崩壊事故を構成する上記のような極めて重要な事象について判断を省略するなどということは,到底許されないことである。評価をする適切な解析コードがないという事情はあるにしても,そのこと故に遷移過程の事象推移などの評価をしないことが正当化されるものではない。科学的,専門技術的見地からの審査が期待されている原子力安全委員会としては,たとえ適切な解析コードがなくとも,海外の評価例やこれまで実験によって得られた知識,データなどを斟酌して,少なくとも,遷移過程において再臨界が生じた場合の機械的エネルギーの上限をどの程度まで評価しておくのが安全上妥当であるかを判断すべき責務があるというべきである。
この点において,本件安全審査の1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象における炉心損傷後の機械的エネルギーの評価には,欠落があるといわなければならない。<以下、省略>
(2)本件安全審査全体の信頼性を疑わせる事実
ア 本件申請者がした解析に対する評価
(ア)本件の主要な争点に関する事項に限っても,本件申請者がした解析には,以下のとおり,明らかな誤り又は不適切と認められる解析がある。
(あ)既述(第2章,第3節参照)のとおり,「2次冷却材漏えい事故」に関し,その熱的影響の解析に誤りがあった。また,ナトリウム酸化物の鉄(鋼)に与える腐食機構の知見を欠いていたため,鋼製の床ライナの腐食についての解析は,全くされていなかった。しかし,腐食構造に関する知見は,本件許可申請当時でも,問題意識があれば,知り得た知見であった。
(い)本件申請者において,平成7年5月,本件原子炉を起動させて水・蒸気系起動バイパス系統の制御特性の確認試験を実施していたところ,同月22日,蒸気発生器Cループの給水流量が大きく変動し,それに伴いA,Bループの給水流量も変動し始め,本件原子炉が自動停止する事態が発生したが,その原因は,給水調節弁制御回路の制御定数の選定のための解析に際し,弁応答特性の評価が不十分であったため,適切な弁特性が解析に反映されず,安定制御領域の範囲を過大に予測していたことにあった(甲イ223,原審証人Aの証言)。
(う)本件ナトリウム漏えい事故後の安全性総点検に基づき本件申請者がした,蒸気発生器伝熱管破損事故に伴う高温ラプチャ発生可能性の検討において,伝熱管の膜沸騰発生時の熱伝達率の減少を十分反映しない解析が行われていた(第2章,第4節,第8の2)。
(イ)本件許可申請書には,本件原子炉施設の構造,機能,各種事象の評価その他について,本件申請者によってされた数え切れない程多数の解析の結果が記載されているところ(乙16),本件の主要な争点に関連するものだけに限っても,明らかな誤り又は不適切と認められる解析が3つもの事項についてあるということは,本件許可申請書における解析の中には,同様なものが少なからず存在すると考えなければならない。
しかし,原子力安全委員会の原子炉安全専門審査会委員として本件安全審査に関与した原審証人Aの証言によれば,原子力安全委員会は,本件申請者のした解析に不備や誤りがあるとしてその補正を求めたことは一度もないことが認められる。科学技術庁が安全審査をした結果をまとめた安全審査書案(乙9)を見ても,本件許可申請書の記載をそのまま書き写したか,又は要約したものに過ぎない。これでは,本件安全審査が本件申請者の主張にとらわれない独自の調査審議を尽くしたと認めるには多大な疑念を抱かざるを得ない。
イ 蒸気発生器伝熱管破損事故における蒸気発生器,中間熱交換器などの耐圧評価
(ア)蒸気発生器伝熱管破損事故におけるナトリウム−水反応による圧力上昇の蒸気発生器,中間熱交換器,2次主冷却系設備に対する影響について,本件許可申請書には,「伝熱管1本が瞬時に完全破断し,水がナトリウム中に噴出し始めると,水とナトリウムが急激に反応し,水素が発生する。このため破断初期において蒸発器胴部にはいわゆる初期スパイク圧が作用する。この初期スパイク圧力のピーク値は約23kg/cm2である。この場合,蒸発器の胴の歪みは小さく,塑性歪みは生じない。この初期スパイク圧の伝播に対して中間熱交換器2次側での圧力ピーク値は約12kg/cm2である。この場合中間熱交換器及び2次主冷却系の機器・配管は塑性歪みを生じるには至らず,各設備の健全性は保たれる。」,「また,初期スパイク圧減衰後から事故終止まで持続している準定常圧は,蒸気発生器において約9kg/cm2以下及び中間熱交換器2次側において約13kg/cm2以下である。準定常圧に対しても蒸気発生器,2次主冷却系機器・配管及び中間熱交換器の歪みは塑性歪みにも至らず,各設備の健全性が損なわれることはない。」と記載されている(第2章,第4節,第3の2参照)。
(イ)他方,科学技術庁が作成した安全審査書案の上記の事項に関する記載は,「解析結果によれば,破断初期において蒸発器胴部に作用するいわゆる初期スパイク圧力のピーク値は約23kg/cm2であり,蒸発器の胴の歪みは小さく,塑性歪みには至らない。この初期スパイク圧の伝播に対して中間熱交換器及び2次主冷却系の機器・配管は塑性歪みを生じるには至らず,各設備の健全性は保たれる。また,初期スパイク圧減衰後から事故終止まで持続している準定常圧は,伝熱管破損伝播による影響も含め,蒸気発生器において約9kg/cm2以下及び中間熱交換器2次側において約13kg/cm2以下であり,準定常圧に対しても蒸気発生器,2次主冷却系機器・配管及び中間熱交換器の歪みは塑性歪みには至らず,各設備の健全性が損なわれることはない。」というものであり,その内容及び表現とも,本件許可申請書とほとんど同一である(第2章,第4節,第4の2参照)。また,原子力安全委員会の内閣総理大臣に対する答申では,上記事項については全く触れられていない(乙14の3)。
(ウ)以上のとおり,安全審査書案は,本件許可申請書の記載をほとんどそのまま書き写したものに等しいが,そこには,伝熱管の破損によって生じる初期スパイク圧力や準定常圧に対して,蒸気発生器や中間熱交換器の健全性が損なわれることのない根拠が何ら示されていない。本件許可申請書(乙16)の添付書類八には,蒸気発生器のナトリウム側の最高使用圧力が5kg/cm2G,中間熱交換器の2次側の最高使用圧力が10kg/cm2Gであることは記載されているが,設計耐圧の上限に関する記載はない。上記の初期スパイク圧力や準定常圧の数値は,いずれも蒸気発生器及び中間熱交換器の最高使用圧力を上回るものであるから,これらの機器の設計耐圧の上限が分からない限り,これらの機器の健全性が損なわれないことの判断はできない筈である。科学技術庁及び原子力安全委員会は,一体如何なる根拠をもって,本件許可申請書の記載を妥当と判断したのであろうか。もし,本件申請者が審査段階で提出した資料などによって設計耐圧を確認したというのであれば,安全審査書案にその耐圧の上限数値が記載されて然るべきであるが,それがないということは,設計耐圧の確認はされていなかったと推認するほかない。さらにいえば,本件許可申請書に設計耐圧の記載がないということは,本件申請者も,蒸気発生器や中間熱交換器の耐圧の正確な上限値を把握できていない疑いすらある。
(エ)以上要するに,蒸気発生器伝熱管破損事故における初期スパイク圧力や準定常圧の具体的数値を確定し,それが最高使用圧力を上回るものであるにもかかわらず,蒸気発生器や中間熱交換器の耐圧を示すことなく,これらの機器の健全性が損なわれることがないと判断したことは,誠に無責任であり,ほとんど審査の放棄といっても過言ではない。
ウ 設計基準事象における単一故障の評価
<中略> 以上のことからすると,本件安全審査は,設計基準事象の解析の評価において,単一故障の仮定の有無を真実検討したのかについて重大な疑念を抱かざるを得ない。また,当裁判所は,少なくとも蒸気発生器伝熱管破損事故については,単一故障の仮定はされていないと判断するものであり,この点に限っても,本件安全審査の判断を正当なものと認めることはできない。
エ 以上の認定判断によれば,本件安全審査において,本件申請者がした各種解析につき,その妥当性が十分に検証,検討されたと認めるには疑問がある。また,本件許可申請書には,蒸気発生器伝熱管破損事故時における中間熱交換器などの機器の健全性が損なわれない根拠,並びに設計基準事象の解析における単一故障の仮定の有無などについて看過し難い不備があるにもかかわらず,審査機関がその補正を求めた形跡は全く認められず,むしろ,本件許可申請書の記述を無批判に受け入れた疑いを払拭することができない。
6 本件安全審査の反応度抑制機能喪失事象の機械的エネルギーの解析評価に対する判断
(1)<中略> 当裁判所は,原子力安全委員会が1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象における起因過程での炉心損傷後の機械的エネルギーの上限値を380MJとする解析を妥当とした判断は,これを尊重するに足りる適正な判断と認めることはできない。
(2)<中略> 本件許可処分後に本件申請者がした上記解析をもって,本件安全審査の瑕疵を否定する根拠とすることはできない。
7 本件許可処分の違法,無効
(1)本件許可処分の違法
原子力安全委員会は,本件安全審査において,1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象における炉心損傷後の最大有効仕事量(機械的エネルギーの上限値)を約380MJとした本件申請者の解析を妥当と判断し,弁論の全趣旨によれば,本件許可処分は,この本件安全審査に依拠して行われたと認められる。
しかし,本件安全審査は,遷移過程における再臨界による機械的エネルギーの評価をしていない点において,その調査審議の過程に看過し難い欠落があったと認められ,また,約380MJを起因過程の最大有効仕事量として妥当と判断した点においても,それが適正な判断であったとは認められない。そうすると,かかる重大な瑕疵のある安全審査に依拠して行われた本件許可処分は,本件争点(炉心崩壊事故)において控訴人らが主張するその余の点を判断するまでもなく,違法というべきである(第1章,第2節,第2の1参照)。
(2)本件許可処分の無効
本節における本件許可処分の違法事由は,「評価の考え方」が定める5項事象である1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象における炉心損傷後の最大有効仕事量(機械的エネルギーの上限値)に関する安全審査の瑕疵である。この反応度抑制機能喪失事象は,炉心崩壊事故に直接かかわる事象であり,即発臨界に達した際に発生する機械的エネルギーの評価を誤れば,即発臨界によって原子炉容器及び原子炉格納容器が破損又は破壊され,原子炉容器内の放射性物質が外部環境に放散される具体的危険性を否定できないことは明らかである。したがって,本節における違法事由は,本件許可処分を無効ならしめるものというべきである(第1章,第2節,第2の3参照)。
よって,本件許可処分は,この点においても無効であり,控訴人らの主張は理由がある。
第3章 結論
1 以上述べたとおりであるから,本件安全審査は,設計基準事故である「2次冷却材漏えい事故」及び「蒸気発生器伝熱管破損事故」並びに5項事象である「反応度抑制機能喪失事象」の調査審議及びその判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,また,「反応度抑制機能喪失事象」の最大有効仕事量の解析評価に対する判断も適正を欠くものと認められ,その本件安全審査の瑕疵により,本件原子炉施設については,その原子炉格納容器内の放射性物質の外部環境への放散の具体的危険性を否定することができず,かかる重大な瑕疵がある本件安全審査に依拠したと認められる本件許可処分は無効と判断すべきである。
2 ところで,本件申請者は,本件ナトリウム漏えい事故が発生したことを契機に本件変更許可申請を行っているところであり,この変更許可申請は,当裁判所が本件安全審査に瑕疵があると認めた上記の「2次冷却材漏えい事故」と「蒸気発生器伝熱管破損事故」に関連するものである。しかし,本件変更許可申請に対する被控訴人の判断は,本件口頭弁論終結時までになされておらず,本件変更許可申請は,本件の結論に何らの影響を及ぼすものではない。しかも,本件において,本件許可処分を無効とする理由は,本件変更許可申請がその対象としていない「反応度抑制機能喪失事象」の本件安全審査の瑕疵もその事由としているのであるから,本件変更許可申請は,如何なる意味においても,本件の結論を左右するものではない。さらにいえば,本件変更許可申請がその対象とした事項は,本件において当裁判所が審査の瑕疵と認めた具体的事項を是正するに足るものではない。このことは,これまでの説示に照らし明らかである。要するに,本件原子炉施設の安全審査は,全面的なやり直しを必要としているというべきである。
3 以上の次第であるから,本件許可処分の無効確認を求める控訴人らの請求は理由があり,これを棄却した原判決は取消しを免れない。よって,原判決を取り消し,控訴人らの請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
(
名古屋高等裁判所金沢支部第1部
裁判長裁判官 川崎和夫 裁判官 源孝治 裁判官 榊原信次)
主要略語表
本件原子炉 内閣総理大臣が動力炉・核燃料開発事業団に対して,昭和58年5月27日付けで設置許可処分をした高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市白木に建設が予定された液体金属冷却高速増殖炉で,研究開発段階にある原子炉)
本件原子炉施設 本件原子炉とその附属設備
LMFBR 液体金属冷却高速増殖炉
規制法 核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号)
動燃 動力炉・核燃料開発事業団
本件申請者 動力炉・核燃料開発事業団,又は法改正により動力炉・核燃料開発事業団が移行した核燃料サイクル開発機構
本件許可申請 動力炉・核燃料開発事業団が,昭和55年12月10日,規制法23条の規定に基づき,本件原子炉の設置につき,内閣総理大臣に対してした許可申請
本件許可処分 内閣総理大臣が動力炉・核燃料開発事業団に対して,昭和58年5月27日付けでした本件原子炉の設置許可処分
本件変更許可申請 核燃料サイクル開発機構が,平成13年6月6日,経済産業大臣に対し,規制法26条1項の規定に基づいてした本件原子炉の設置変更許可申請
安全審査会 原子力安全委員会に設置されている原子炉安全専門審査会
安全審査書案 科学技術庁が,昭和57年3月付けで作成した「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖炉もんじゅ発電所の原子炉の設置に係る安全審査書案」
本件安全審査 本件許可申請に対する安全審査
評価の考え方 「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」(昭和55年11月6日原子力安全委員会決定)
安全設計審査指針 「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針について」(昭和52年6月14日原子力委員会決定)
安全評価審査指針 「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」(昭和53年9月29日原子力委員会決定)
耐震設計審査指針 「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針について」(昭和56年7月20日原子力安全委員会決定)
設計基準事象 「評価の考え方」及び「安全評価審査指針」が定める「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」
設計基準事故 「評価の考え方」及び「安全評価審査指針」が定める「事故」
本件ナトリウム漏えい事故 平成7年12月8日,本件原子炉施設(2次主冷却系のCループの配管室)において発生したナトリウム漏えい事故
伊方最高裁判決 最高裁判所第1小法廷平成4年10月29日判決(民集46巻7号1174頁)
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